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アオハルロックンロール  作者: 松宮 奏
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青春呂久杯

「文化祭があるのは夏休みが明けて少し経った9月の後半よ。体育館の舞台に大きなステージが設置されて、各クラスや個人、少数グループでの出し物が行われるの。(青春呂久フェスタ)と呼ばれていて、まあそのまま高校の名前。青春呂久フェスタにはいくつか賞があってまずは、青春絆賞と青春謳歌賞。青春絆賞はクラス毎に行われた出し物の中で1番優れていたクラスに送られるの。青春謳歌賞はそれ以外の参加した個人や少数グループの生徒に与えられる。さらにこの二つの賞とは別にもう一つ。「青春呂久杯」という名のこれまた名前通りな1番大きな賞がある。青春呂久杯はクラスや個人合わせて1番会場を盛り上げた、クラスまたはグループまたは個人に送られる賞よ。学校創立以来ずっと続いてる青春呂久フェスタ。この行事から何人か著名なアーティストやお笑い芸人を輩出しているだとか、青春呂久杯に輝けば歴代のOBから素晴らしい景品が贈られるとか、内申表に大きな影響があるだとか。ある事ない事、様々な憶測が飛び交って、青春呂久フェスタに出場する生徒は青春呂久杯を本気で取りにくる生徒達ばかり。中には自分の生徒に青春呂久杯を取らせる為に必死になって指導をする教員すらいるよの。ちなみに、例年、クラス個人合わせて30組近くが参加するわ」

 俺は首がガクンと落ちた衝撃で目を開いた。聞いているつもりが半分寝てたらしい。柏原の説明は長い。

 時は経ち、一学期も今日が最終日。終業式も終えて颯爽といつものカラオケに練習に行こうとしたら雄介が柏原を連れてきて、柏原が説明を始めた。

「大まかには分かった。たが、その賞は誰がどういう基準で決めるんだ?」

 柏原の長い説明にも飽きずに聞いていた雄介が疑問を口にした。

「そう。それを今から説明するわ。生徒会役員の中から1人青春呂久フェスタ実行委員長が選ばれるの。選ばれた実行委員長が今度は審査委員となる10名を選ぶ。10名の審査委員は100点満点の持ち点があってそれぞれの出し物が終わると点数を書いた紙を準備委員が持つ箱に投票する。その10人の審査委員の得点にプラスαして、フェスタ終了後、フェスタを観客として観ていた生徒達も自分が良かったと思える出し物に投票を行えるの。但し、出し物に参加した当人達は当人への投票は不可能。投票出来るのは1人1票1つの出し物まで。観客は学校全体で行われている文化祭の出店とかに行ったりして最初から最後まで観ている訳じゃないから審査委員と比べて配点は圧倒的に低くなってるわ。八百長とかも出来ないように文化祭当日まで誰が審査委員をやるかも決してバラしてはいけない様になってる。バラしたら停学とかそういう噂もあるし。と、まあこんな感じで(10人の審査委員、各100点満点の合計1000点。プラスα観客の点数)で1番高い点数を出したグループが青春呂久杯を獲得するってわけ。惜しくも青春呂久杯に届かなかったグループで、青春呂久杯を除く、一番得点が高かったクラスが青春絆賞。個人で一番得点が高かったグループに青春謳歌賞が贈られる。ざっとこんな感じよ」

 話しの途中から起きた俺は話し終えた柏原が拍手でもして欲しそうな目でコッチを見ているのを気付かないフリをしてやった。

「なるほど。だいたい分かった。八百長とかはちゃんと出来ない様になってるんだな。それが一番気になってた所でもあったんだ。ありがとな柏原」

 雄介がポンッと柏原の頭を叩くと柏原の顔は苺の様に赤く染まった。

「おい。和真。せっかく終業式午前中に終わったんだし今日は夜まで練習するぞ」

 そらきたとばかりに俺は目を輝かせて立ち上がった。

「俺はちょっと忘れ物したから先にいっててくれ」

 そう言って雄介は教室を出た。俺も鞄を待って教室を出ようとしたが、その前に教室に置いてけぼりになってる柏原に近づいた。柏原が怪訝そうな顔を俺に向ける。

「お前。雄介の事好きなんだろ?分かるよ。あいつかっけえもんな」

 柏原はまた苺みたいになった。俺はそういう事すぐに分かるんだ。柏原の肩に手を置いてうんうんと頷いた。

「そ、そんなわけないでしょ」

 柏原は明らかに取り乱して俺の手を振り払った。

俺 はなんだかおかしくて、クハハと笑いながら教室の扉へ向かって歩き出した。

「待って」

 柏原の声で振り返る。顔はまだほんのり赤い。

「私も練習場所に連れてってよ。特に何もする事なくて暇なんだよね」

 柏原はいじらしく後ろで手を組んで俺を上目遣いで見つめる。少し考えたが、正直練習を観に来られるのは嫌だった俺は顔を正面に戻して、何も言わず走り出した。

「あっ、まて!!!」

 柏原は俺を追いかけてきた。


「捕まえた〜」

 校舎を出て校門へ向かうまでのグラウンドの中央辺りで俺は追いかけて来た柏原に捕まった。

 嘘だろ!?

 階段は一個飛ばしで駆け降りたし、ちゃんと声も出して全速力で走ったのに、、、女の癖に追いついてくるなんて何者だ。しかも可愛く言ったつもりかも知れないが可愛くないぞ。テレビで見た獲物を狙う鷹の眼をしてる。いやあ恐ろしい。柏原にガッチリと掴まれた腕を振り払おうとしたが、何度やってもダメだったので、隙を見て逃げてやろうという魂胆を企てて、仕方なく従ったフリをして柏原に腕を掴まれたまま歩き出した。

 

校門に近づくと人影が見える。もう大抵の生徒は帰ったか、残っていても部活をやってる生徒なのにこんなところにもまだ生徒がいるとは。

 腕を持たれたままで歩きづらいなと思いながらも更に校門に近づく。ゲッ。俺はその人影を見てめんどくさい事を思い出した。一つだと思ってた人影は後ろからニュッと、加えて二つ姿を現した。その人影の正体は例の3人組だ。去年MANIMAのコピーバンドで青春呂久フェスで優勝し、俺にしつこく絡んで来てた3人組。

 嫌な予感がした。

「おいおい。人の事病院送りにしておいてお前は女とデートかよ」

 俺がドロップキックをお見舞いした道弘が大層不機嫌そうな顔で睨みつけてくる。こっちこいよと無理矢理腕を引っ張られ、俺は体育館裏へ連れて行かれた。ついでに何故か柏原も一緒に。

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