18-6
攻撃の意思を伝える殺気の道筋、それはアルトに一直線に向かっている。
要はこれを受け止め、その後に攻撃を仕掛ければいい。
ただ、これまで盾に頼ってきた彼にとってそれは容易な事ではなかった。
(剣は盾よりも受け止める範囲が狭い…だけど、相手の攻撃が直線的だから…多分大丈夫なはず…。)
シャッ!
その時、見えない敵の影がその場から離れてアルトの元へと動き出した。
気配からしてかなり速度が出ており、躊躇していたら間に合わない。
「ラインをしっかりと合わせて…ここ!」
アルトは咄嗟に刃の腹をラインに合わせる。
ガギィン!
その瞬間、街中に大きな金属音が響き渡った。
右腕に爪先が少し刺さってしまってはいるが、敵の攻撃を受け止められたのは間違いない。
あとは、剣を敵に振り下ろすだけである。
(姿形は見えませんが、まだここから離れていないのは間違いないはずです…!)
「はぁっ!!」
ブォン!
アルトは思い切り剣を振り下ろした…が、空を切っただけで感触は全くない。
あの一瞬で距離を取ったのだとすると、攻撃を受け止めてからでは到底間に合わなそうだ。
「やはり、これでは間に合いませんか…。」
それならばどうするか。
アルトは頭を抱えた…が、答えはすぐに頭に浮かんできた。
その答えとは【迎撃】である。
簡単に言えば、相手の攻撃に合わせる形でこちらからも攻撃を仕掛けるということ。
これならば余計な手順を踏む必要が無い。
しかし、アルトにとってそれは扱ったことのない技術であった。
(迎撃と言ったってどうすれば……あっ。)
その時、ふと思い出したのは隊長との訓練の記憶。
それは、まだ魔族が襲来する前の出来事である。
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約1年前。
入隊したばかりのアルトは、近衛兵の隊長ヴァンから剣技の鍛錬を受けていた。
「魔術を使用できない者にとって剣技はかなり重要な要素になってくる。例えば…。」
シャッ!…ゴトン。
彼が鞘から剣を抜くと、次の瞬間には目の前にある藁で作られた的が真っ二つに切り落とされていた。
それは抜刀術の一種であり、ヴァンの得意とする剣技であった。
「このように俊敏に、そして正確に振るう事で魔術に対抗できる手段となるのだ。」
「なるほど…。でも、私はヴァン隊長のような抜刀術は到底出来そうにありません。」
「ははっ、まぁ今はそうかもな。ただお前はいい眼を持ってる。それだけで才能はあると思うぞ。」
「…え?」
ヴァンの言葉にアルトは首を傾げる。
「さっきも言ったように、抜刀術に必要なのは正確さだ。俺の場合は、積み上げられた経験で測っているがお前には動きを読み取る目がある。それを活かせば会得するのもそんなに遠くない筈だ。」
「隊長…。そうですね、頑張ってみます。」
「いいぞ、その心意気だ。」
そう言うと、ヴァンはアルトの頭を優しく撫でるのであった。
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抜刀術、おそらくこれが隠れた魔族に対抗する唯一の手段。
だが、あれからも魔族が襲来するまで隊長から指導を受けてきたが、一度も成功することはなかった。
ただ、あの頃の自分とは違う。
いつか隊長達を助け出すために、寝る間も惜しんで鍛錬を積んできた。
今こそ、その成果を発揮する時である。




