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アオハルロックンロール  作者: 松宮 奏
10/11

青春呂久フェスタ開催!!!

 リハーサルで放課後まで残っていた、昨日のあっけらかんとした校舎と比べて、今日の青春呂久高校は今だかつてない人の数だった。昨年の良樹達の人気もあるのか、例年よりも数百人単位で中高生を中心に来場者が多いらしい。

 俺のクラスは、紙で作った鷲の巨大壁画の作成をして展示していたから、今日は特段、クラスとしてやる事もなく、全員が自由行動だった。自由行動と言っても文化祭を回る気も、一緒に回るような相手もいない俺は、人混みで歩きづらい中庭を抜けて、屋台へ唐揚げとポテトとコーラを買いに行き、他のクラスやグループの出し物を見ていようと、体育館へ向かった。

 体育館へ着いてみると、想像していた十倍は人がいた。フロアの前方の人は身動きが取れないほどだろう。ここでも人混みを掻き分けてフロアを抜けて、生徒しか知らない階段を登り、今日は立ち入り禁止となっている体育館の二階の卓球場へと侵入した。そこに勿論人はいなかった。さっきまでの人混みのせいか、手を挙げて思いっきり背伸びをしたくなったので、手に持っていたコーラと唐揚げとポテトを卓球台に置いて、その欲求に従った。背伸びをした後、近くにあったパイプ椅子に腰掛ける。ステージに目をやるとどこかのクラスの演劇のクライマックスだった。確かリハーサルの時に10番のボールを引いていたグループだ。途中から見たので内容は全く分からなかったが、何人か涙を流している生徒もいた。なかなか手強い相手になるかもしれないな。卓球台に置いた唐揚げとポテトを同時に食べた。


 複数の人間から出される悲鳴に似た唸り声で目を覚ました。何組かの出し物を見ていたが、途中で飽きた俺は気付かぬ内にどうやら眠ってしまっていたらしい。唸り声を確かめる為に一階のフロアを見ると、人でいっぱいだったフロアが更に、これでもかと言うくらいに増えていた。

「やっと起きたか」

 その聞き覚えのある声の方向を見ると、俺が座っていたパイプ椅子から、少し離れた所に雄介がパイプ椅子を広げて座っていた。いつのまに!?

「本番があるってのにこんな所で熟睡なんて流石だな」

 笑いながら言う雄介に俺は苦笑した。

「というかいつのまにいたんだ?なんなんだこの人の量は?」

「今からあの3人組の出番なんだよ」

 悲鳴に似た唸り声は、一つ一つ分解して聴いてみると、良樹達3人の名前を呼ぶメンコだった。ライブでは良くある光景だ。

 すると会場が突如暗転した。

 ドラムが先行するアップテンポのSEが流れ始める。MANIMAの楽曲だ。バラバラだったメンコが一つの歓声に変わり、SEに合わせて手拍子を始めた。観客のボルテージが上がっていくのが目に見えて分かる。そんな観客達の期待を裏切るかのように、1小節2小節とSEが進んでも良樹達3人は出てこない。手拍子にも疲れたのか、MAXまで上がった観客のボルテージが徐々に下降してゆく。そこを見計らったように良樹達は3人同時に登場した。自作したであろう本家MANIMAの衣装をイメージした学生クオリティの衣装を身に纏っている。

 うおおおおおお!!!!という歓声がもう一度上がる。

 観客達のボルテージはMAXを振り切った。それぞれが想い想いに手を挙げて叫んでいる。それが一つになってうおおおおと聞こえるのだ。勿論、年齢層や文化祭という舞台ではあるが、その盛り上がり方は、音楽で飯を食っているはずの、俺が今まで見てきたどんなバンドよりも凄まじかった。

「青春呂久高校から生まれた未来のロックスター。MANIMAのコピーバンドやってます、HANIMAです!今日は短い時間だけど、盛り上がっていこうぜ〜」 

 ギターを持った良樹がそういうと、観客達のボルテージのパラメータは壊れたように、更に歓声が上がった。良樹の甲高いギターソロが鳴き、いよいよ曲が始まった。MANIMAのヒット曲「オドルフタリ」という曲だ。アップテンポでノリノリな曲調が特徴の楽曲だ。音に手拍子が重なって音源とは違った、これもまた一つの楽曲になる。

「オドルフタリ」にはサビ部分で「エイ、オウ」という掛け声に合わせて、空手の正拳突きのように拳を前後させるというライブで定番の振り付けがある。道弘がベースを弾いていた手を一瞬止めて煽るようにその動作をする。それに合わせるように観客達も動作をする。楽しくなっていた俺も気がつけば同じようにリズムに合わせて拳を前後させていた。

 ハッと冷静になった。

 こいつらは敵対していた、言わばライバル的存在。そいつらの演奏でノってて良いものか。自分の音楽に対してストイックな雄介はみたらどう思うだろうか。 恐る恐る雄介の方に首を向けると「エイ、オウ、エイ、オウ」と掛け声付きで、俺なんかよりよっぽどノリにノっていた。俺は思わず爆笑してしまった。雄介の側に駆け寄った。

「音楽って最高だな。和真」

「ああ。雄介。なんて楽しいんだろうな」

 俺は雄介と並んで音に合わせて拳を突き出した。

「オドルフタリ」の演奏が終わると息つく間もなく、2曲目の「GOING」が始まる。

「GOING」はMANIMAの楽曲の中で一番激しく盛り上がる曲だ。俺と雄介はいつの間にか、肩を組んで飛び跳ねながら空いた手で学ランを振り回していた。

「GOING」の演奏が終わるとHANIMAの3人は曲間のMCに入る。異様な熱気が立ち込めていたフロアはやっと少し落ち着きを取り戻した。俺は額の汗を拭ってその場に座る。雄介も座った。

「あいつら、めちゃくちゃ楽しそうだな」

 俺も同意見だったので首を縦に振って答えた。

「もしかして緊張してたりするか??」

「いや!全く」

 続けて質問してきた雄介に俺はガハハと笑いながら答えた。

「お前は、そういうやつだと思ったよ」

 そう言って雄介もガハハと笑った。そして少しだけ真剣な顔つきになる。

「俺はこの勝負、誰よりも楽しんだやつが勝つ気がするよ」

 俺は大きく頷いた。

「そうだな。楽しもうぜ。あいつらよりも。誰よりも」

 俺は立ち上がってゆっくりと拳を雄介に向かって翳した。雄介も立ち上がって同じように拳を翳した。2人の拳と拳が空中でぶつかると、「友情」の音がした。

「そろそろいかねえとやばいな。てかもう遅刻だ。じゃあまたステージでな」

 そう言って雄介が慌てて階段を降りていくのを見送った。

 ステージではHANIMAの三曲目が始まっていた。

「続いてはラストの曲です」

 三曲目が終わり、四曲目に入る前、良樹がマイク越しに叫ぶ。


 雄介が降りて行った階段から、柏原が上がってきて俺の方に近づいてきた。

「はい。マイク、持ってきたよ」

無線式のマイクを柏原が俺に差し出した。「ありがとう」と言って受け取ると、「頑張ってね」と言って柏原は俺の背中を叩いて、階段の方へ小走りで帰っていった。

ステージ上では4曲目の演奏が終わり、HANIMAの3人が袖へはけていくところだった。

 俺はマイクの電源をオンにして小さく声に出して音がちゃんと出る事を確認した。

 さあ、さあ、さあ。俺はニヤつく顔の頬っぺたをパンパンと叩く。いよいよ、待ちに待った。俺達の出番だ。

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