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その間にも、魔族の攻撃は止まることなく2人を襲った。
ダンツは全ての攻撃を己の身で受けながら、打開策を探る。
この攻撃を避けるには彼女の手を引く他ない。
しかし、力加減を間違えれば彼女に怪我を負わせてしまう。
しかし…この攻撃をいつまでも耐える事はできない。
いっその事逃げるか?しかし、どうやって…。
…そうだ!
「クレア!俺の背中に掴まれ!早く!」
「わ、わかりました。」
ダンツの指示に従い、クレアは大きな背中へとしがみついた。
「よし!しっかり掴まっておけよ!」
ダンツは敵の攻撃が止んだ瞬間に、両足に力を込めて後ろ向きに大きく飛び跳ねる。
すると、みるみるうちに地面は遠くなっていった。地上まで30mはあるだろうか。
このまま敵と距離を取れば逃げ切れる、そういった判断だった。
ダンツの思惑通り、敵の姿は段々と見えなくなってきていた。
「これなら逃げ切れる…か?」
そう思った矢先だった。
遠くから、黒いオーラの球体が2人に向かってきているのがわかった。
その攻撃は先程までの魔術とは違い、2人に狙いを定め追尾してくる。
少しずつ近づき、最後にはダンツの身体へと命中した。
…ッツ!
ダンツは声にもならない呻き声を上げ、2人は地上へと叩き落とされた。
ダンツは咄嗟にクレアを庇い、地面に叩きつけられる。
あまりの衝撃にダンツは鮮血を吐き出し、倒れたまま動かなくなった。
「そんな…ダンツさん…。」
ダンツを触れたクレアの手にはベッタリと血液が付着していた。
身体中に傷跡があり、身体の前面は特に酷い有様であった。
ここでクレアは己の誤ちに気付く。
ダンツは大柄の獣人で怪力の持ち主、故に身体の頑丈さも飛び抜けているものだと思っていた。
しかし、実際は少しタフな程度で、気丈に振る舞って誤魔化していただけだった。
それなのに、自分は緊張を理由に戦いから逃げ、その全てをダンツに肩代わりしてもらっていた。
この事態も至極当然である。
「ダンツさんも実戦経験なんてほとんどなかったのに…ごめんなさい…。」
クレアは後悔に涙を浮かべる。
その背後には、ローブを纏った魔族がすぐ側まで迫っていた。
魔族はうずくまるクレアに向かって黒い槍を放つ。
「どうやら…ここまでのようですね…。」
ダンツがこれ以上傷つくなら…と、クレアはその攻撃を受けようと身を投げ出した…
その時だった。
どこからともなく大柄の熊が飛び出し、身を呈してクレアを庇った。
槍の一撃を受けた熊は遠くへと吹き飛ばされる。
「そんな…なぜ…?」
驚きを隠せないクレアに対し、熊は大声を上げた。
その言葉を理解する事はできない。
しかし、クレアには「まだ諦めるな」と言われている様に感じた。
「そうですね…あなたの言う通りです。諦めるにはまだ…早すぎます…!」
その瞬間、彼女の右手が神々しい輝きを取り戻した。
力がどこからともなく溢れる、とても不思議な感覚。
これなら勝てるかもしれない。
クレアは右腕を魔族に突き出し、呪文を唱える。
「貫けっ!シャイニングアロー!」
そう唱えると右手から魔法陣が現れ、そこから光の弓矢が飛び出した。
キラキラと輝くその弓矢は魔族のローブをかすめた。
「もっと近づかないとダメみたいですね。」
クレアは魔族に向かって前進する。
魔族は近づかせまいと咄嗟に黒い刃を放った。
クレアは刃を避けきれず、肌に傷が刻まれる。
しかし、ダンツの傷と比べたら大した事はない。
「これで…終わりです!」
ッターーーン!!
そのまま魔族の目の前まで接近したクレアはゼロ距離で光の弓矢を浴びせた。
魔族は全身を光に包まれ、そのまま跡形もなく消えていった。
敵が消滅したのを確認すると、クレアはすぐにダンツの元へ駆け寄った。
「ダンツさん…しっかりして…!」
しばらく身体を揺さぶると、ダンツは少しだけ目を開いた。
「魔族は…どうなった…?逃げ切れたか…?」
こんな姿になってまで彼女の心配をするダンツ。
クレアは感情が抑え切れず、大粒の涙を流しダンツを抱きしめた。




