脳~ブレイン~ 十四話 【マリエル】
一通りの戦いが終わった後
ロードルはドクターの分身に運ばれ治療を受けることになり、俺とニーナはドクターに連れられ長い廊下を歩いていた。
『.........』
三人がしゃべらずにただ硬い床を歩く廊下は静寂に包まれており、足音だけでも敏感に耳に残響を残していた。
「なああんた、質問なんだけどさ」
ニーナが口を開いた。問いの対象はおそらくドクターだろう。
ドクターは体に何の反応も起こさず歩きながら答えた。
「なんだい」
「あんたあたしらがあいつと戦う前。「これが暴れまわる脳力者の一例」とか言ってたけど。あいつには自我があるように見えたよ」
俺とあいつの会話を聞いていたニーナがドクターの発言とその矛盾を指摘した。
ドクターはその発言に対し数秒の沈黙を置いた後
「......たしかに、あれは組織的な犯行だ。最初から気づいてはいたが 暴走する能力者からの自分を守るという動機のほうが本気で戦うと思ってね。嘘をついたことを怒っているのならすまないね」
数秒の沈黙ははぐらかそうかを考えたのだろうか。
そんなことを思うと、
「嘘をつくことはいい、だけどあたしはあんたを信用はしていない。この意味、わかる?」
ニーナが試すような口調で尋ねた。
糸が張ったような緊張が一瞬だけ起こった後、あきらめた事を知らせるようにドクターが口を開いた。
「そうだな。「戦いに勝ってもらう」といったが、いずれ知ることだ。話しておこう」
静寂で満たされた廊下に足音と、こうして能力者が集められた理由が響き渡った。
◇========◆
「数年前、ある研究機関が脳の覚醒による超常現象の人為的発動を成功させた。
これがいわゆる特殊能力「脳」だ。
だが、研究が成功した矢先。何者かによってそれが流出した。
完成品12本のうち2本とそれ以外の試作品である数百種が主に裏社会へ流れたんだ。
しばらくは能力をめぐって裏社会間で抗争や戦争が多発したが
あるとき散らばった能力の七割を「オウル」という組織が買い占めた。」
「owl......フクロウねぇ」
ニーナが復唱する。
「当時裏社会で大きな力のあったオウルはさらに脳という強力な武器を手に入れた。
さて、この場で予想される次の戦いは何だろうか」
突然の質問に少し戸惑ったが、一連の話から考えるに
「研究機関との衝突...?」
「そうだ。兵力には劣るとしても研究機関には試作品などおもちゃに見えるような強力で高精度の完成品が10本ある」
__今までの能力がおもちゃに見える......か。ロードルを乗っ取ったあいつが言ってたレベル∞に関係があるのか?
突然自分が特別な存在なのではないかと思ったが、完成品十二本はすでに二組織で全部そろっていることからその妄想はやめた。
「しかしだからと言ってオウルも黙っちゃいない。二組織はほぼ互角の力で衝突し抗争戦争状態だ。」
ドクターがひとしきり話しているところでニーナが口をはさむ。
「それで、結局あたしたちに何をしてほしいんだい?」
「そうだな、抗争戦争は脳の登場で激化している。いままで裏社会で事が済んだのが奇跡のようだ。最近では無関係の罪なき人々でさえ巻き込まれ始めている。」
「それをわずかに存在するどこにも属さない能力者で対抗しろってこと?」
ニーナが答えを先読みして言う。
「まぁ簡単に言えばそうだ。君たちは抗争戦争の中へ飛び込み、双方の能力者を倒してくれればそれでいい、最終目標は害のある能力者の殲滅だ。」
そう言い切った直後、響いていた足音がやむ。
「そしてここが、そのために君たちが今から所属する組織...」
ドクターが目の前の扉を開け、歓迎の手招きをする
一見すると高級ホテルのような内装を見渡すと、シャンデリアが照明としてつけられた無駄に高価な広間が俺たちを迎え入れた。
「マリエルだ」