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アオハルロックンロール  作者: 松宮 奏
9/11

青春呂久フェスタ前日

タイトル 宝者


貴方が今持ってる宝者は

明日にはガラクタかもしれなくて

ふとした拍子に移り変わる

所詮心なんてそんなもので


永遠なんてないから

保証なんてないから

自分で自分を自分じゃないと

思えてしまうことだってあるから


だからこそ今の宝者を

なるべく手放さないように

愛せる者には全力で愛を注ぐんだ


貴方が今持ってる宝者は

明日には無くなってるかもしれなくて

あっという間に消えてしまう

頑丈そうに見えて 脆くて儚い


永遠なんてないから

保証なんてないから

願ったって叶わない時もあるし

いつか必ず終わりもくるから


だからこそ今の宝者を

ならべく後悔を減らすように

愛せる時には全力で愛を注ぐんだ

愛せる時には全力で愛を注ぐんだ


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 俺は雄介が作った歌詞を手書きで書いた紙に持って眺めていた。勿論、歌詞は全て頭に入っているが、文字にして眺めるとその言葉達が生き物みたいに意思があるような感じがして好きなのだ。

 夏休みの間、雄介は青春ロックフェスタでやる楽曲をさらに二つ作った。一つは「宝者」という曲。俺は雄介が作ったどの楽曲も好きだ。俺も曲作りを何か手伝えないかと言ったが、雄介は役割分担だと言って、俺にはひたすら歌の練習をさせるばかりだった。ただ雄介が作った曲を歌うというだけの練習ではなく、雄介が昔お世話になっていたというボーカル講師の先生に作って貰ったメニューを練習した。朝起きて8時にカラオケに集合、17時まで。雄介と合わせたり、雄介が曲を作ってる時はボイトレのメニューをしたりしてみっちり練習。家に帰ってからは喉も休めるように雄介には言われたけど、夏休み後半になると自分の歌が上手くなるのが楽しくて、喉を壊さない程度に毎日歌った。そんな生活を続けていたおかげで、今では普通のカラオケの採点では95点以下の点数は出せなくなった。

 

 今日は文化祭前日。体育館で青春呂久フェスタに出演する人達がリハーサルを行なっており、俺と雄介も参加する。今演奏をしている吹奏楽部のリハーサルが終わったら俺達の番だ。俺は手書きで書いた「宝者」の歌詞をポケットにしまって、ステージ袖からフロアを見渡した。全校生徒千人ほどが収容出来る体育館。数十人の準備委員が忙しなく設営をしているこの場所が明日はどれだけ埋まるのかまだ想像がつかないが、自分が歌っている姿を想像すると楽しくなった。

「おい、和真。俺達の番だ。いこう」

 後ろから雄介の声が聞こえて、一緒にステージへ移動する。リハーサルで確認するのは、ギターとボーカルの音の出方、ステージに立った時のフロアの見え方くらいだ。本番さながらに曲を演奏したり、劇を通しでやってみたりするグループもあるが、青春呂久フェスタ当日審査委員を務める生徒も準備委員としてこの場にいる可能性があるため、新鮮さと驚きを持たせるために実際の演奏はしないというのが雄介の考えだ。

 順調にリハーサルを進める。明日の本番では20分の持ち時間が各グループに与えられる。俺達は「カゲロウ」と「宝者」の2曲を演奏する。もう一つ曲があるが、その曲はもしもの時の為の秘密兵器のような曲だ。20分の持ち時間で2曲と考えると少ない気もするが、そこも取っておきの秘策を考えている。

 俺はステージ中央に置かれたスタンドマイクを通して体育館全体に声を響かせる。やはりカラオケルームの狭い部屋とは違って、思っているよりも声量が必要だ。かと言って出し過ぎても音が割れたり綺麗に伸びなかったりする。何度か繰り返し声を出して適切な声量を見極めた。フロアで会場設営をしていた準備委員がみんな気がつくと俺の方を見ていた。

 なんだ!?なんなんだ!?

 俺はそっちを驚いた顔で見返す。

「みんなお前の歌声に聞き惚れてるんだよ」

 雄介が俺の疑問に笑って答えた。そういう雄介はやはり、自分の演奏は本番までとっておきたいらしく、米粒みたいなぶつ切りの音で、自分の演奏が上手い事を悟られないように音の確認をしてる節がある。そんな雄介の演奏に明日は度肝を抜かれる奴がどれだけいるかと想像するとなんだか可笑しくて、俺も雄介に笑い返した。

 自分達のリハーサルが終了すると、他のグループのリハーサルも終了するまで適当に待った。何故帰らないかと言うと、今日はもう一つ大事な事があるからだ。明日の出演順番決めだ。全グループのリハーサルが終了すると、出演者が多いグループは代表数人だが、青春呂久フェスタに出演する全グループが集められた。

「今から皆さんにはこの箱の中に入っているボールを取って貰います。そのボールに書かれた番号が明日の本番で出演する番号となります」

 緊張した面持ちで司会をするのは柏原だ。明日出演するのはクラス個人合わせて30組で例年と例年通りの参加人数らしい。

 体育館のフロアに横に悩んだ出演者達が柏原に呼ばれて次々にボールを引いていく。引かれた番号を、用意したホワイトボードに別の準備委員の生徒が書いていく。俺達の名前が呼ばれて、俺がボールを引きにいった。

「何番を希望してるの?」

 ボールの入った箱を持った柏原が俺に聞いてくる。

「何番でもいい。けど、誰の後かが重要だって雄介が言ってた」

 丸く穴の空いた箱の中に手を入れて、ゴソゴソと探す。いくつかあるボールの中から一つを選んで掴むと一気に取り出して番号を確かめる。確かめた後、後ろにいた雄介と、それから柏原にも番号を見せた。

「26番です」

 と柏原がホワイトボードの前で待つ準備委員に伝える。ホワイトボードに視線が集まる。26番の所に俺達の名前が書かれた。誰の後かが重要と言っていた雄介の言葉を思い出す。

 25番に書かれた名前に目をやる…

 そこに書かれていたのは、良樹達の3人組だった。

 思わず首を向けると、少し離れた所から3人がニタニタして俺と雄介の方を見ていた。

 この抽選が吉と出るか凶と出るか。雄介の思惑通りなのかどうか。始まってみなければ分からない。


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