トイレの先には
「ナギサー!」
俺は自分の心配とか今後どうするとかそんなことより、何故だかナギサを優先して心配した。
中学の時にならった反射ってやつなのかな。
思わず出した叫び声が反響していた。木々が生い茂っている。ぬかるんだ地面、入り組んだ枝、行き場を失った太陽の光がここら辺一帯を支配していた。
「レ...イタ?レイタなの!?」
ナギサは安心したのだろうか、スカートのせいで露出している膝から崩れ落ちた。
こんなこわばった顔をしたナギサなんて今まで見たことがない。
純情な少女の瞳に映っている自分の顔はにじんでいる。
「レイタ!どうしてここに来れた訳?帰り道の一本くらい知ってるんでしょ?」
「いやいや、俺だって何が起こってここにいるんだか全くわからない」
まるで夢のような展開。というか夢でなければ説明のつかない謎の展開。
よくアニメや漫画であるような転生は気づいたらその世界行ってしまったりするもんだが。
なんだこれ。
トイレに吸い込まれる転生なんてきいたこともない。
「そういえばナカヤマさんは?」
俺はふと彼女のことを思い出した。姿が先ほどから見えないように感じる。
感じるというか実際見えてないんだけどね。
「ナカヤマさんって同じクラスの?」
ナギサは不思議そうにこちらを眺める。頬に流れた涙を拭きながら。
「うん」
「見てないよ?どうかしたの?」
え...いない?まさか!?
よくある姫がさらわれて助けにいくパターンの漫画のような展開に仕組まれている!?
まぁ俺の姫はナギサなんですけどね!
「俺と一緒にこっちの世界に来たはずなんだ。でもなぜかいないんだよね。」
「えぇえ!?大丈夫なのかなナカヤマさん!?」
確かに。もしこの世界に魔物という要素があるならどうなっているかわからない。
下手したら命を落としている可能性だってある。
でもここから先どうすればいいかなんてわかったこっちゃない。
だって見知らぬ世界に来てしまったのだから。
「ナギサ。何かこの世界に来てから得た情報ないかな?どんなものだっていい。」
1つでも何か手掛かりが得られたらナカヤマさんをはじめとした、いろいろなヒントが分かるかもしれない。
「そういえばさっきすごく大きい影を見たよ。横に長かったから鳥類系かな?」
「どんなもんだったか見なかったのか?」
「だってそんなの見てる暇なんかないよ!怖くて動けなかったもん!」
怖いのはわかるけど。まさかこの世界に魔物要素があるとは。かなり厄介だな。
でももしかしたら、魔物じゃなくて仲間になる系の要素なのかもしれない。
もし魔物だったら人生終了のお知らせ。
もし仲間になる系だったら人生最高のお知らせ。
どっちだろうなぁ。
「まぁここにとどまっても仕方ない。ナカヤマさんを探そう。」
「そうね、そうしようかな。でもレイタ先頭ね!」
「お、おい。」
こいついざとなったら俺を犠牲にするつもりかよ。身代わり人形じゃねーんだからさ。
俺だって怖いよ。この先どうなるかなんて見当もつかない。
足音が響く。叫び声とはまた違った響き方で。
不吉な予感を漂わせるこの音色。4つの足音が混ざり合う。そして打ち消し合う。
「ねぇレイタ?」
「ん?」
「さっきから全然進んでないよ?」
「え?」
足元を見た。先ほどの4つの足音は足音ではなかった。厳密にいえば足音なのだが、あまりの怖さに足がすくんでいたサウンドがこの世界には現実世界より反映されやすいらしい。
めっちゃ恥ずかしかった。