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アオハルロックンロール  作者: 松宮 奏
8/11

反逆のドロップキック

 腹に重たい衝撃を喰らった俺は呻き声を上げながら数メートル後方に後ずさってバタリ仰向けに倒れた。 

 青い空には大きな綿飴雲が浮かんでいる。

 サシで勝負しようって言うからそれなら勝てる自信があった俺は意気揚々と挑んだが、そんなのは嘘で、良樹と智哉にあっという間に腕を掴まれて無防備になった腹に道弘のドロップキックが炸裂した。何処までも汚えやつらだ。こんな奴らが音楽をやってるなんて。しかも上手いだなんて。俺は好きな物を思いっきり汚されてるような感覚でヘドが出そうだった。音楽には神様なんていないのかなと思った。このままやられっぱなしで終わりたくない。なんとかして身体を起こそうとするが、道弘のドロップキックが思ってたより効いたのか、力が入らない。3人は大の字に仰向けで倒れている俺の顔面や腹に容赦なく蹴りを入れてくる。受け身も取れないから流石にグロッキーだ。

「ちょっと。もう辞めなよ!!!何があったか知らないけどよってたかって卑怯じゃない。後で先生に言うからね」

 揃えて挙げた両腕の手首の部分を学生ベルトで排水管と固定された柏原が泣きそうな顔になっている。3人は一瞬動きが止まった。智哉と道弘が少しだけ不安そうに良樹の方を見る。

「ハハ。大丈夫だよ。後でお前の事もたっぷりいたぶってやるから。犯して恥ずかしい写真でも撮ってやったらそんな事出来ねえだろ」

 どこまで本気か分からないが、ヤクザ映画の見過ぎとしか思えない脅し文句を良樹が放つと、いいねそれ!と道弘と智哉が猿みたいな声を上げる。

 これから起こる未来の予告をされた柏原は言葉を失って青ざめた顔になっている。俺は柏原だけでも逃したいと思って3人が気を取られているうちに立ち上がろうとしたが、やはり思うように身体が動かず、一層3人にリンチされた。

「おーい、おいおい。その辺にしとけよお前ら」

 虚になっていた意識の中でなんだか聞き覚えのある声が聞こえてきた。幻聴か!?雄介の声だった。 

 ムクリとクビだけ上げると、柏原と排水管を繋いでいた学生ベルトを大きめなハサミで切っている所だった。「あー俺のベルト」と情けない声を智哉が上げている。

「誰だよお前。辞めねえよ。こいつがみちに何やったか知ってんのか。制裁を加えてやってんだよお前もやられたくなかったら大人しくみとけ」

 目の血走った良樹が雄介を睨む。

「何やったかは知らないけど。それ以上やったらそいつ死ぬぞ?そいつは俺の声なんだ。だから許してやってくれ」

 雄介は素っ頓狂な顔をして答える。

「声!?何言ってんだこいつ。いいや。こいつからやっちまおうぜ」

 良樹の号令で3人は雄介の方へ睨みを聞かせながら歩み寄っていく。雄介はふうとため息をついてやれやれと言った感じでポケットに手を突っ込みスマホを取り出して3人に向かって掲げる。3人は一瞬ギョッとなって止まる。その隙に雄介は手早くスマホを操作してもう一度掲げる。そのスマホには柏原が暴力を辞めるように嘆願している所から3人が俺をリンチしている所も。一部始終が動画に収められていた。

「こんな動画、学校にバレたら確実に停学。いや退学だろうな。いや、それどころか警察に見せたらどうなるか。一番見られたくないのは親だろ?こんな進学校に通って成績優秀。そんなかわいい我が子を演じてるお前らが裏ではこんな事してたなんて知ったらお母様泣いちゃうぜ」

 3人はただ黙っている。手も足も口も出ないといった感じだ。良樹が舌打ちしていくぞと2人に声をかけてトボトボと歩き出した。

「まて」と良樹がスマホを掲げたまま3人を呼び止める。

「今後、和真にも柏原にも俺にも一切手を出すな。それがこの動画を広めない。条件だ」

「分かったよ。そいつには十分制裁を加えたし、もういいよ」

 ぶっきらぼうに良樹が答えて3人がまた歩き出す。

「まて。まだだ。それだけじゃ和真の気が収まらない」

 確かに気は治らないがこれ以上なんだって言うんだろう。その場にいた全員が雄介に耳を傾ける。

「お前ら。夏休み明けの文化祭、(青春呂久フェスタ)今年も出るんだろ?俺らも出るんだ。俺らは音楽でお前らをぶっ倒して青春呂久杯を取るつもりだ。そこでどうだ?負けた方が勝った方の言うことをなんでも聞くっていうのは」

 雄介は不敵な笑みを浮かべてる。3人は顔を見合わせた。

「ぷっ。ハハハハハハ。そいつとお前が!?何をやるって!?俺たちに音楽で挑む!?ハハハハハハ。いいよそれで。負けてから後でっぱり無しとか言うなよ。裸で逆立して校庭10周走ってる所をスマホで撮ってやるからな」

 考える事が幼稚で下品だ。俺はもちろん口には出さずにそう思った。それだけ言うと3人は去っていった。

 雄介と柏原が俺に駆け寄ってくる。「立てるか」雄介が差し出して来た手を掴んで、ありがとうと言って立ち上がった。まだ腹がキリキリ痛む。雄介の肩を借りて歩き出す。

「いつからいたんだ?」

「ずったいたよ。すぐ忘れ物とって追いかけてようとして校庭に出たら柏原とお前が腕組んで歩いてて、黙って後つけようとしたら、3人組に連れて行かれて。ビックリしたよ」

 人の気も知らないで雄介は何故か楽しそうに話してる。それならそうともっと早く助けてくれよと思ったが助けられた手前そんなことは言えない。

「でもこれで優勝しなきゃいけない理由が一つ出来たな。ヤクザ漫画の世界じゃないんだ。暴力の仕返しは暴力じゃなくていい。あいつらの演奏が霞んで見えるくらい完膚なきまでに叩きのめしてやろうぜ」

 そう言って弾ける笑顔に変わった雄介に俺は勢いよく頷いた。

 なんだか雄介は凄いやつだなぁとぼんやり思った。

 あれ!?そういえば俺の鞄は…

 後ろを振り返ると俺の鞄を持って柏原がついて来ていた。俺は柏原の事もちょっとだけ見直した。


 はあーいてててて。

 俺は自分の部屋のベットに横になる。まだ体のあちこちが痛んで思わず声が出る。さっき鏡を見ると右目と唇あたりが腫れていた。歌に支障は無さそうだが、母ちゃんが心配しそうだ。今日は一応大事をとってそのまま家に帰る事にして、柏原とは校門で別れて雄介に肩を借りたまま家まで送って貰った。明日からは夏休み。なんの邪魔もなく思う存分たっぷり歌えると思うと、顔の痛みなんか忘れそうなくらい、ベットの上で踊りそうになるほど、楽しみだった。

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