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第4話 幻妖刀選抜コース

第4話 幻妖刀選抜コース


矢一と神宮寺は剣術ホールに向かった。剣術ホールでは、鬼立教官と訓練生たちが2人を待ち受けていた。


訓練生の一人が矢一と神宮寺のところに行き、竹刀を差し出した。2人は竹刀を受け取り、鬼立教官に体を向けた。


「神宮寺、俺が先に行ってくる」


「ダメだ、俺が先に行って早く片付ける。お前は俺の剣さばきを見て勉強でもするんだな」


「なんだお前、もういっぺん、言ってみろ」


「ああ、何度でもいってやる」


矢一が神宮寺を威嚇するように矢一に近づいたその時、神宮寺は矢一を睨んだ。

彼の体から、氷のような冷気が発せられた。


矢一は立ち止まり、大声で吼えた「お前のその冷気はなんだよ。このアイス野郎」


神宮寺は矢一を見据えて、呟いた「どうやら、教官の前にこの男を片付ければならんな」


その時、鬼立教官の怒鳴り声が聞こえた「お前たち、何をもめてるんだ。早くこっちへ来て、神楽居は左側、神宮寺は右側に立ちなさい」


「わかりました」と、神宮寺は鬼立教官が指示した場所に移動した。神宮寺の冷気はいつの間にか消えていた。矢一も首をすくめて、「はい」と応えた。


矢一は前方にいる訓練生を見渡した。さすがに剣術で鍛え上げた猛者ぞろいと思ったが、神宮寺のように得体のしれない気を発するものはいなかった。


鬼立教官が練習試合の進行とルールについて、説明した。


「これから練習試合を行う。お前たちの相手は5名ずついる。一人との対戦が終わったら、勝敗に関わらず、次の対戦相手と交代する、それだけだ」


「待ってください。教官俺たちと試合をするんじゃなかったんですか」

神宮寺も「俺も教官と試合がしたいです」


「まあ、俺とやりあうのは少し早すぎると思う。今日は先輩たちに稽古をつけてもらうんだ」


「だが、お前たち二人は張り合っているようだから、勝ち数が多い方を勝ちとしようじゃないか。ただし、俺と試合をしたいのなら、最低3本以上は取ることだな」


「試合自体は防具はつけていないが、剣道に準ずるものとする。突きは禁止とし、立ち合い前後の礼も省く。何か質問はあるか」


神宮寺は「ありません」と答えた。矢一は剣道の有効打突のルールが苦手であった。「填園崩し流」は実戦の剣術という立場をとっている。そして、実戦では指一本でも切られれば戦力は落ちるので、「填園崩し流」の試合では、竹刀が当たった体の部位は使えないとのハンデが課せられる。困ったなと思ったが、この場で躊躇しても仕方ないので、「ありません」と答えた。


矢一は開始線に立ち、試合開始の合図と共に正面の相手を見つめた。相手は痩体で背が高く、色白でどちらかと言えば優男の風体であった。

矢一は正眼に構えた。相手は上背が高い分リーチが長いので、上段からの引き面を警戒しなければと考えた。


しばし、にらみ合いが続いていたが、矢一は慎重に摺り足で歩を進めていった。相手は上段の構えのまま右に移動しながら、矢一の動きを見ている。矢一は、相手の技量が並々ならぬことを感じた。

矢一は相手に合わせ、左側に移動した。

相手は不動の構えをとった。

矢一は切っ先を振りながら竹刀の切っ先を下げ、下段の構えに移し、相手の出方について考えた。


「右に動くか、それとも...」


その瞬間、「キエー」という絶叫のような声がした。同時に頭上にブーンという鈍い音と共に竹刀が矢一の頭上を襲った。


矢一は。反射的に後ろへ飛んだ。

第1撃はなんとか避けたが、信じられないことに竹刀がさらに矢一を追って伸びてきた。

矢一は相手の左側に回り込もうとした。今度は矢一を横から薙ぐような強烈な胴打ちが矢一を襲った。

矢一は竹刀を立て、攻撃を打ちとめたが、弾き飛ばされた。


「待った」と審判役の訓練生が声をかけた。

「元のラインに戻りなさい」

矢一は驚いていた。ここにいる訓練生たちは当然、強いとは思っていたが、練習試合で剣道ルールということで甘く見ていた。「こいつは俺を殺そうとしている。そういえば、ここでの訓練で命を落としても文句はいえないんだったな」と、矢一は、提和教務部長に誓約書を提出したときのことを思い出した。「ならば...」と矢一は立ち合いの位置に戻り、正眼の構えをとった。


相手の目に殺気が走った。「キエー」という掛け声とともに、上段から竹刀が振り下ろされようとした瞬間、矢一が一気に相手の懐に飛び込み、相手の右小手をとらえた。

「やった」と思った、その瞬間「浅いっ」という審判の声が聞こえた。

「えっ、嘘だろ」と言いかけたその時、竹刀の強烈な打撃がを襲った。矢一は、とっさに竹刀で頭をかばい、相手の攻撃を受け止めた。竹刀への衝撃が腕に伝わり、腕がしびれたが、矢一は強く前に出て、相手の体を押した、相手は構わず竹刀を振り上げ、再度の攻撃を仕掛けようとしたが、その時、矢一の竹刀は相手の胴を捉えた。「今度はどうだ!」と思った。

「一本」という審判の声が聞こえた。


審判が「佐田、後ろへ廻れ」と言った。矢一は初めて相手の名前を知った。

審判は「次は天風だ。神楽居も開始線について」といった。


次の天風は中肉中背で、顔つきからは特徴を感じさせなかった。


審判が「始めっ」と声をかけた。

その瞬間、天風が矢一の小手に打ち込んできた。

天風の小手打ちは鋭かったが、矢一はこれをぎりぎり避け、天風の頭上に竹刀を振った。

天風は左に避け、距離をとった。


矢一は立ち止まり、上段に構えた。

天風は左右に体を振っていたが、いきなり矢一の左へ廻り込もうとした。天風の左手の小手にスキを見つけた矢一は、上段から天風の左手へ竹刀を振り下ろした。手ごたえを感じた瞬間、竹刀が腹部に当たるのを感じた。天風は左手の痛みをこらえながらも、矢一に右手一本で抜き胴を放ったのであった。


審判は「天風、胴浅い。神楽居、一本」

矢一は試合には勝ったが、勝負には負けたと思った。


少し項垂れて、開始線に立った。

審判は「次は長倉」と言った。


長倉は背は天風より高いが、前の2人よりも太っている。そして、目が開いているのか閉じているのかわからない、細い目が特徴であった。


矢一は正眼に構え、長倉を見つめた。長倉の表情は読み取れない。しかも、不動の構えである。

矢一はこちらから仕掛けることにした。相手の気配を探りながら、面に打ち込んだ。

長倉はほとんど動かず、竹刀で矢一の打ち込みを止め、同時に矢一にぶつかってきた。

矢一は長倉の体当たりに息が止まった。

長倉は矢一を弾き飛ばし、続けて矢一の頭上に竹刀を振り下ろした。強力な一撃を竹刀で防いだが、仰向けに倒れた。

「待て」との掛け声がした。「填園崩し流」では転倒した後の態勢でも、相手の足を含む下半身を狙う技があり、むしろ俺は得意なのにと、矢一は思った。


矢一は立ち上がった。こいつは、剣術より相撲の方が向いているんじゃないか。

矢一はスピードで勝負することにし、長倉の右側に回り込み、スキを狙った。背後に回った瞬間、矢一は驚いた、長倉は首だけを真後ろを向け、ニタッと笑った。

矢一は、「こいつ、悪魔か?」と驚いた。


その時、横払いに竹刀がとんできた。驚いたことに、長倉は後ろを振り向きながら胴を払ってきたのだ

矢一は辛うじて後ろへ逃げた。長倉は再び矢一と対峙した。


矢一は再び長倉の右へ廻り込んだ。長倉の切っ先が矢一を追う。矢一はスピードを落とさないまま、動きに変化をつけた。長倉の顔に焦燥感が見えた。丁度、正面に来た矢一に打ち込んだ瞬間、長倉の胴にスキが出た。矢一はすかさず胴を抜いた。快心の一撃であった。


審判は「神楽居、一本。次は以蔵」と告げた。


以蔵は今までで一番小柄で、特に威圧感は感じなかったが、蛇のような目つきをしていた。竹刀を構えないまま、何も考えず立ちすくんでいる様であった。

矢一は、正眼の構えをとった。


以蔵の目が光った。まるで蛇が獲物に近づくように、スルスルと矢一の近くに忍び寄ってきた。

矢一は不気味に感じた。矢一は決して以蔵を近づけようとしていた訳ではなかったのに、いつの間にか距離を縮め、彼の懐まで接近してきたのだ。

以蔵は舌なめずりし、竹刀の柄の部分で矢一の腹をついた。

矢一が大きく飛び退こうとした瞬間、以蔵は矢一の足を引っかけた。矢一は背中と腰をしたたかに打った。


審判は何も言わない。

以蔵は矢一を見下ろしている。その様子は、まるで鎌首をもたげ、ネズミを飲み込もうとしている蛇のようであった。


ここで、審判が「以蔵、離れろ。神楽居は開始線に戻れ」と指示した。

矢一は立ち上がり、開始線に向かった。今度、矢一は上段で構えた。


矢一はその瞬間、以蔵が竹刀を前に向けながらで矢一に向かって走り出してきた。胴を狙っているのかと体をずらして避けた。以蔵は矢一の脇をすり抜けざまに、竹刀の先で矢一の腰を突いていった。

矢一は振り向き、竹刀を振り下ろしたが、以蔵に当たらなかった。


矢一の腰に激痛が走った。「あの野郎、汚い手ばかり使ってきやがって」

以蔵は、また向かってきた。


「こてっ、こてっ、こてっ。シャー」


「こいつは、同じところばかり狙ってきやがる」


突然、以蔵の切っ先が矢一の顔面に伸びてきた。矢一はびっくりしながらも、避けた。

次の瞬間、以蔵が矢一の足を思いっきり踏んだ。矢一は痛みをこらえながら、竹刀を振った。

以蔵には当たらなかったが、その時、審判の声が聞こええた。

「以蔵、警告!もう一回、同じことをすれば、お前の反則負けとする」


矢一は、足と腰の痛みがあったが、気持ちを落ち着かせた。

以蔵の表情はうれしさで輝いていた。


「こいつは、人を痛めつけることに喜びを感じる変態野郎だ。そっちがそのつもりなら、こちらも、同じように出るだけだ」

矢一は、上段の構えで以蔵に向かった。以蔵がそろりと近づいてきた。

矢一は面うちを放ったが、以蔵は竹刀で避けると、身を屈め、矢一の足を竹刀の柄で突こうとした。


矢一は体を左にずらしつつ、一本足の態勢で以蔵の小手に強烈な打撃を加えた。

以蔵は竹刀を落とし、苦悶の表情を浮かべた。


審判は「神楽居、一本。次は加茂」と告げた。


矢一は背中と腰をさすりながら、開始線に歩いて行った。

加茂は筋肉隆々の大男で、すさまじいパワーの持ち主であることを感じさせた。


加茂はこれまでの相手と違い、礼をしたので、矢一も返した。


「こいつはできる。今まで、面うちはフェイントでしかしなかったが、今度は本気でしなければならないかもしれない」と矢一は思った。


その時、神宮寺の試合場の方から「くうー」という悲鳴が聞こえた。神宮寺の足元に訓練生が身もだえるように倒れていた。

他の訓練生たちも、倒れていたり、頭から血を流していたりするものもいた。

どうやら、神宮寺は全員を先頭不能にしたようだ。


「あの野郎、味方に容赦がないんだな」と呟いた。


その瞬間、「面っ」という大声と共に加茂が飛び込んできた。

矢一は竹刀で留止めたが、腕がしびれ、体も後ろに飛ばされた。

先に以蔵に受けた、腰と足のダメージがよみがえった。


矢一はゆっくりと立ち上がった。

加茂は容赦のない連続攻撃をかけてきた。


矢一は何とか相手のスキを見つけようとしたが、それ以上に加茂のプレッシャーが強烈で、後退する一方であった。

いきなり、強い衝撃があり、竹刀が飛ばされた。矢一は負けを覚悟した。

その時、加茂の動きが止まった。


「場外」審判の声が聞こえた。

「えっ、場外なんてあったの?」と矢一は思った。剣術コーナーがかなり広かったので気づかなかったが、ラインが引いており。矢一はその外にいた。


矢一は、素早く開始線に戻った。

「先制攻撃を仕掛けるしかない」矢一は加茂に向かい、小手、面への連続攻撃を仕掛けた。

矢一は、4人連続の戦いと、先に以蔵から受けたダメージで体は疲労していたが、気持ちはむしろ乗っていた。矢一の攻撃に加茂にスキが見えた。矢一は胴を打つと見せ、面に竹刀を打った。


「神楽居、一本」、審判が告げた。

加茂はニヤリと笑い、一礼をして下がった。


矢一は息をついていた、ここまで、30分を経過していた。

加茂以外、次回に戦えば一蹴する自信はあったが、やはり疲れていた。


その時、「神楽居、神宮寺、こちらへ来い」と鬼立教官の声が聞こえた。


矢一は、少し足を引きずりながら、鬼立教官の方へ向かっていった。


<第5話へつづく>

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