痛快ドロップキック
「分かった。お前ら俺の事が好きなんだな?」
俺は薄々感じていた疑問を口にした。
「そういう事なら気持ちは分かるよ。俺も音楽が好きだ。よくライブにも行くし。好きなものって追いかけたくなるものだよな」
なんならサインでもあげようか?と言おうとしたが、さすがに自意識過剰過ぎると思われるだろうからやめておこうと思い直した。すると3人は寝耳に水を入れられたようにキョトンとした顔をしていた。あまりに図星を着かれて驚いているのだろうか。なんだかリスザルみたいだな。
「ハハハハハハハハハハハハハ」
3人はキョトンとした顔同士を暫くの間見つめ合うと腹を抑えて笑い出した。どこか悪意の篭った笑いだ。全然笑い止まない。
「ぷっ、アハハハハハハハ」
全然笑い止まないのが可笑しくてなんだかこっちまで笑ってしまった。何がそんなに可笑しいんだ!?面白いやつらだ。笑いが伝染してこっちまで止まらなくなってしまった。
目を閉じて腹を抱えながら笑ってたら、いきなり右肩に衝撃を感じてヨロめいた。何事かと思って顔をあげたら、どうやら短髪刈り上げの道弘が俺を突き飛ばしたようだ。他の2人もさっきまで笑ってたとは思えない表情でこちらを睨んでいるみたいだ。
「なにヘラヘラ笑ってるんだよ。お前、今どういう状況か分かっているのか?」
俺は分からないので黙って道弘の顔を見返したままだ。
「お前、イジメられてるんだよ!?俺たちに。状況分かってるのか?」
え!そうなの!?それは初耳だ。
確かに今まで授業の発表とかでこの3人が先生に指名させて俺にやたら答えさせたり、俺の筆箱を使って宝探ししてたり、教科書に変な絵とメッセージが書かれてたりしてたけど。イジメられてたのか!?それは知らなかったな。
「そうだったのか…」
俺はつい心の声が漏れた。それを聞いた3人はやれやれといった感じで呆れた顔になった。
「もういいや。こいつにはもう飽きたしやっちまおうぜ」
そう良樹が声を上げると3人が揃って俺に近づいてくる。目の前にきた3人に、なんだよ。と声を出す間もなく短髪刈り上げの道弘の右拳が俺の腹に直撃した。
いたたた。
モロにくらってトイレの床に痛みで蹲った。床に蹲った俺に今度は3人で蹴りを入れてくる。俺は咄嗟に、頭を手で覆って足でお腹を隠し蹲ったカタツムリのような体勢になった。
ドカッバキッドンドンボコ!
そんな俺の頭に背中に足に腕に蹴りは止まずに飛んでくる。
ドカバキッドンドンドンボコ!
まだ止まらない。無抵抗の奴によくここまで出来るな。容赦のない奴らだ。そう思いながら無言で俺は耐えた。
「はぁ、はぁ、もうこのへんでいいだろ」
やがて疲れたのか良樹がそういうと三人とも足を止めた。時間にして十分くらいたっていたか?そりゃ疲れるよな。やる方もしんどいだろう。俺は同じ体勢で蹲ったままだ。
「おい。お前あんまり調子に乗るなよ。調子に乗ったらまた虐めるからな」
誰の声か判別がつかなかったがそういうとまた汚い笑い声が聞こえて、トイレを歩いて去って行く音が聞こえた。
足音がトイレから完全に廊下へ出た所で俺はむくりと体を起こした。
ふふ。俺を甘く見たな。俺は昔から何故だか学校や街中で因縁をつけられて殴られたり蹴られたりする事がよくある。その経験の中で色んな事を学んだ。頭を手で覆って足でお腹を隠し蹲ったカタツムリのような体勢。あれは上から蹴ってくる相手からの最大の防御の仕方だ。そのおかげで俺は最初の腹に食らった一発以外は全て急所を外していて、殆ど痛みもなくノーダメージだった。
スタッと立ち上がって、埃や水が付いたブレザーの制服を手で払った。かあちゃんに怒られちまうな。俺はトイレの壁際に忍足で近づき、顔だけ出して廊下を歩く3人を目視した。廊下いっぱいに広がって三人横に並んでこちらに背を向けて歩いている。まだあまり遠くには行っていない。見てろよ。俺はただ黙ってやられるような奴じゃないんだ。
「ウオオオオオオオオオオオ」俺は走った。心の中で叫びながら。決して音を出さないように。三人に向かって廊下を走った。
20m、10m、5m、、、
あっという間に距離を縮める。3人は気づいていない。
4m、3m、2m、、、
ここだ!
俺は3人の内の真ん中にいる良樹であろう後ろ姿の2m手前で飛んだ。思いっきり足を踏み切り、飛んだ。踏切音に気づいたのだろう。だが遅すぎる。軽く首だけ振り返るとそれは良樹では無くて道弘だった。予想外だったがこうなっては俺にも止められないから仕方ない。俺は空中で足を伸ばしてそのまま道弘の背中にドロップキックをお見舞いしてやった。
うわっと声を上げ切る間もなく道弘はバタンと大きな音を立てて廊下の床に顔面から倒れた。
「おい!みち!大丈夫か!!!」
良樹ら二人は突然の出来事に小パニックを起こしてあたふたしている。狙い通りだ。笑いがこみ上げてくる。
「フハハハハハハハハハハハハハハ」
俺は走った。3人に背を向けて走った。とてつもない体感速度だ。多分陸上部にも負ける気がしない。そして声を上げた方がなんだかやっぱり早く走れる気がするんだ。
二人が追ってくるかと、途中後ろを振り返えって確認したが追ってくる気配がなかった。気分爽快だ。俺は走った。
もう今日は学校をサボろう。
そう思い立って校舎の階段を1階から4階まで駆け下りて校門に向かって走った。
「ウオオオオオオオオオオオ」
と声を上げて走った。途中で下級生と思わしき何人かの生徒の視線を浴びた。そんなに見惚れるなよ。
それにしても俺を虐めるなんてなんでだろうな。こんなに愉快でいい奴なのにな。
校門を出た所で走るのを辞めて歩き始めた。先生にもどうやら見つからなかったみたいだ。
さあて。これからどこへ遊びに行こうかな。