死を確信した
初投稿です。稚拙な文章ですが読んで貰えたら何より
それはある暑苦しい夜の事だった
この日は俺が今の仕事に就いてから丁度3年目だからと、仕事仲間が俺を飲みに誘ってくれたのだった
人付き合いの苦手な俺は今までこういった事には参加しないようにしてきたのだが、この業界の人達はそんな俺でも何度も誘ってくれたので今では何か理由をつけては集まるようになった
夜の繁華街は右も左も人だらけで、普段家に篭っている俺には酷く辛いものがある
大通りから一本道をずれると人もまばらになってくる
馴染みの店まで後少しだ
「壱さん、こっちこっち!」
特徴のある聞きなれた声が聞こえた方を向けば今日の集いの面子が全員揃っていた
大柄な体でスキンヘッドにサングラスをした龍さん、その横にはホスト風のイケメン向井さん、ちょっと離れたところにバーコードな髪とスーツがビシッと決まった鉄さんだ
「壱さんも来たことだしもう店にはいろっか」
誰かが言うので一行は本日の目的地である小さな居酒屋に入っていくのであった
店の中に入るとこわもてのおっさん店長がなにか仕込みをしている最中だった
「店長今日もすいてるねぇ!」
と後ろから煽る声がするが店長はニヤッと笑みを浮かべながらいつもの席に案内してくれる
「今日は壱さんの記念日だろ。お前達はある意味有名人だから羽目を外せるように客払いしといたんだよ」
ここの店長は小さい店ながら時折とんでもないサプライズをしてくれる
「なかなか嬉しいサプライズしてくるじゃん店長」
向井さんが店長の方をバンバン叩きながらそう言った
「壱さんにはお世話になったからいいんだよ。お礼にまた揉んでくれればありがたいさ」
そういって店長は奥から今日の肴を次々運んできて最後に大ジョッキを5つ運んできて豪快にテーブルに置いたのだった
「今日は俺も飲むつもりだったんだよ。だれか今日の打ち上げの音頭をとってくんな!」
と店長が言い、全員の視線が俺に集まる。今日は俺が主役だから俺がしきらなければいけないらしい。俺は全員にジョッキを持つよう促した。
「今日は俺が今の業界に入って丁度3年です。正直ここまで続けられるとは思いませんでした。今思えばこの業界に入るきっかけもこの居酒屋で声をかけられたからです。未熟な身ですがこれからも頑張っていきたいと思ってます。では」
俺がジョッキを掲げると遅れて全員がジョッキを掲げた
「これからもよろしく!乾杯!」
「「「「乾杯~!」」」」
掲げたジョッキをぶつけ合い盛大に乾杯をし今日の宴の開幕を告げる
全員が豪快に一気飲みをした後、奥から追加の酒を持ってくる
「それにしてもあの日たまたま泥酔してた私が、きまぐれに声をかけた君がこんなになるとは思わなかったよ」
鉄さんが煙草に火をつけながら言う。このグループで年長の彼はスカウトもやっているのだ。
「鉄さんいっつもぼろぼろに酔ってるじゃないですか~」
「宴会行ったら要指定介護人だって皆言ってるぞ」
と龍さん向井さんが次々と煽る。鉄さんはいつも限界を超えて飲み続けるので誰か介抱しないといけないのだ
「煩いぞお前ら!俺は酔いの席でこそ人を見極められるんだから良いんだよ!」
すでに顔が赤くなり始めている鉄さんはネクタイを緩めさらに酒を煽りながら語り始めた
「だけどよぅ、壱に驚いたのは三回目の現場だったなぁ。ベテランのみっちゃんが急にお前をべた褒めしだすから何かと思ったら休憩中にやらせたマッサージが凄い良かったとか言い出すもん。みっちゃんがお前の噂を流したのか他の女優も次々話を聞きに来ては満足して帰ってくからピンと来たんだよ。うちでは扱ってないあのジャンルやらせてみたらどうだろうってな」
「へー、それが男優壱さんの誕生秘話って奴ですか。」
「そうだ。ちなみに名付け親は勿論私だからな!」
煙草を吸いながら自信満々に答える鉄さんだったが、
「海老反りの壱ってネタじゃないですか~」
向井さんがけらけら笑いながら言う
「現場じゃ女優さんの演技じゃない本気の姿が撮れるから良いんだよ。お客さんの受けもいいしな。うちの会社じゃ相手からのラブコールも壱が一番貰ってるんだから仕事も取りやすいしな」
「それ聞いたことあるんだけど壱さんのマッサージが良すぎて仕事後の方が身体が快調になってるって言ってたぜ」
俺のマッサージは業界ではちょっとした噂になる程度には有名らしい。昔とった杵柄といか経験が活かせているのが嬉しく感じる。
仲の良い同僚、一期一会の人達、大変だけど自分には合っている職場
海老反りの壱こと遠月壱はAV男優をやっているのであった
宴会が終わり案の定鉄さんはボロボロ酔っぱらってしまったので龍さんと向井さんが肩で担いで帰っていった。人もまばらになった夜の街を歩きながら帰路につく
今日は雲ひとつなく月明かりが道を照らしてくれる。店長に貰ったお土産の包みからは良い香りもする
月夜を楽しみながら歩いていると自身の住んでいるアパートの手前のトンネルまで来ていたようだ。住処の近くまで来て気持ちの良い散歩の終わりを感じた
トンネルに入ると月明かりが無くなったせいか暗く感じる。中の電灯は半年前から切れたままだからなおさらだ。淀んだ空気がトンネル内を満たしている
トンネルを半分程歩いて行ったところで急に酷い耳鳴りがし始め、突然の事に驚いた俺はその場にしゃがみ耳鳴りが収まるのを待った
やがて耳鳴りが収まり、今までに体験した事の無い耳鳴りに身体の異常を感じたのでとりあえず早く帰って休もうと思い顔をあげた時、トンネルの出口が妖しく光っているのを発見した
その光は不規則な形だがだんだんと強く大きくなっていき人工の明かりではないと確信した
「なんだあれっ!」
やがて光を中心に上下に裂けていく空間。とんでもなく嫌な予感がした俺はそれを背に来た道を走りだす
「ミ、ミツケタ。ミツケ、ケタケタケタケタケタケタ」
後ろからこの世のものとは思えない心臓を掴むようなゾッとする声が聞こえる
トンネルの一本道を走って走って月明かりとの境目が見えてきた。とにかく逃げなければいけないと思った俺は出口の後少しの所まで来ていた
だけど遂にたどり着くことが出来なかった
不意に後ろからまとわりつくナニかが俺を行かせまいとトンネル側へ引っ張っていくのだ。恐怖で頭が真っ白になっていた俺だが、自身を引っ張っているものを確認しようとして下を見たのだが半透明な何かが俺の邪魔をしているのが見えた。そしてこのとき俺は見たことを後悔した
手だ。幾つもの手が自身に絡み付いているのだ。粘液で出来たような手が俺を闇へ引きずり込むかの様に
足がすくんで動かない。やがてなすすべもなく後ろに倒されてしまった俺が顔を上にあげて見たものは指の一本一本ですら自分より大きな手だった
それはゆっくりと俺を包み込むと自身の出てきた穴へ戻り始めた
月明かりが遠ざかっていく。俺は自身の死を感じこの世との別れを確信し、恐怖に包まれながら気を失っただった
なろうの使い方分かりません><IT音痴とは俺のこと