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ここは、インジェンス王国。
人間、獣人、精霊などの様々な種族が1つの国の中に生息している不思議な世界。
この世界の所々に村や集落があり、それぞれの種族が協力し生活している。
そして、この世界を統治しているのが世界の西の端に位置するダミアン城。そこに居住する者達によって、世界の治安は護られていた。
しかし、世界の情勢はある出来事によって一変する。
とある日の夜、ダミアン城の上空に突然魔界と王国とを繋ぐ亀裂が現れ、大量の魔物が城内へと攻め込んで来たのである。
城内の兵士が対抗するも、圧倒的な戦力差によって次々と倒れ、ついには城の中心部への侵入を許してしまった。
国王は、この城が堕とされるのも時間の問題であること、また娘であるクレア王女が狙われていることを感じ取り、娘だけでも逃すために魔術でワープゲートを錬成し、嫌がる娘を半ば強制的に押し込んだ。
「お前だけでも逃げてくれ、後は頼んだぞ。」
その言葉と同時に、国王の姿は遠くへと消えていった。
「ふぁぁ、もう朝か。」
その頃、大陸の東端にあるダルムの森の中で1匹の獣、否、1人の獣人が目を覚ました。
彼の名前はダンツ、この森で産まれた育った熊である。
両親も大きな熊で、彼も同じ見た目をしていたのだが、歳を重ねるにつれて両親とは違う成長を遂げていった。
物心着いた時には2足で歩き、人間の言葉を話し、言葉を理解することができる、それはまさに獣人と呼ぶに相応しかった。
もちろん両親を含め動物と意思疎通することも可能である。
両親が亡くなった後、彼は言葉が喋れるという利点を活かし、森を下り人間と共に暮らそうと考えたこともあったが、彼の見た目に加え異様な能力を持つことから、人間から恐れられることとなり、結局森へと帰ってきてしまった。
それ以降、彼は森の中にある小屋で1人で生活をしていた。
「さて、森の様子を見るついでに晩御飯の材料でも探しに行くか。」
そう言うと、彼はベッドから時間をかけて降り、大きなカゴを慎重に抱え、小屋のドアをゆっくりと開き、森の中へと出かけていった。
森を歩いていると、小鳥や小さな獣がダンツの元へと近寄ってきた。
「おう、おはよう!今日もいい天気だな!」
彼はそれに応えるように片手を上げ挨拶をした。
この森では、彼が1番の実力者であるため、自分の身を守る為に小さな生き物は彼と行動を共にする。
彼は小動物に手を出さないし、天敵も彼を恐れて近づいてこない。これ以上ない安全地帯なのだ。
小動物達はそのお礼として、彼に毎日のように果物などを恵む。
まさにwin-winの関係である。
出かけたばかりではあるが、既にカゴの中には色々な食材が詰め込まれていた。
「さて、今日は魚でも獲りにいくかな。」
ダンツは小動物たちを連れていつもの川場へと向かっていた…その時だった。
「きゃあああああああ!」
静かな森の中に突然、何者かの悲鳴が響いた。
声の高さ的に女性の声か?
しかし、なぜこんな森に人が?
思考を重ねながらも、ダンツの脚は現場へと一直線に向かっていた。