宣戦布告
次の日の朝。登校するやいなや校門で担任に見つかり、職員室に連行され、ホームルームが始まる直前まで、昨日学校を途中で抜け出したことをこっぴどく叱られた。
担任は普段体育を受け持っている体育会系出身のガタイのいい強面だ。厳しい指導で生徒から怖がられているが裏ではその容姿からごりらっちょと呼ばれている。少しおちょぼ口なのだ。
俺はその口を見るたびにそのことを思い出して笑いそうになってしまう。今朝も少し危なかった。しかも普段から声がでかくて、あんまり近くで怒鳴るもんだからまだ耳が痛い。
ごりらっちょのありがたい説教を受けてチャイムがなるギリギリで教室に入った。昨日のことがあったから少しきになって、三人組がいつもいる良樹の座席付近に目を向けてみると、いつも三つある影が二つしかなく、道弘がいなかった。良樹と智也がヘビみたいな目付きで俺を睨んできている。
「おまえら席につけよ~」
チャイムから少し遅れてごりらっちょが入ってきた。クラスの皆が慌てて席に着く。俺の方を見ていた二匹のヘビも教卓の方へ向き直る。ゴリラとヘビはやはりゴリラの方が強いみたいだ。
「みちだが、昨日の昼休み、廊下で転んで救急車で運ばれたのはみんな知っているだろう?あの後病院の先生に診てもらって暫く入院することになったから報告しておく。お前らも気をつけるようにな」
名簿か何かを教卓の上で広げながら、ごりらっちょが事務的にそう言った。
あいつ俺にドロップキック食らった挙句に廊下で転んで入院したのか。とんだ災難だな。自業自得といえばそうだけど少し可哀想に思った。
さすがに昨日の今日でまた学校をサボるわけにはいかず真面目に授業に参加した俺は帰りのホームルームが終わってすぐ、体育館裏の倉庫に向かって歩いていた。
昼休みに良樹と智也に放課後に来るように言われたのだ。別に無視してもよかったのだが、なんだか気になって行くことにした。やはり俺に告白でもする気かと思ったが待っていた2人の蛇みたいな顔を見てそれはないなと思い直した。
「おい。てめぇどの面下げてきたんだよ」
俺の顔を見るなり智也が怒鳴り声をあげた。
いやお前らが呼んだんだろ。
なんだか怒っている智哉を良樹がまあまあとなだめている。
「お前のせいで道弘が入院したんだ」
智也を宥めながら良樹が言った。
え!?どういうことだ?聞いてた話と違うぞ!?
「廊下で転んで怪我したんじゃないのか?」
「はあ。そんな訳ないだろう。老人でもないんだし、何もなく廊下で転んだくらいで救急車で運ばれる訳ないだろ。いちいち問題を大きくするとこっちにも不利益になるからそういう事にしておいただけだ。先生も信じるとは思わなかったけどな。道弘はお前のせいで頬骨にヒビがはいって全治二週間だ」
それを聞いて流石に動揺が隠せなかった。俺のせいであいつが入院…。
「今日呼び出したのはだだそれの報告をするためってわけじゃない。宣戦布告だよ。お前、みちが退院して学校に帰ってきたらただじゃおかないだろうからな。覚悟しとけよ」
そう言って俺の方を睨み付ける智哉をまた宥めながら良樹と智也は去っていった。
俺の心の中には、なんだか黒くてモヤモヤした、黒い糸玉を解いてぐちゃぐちゃと汚く丸めた物みたいな。なんだかうまくは言えないんだけど、そういう黒くてモヤモヤしたものが占拠していた。はぁ〜と一つ、出すつもりじゃなかったのに大きなため息が勝手に出た。
校舎に向かってゆっくりと歩き出す。俺の心模様を知っているかのように昼間は晴れていた空が曇りがかっている。
俺は心の中に黒いモヤモヤが溜まった時一つだけ浄化する方法を知っている。
今日はそれをしよう。
そう決めると俺は走って校門を飛び出した。