脳~ブレイン~ 十三話 【能力名】
せめて今、右腕があれば_____
おかしな感覚だった。 断続的に骨が折れるような音がしたが、身体に不調はない。
むしろ傷が高速で癒えるような感覚でもあった
そして、何よりも。右腕に空気を感じた。
「っ__ああああああ!!」
突如として戻った感覚に身を任せ、ひたすらにそれを振った。
「っ!?」
顔がなくとも驚いていることは分かった。だがそんな視覚的な情報は瞬時として消えた。
俺が放った一撃が、彼の体を吹き飛ばしたからだ。
した斜めに放たれた一撃は重く、ロードルが地面に打ち付けられた衝撃は勢いがあまり二段、三段と瓦礫を作りながら地面を転げまわっていった。
「腕が、再生された...?」
ニーナは一部始終を見ていたものとして、突如として生えた右腕に驚きが隠せていない様子だった。
「っと、」
血鴉は本体のダメージで崩れ、巨人も溶けるようにその形を維持しなくなった。
束縛から解放された俺は比較的瓦礫の少ない場所に着地した。
「......」
静かにロードルのほうを睨んだ。
「____...」
瓦礫に横たわるロードルはまだ生きている。
だが能力を使うほどの体力は残っていないだろう。
俺は黙ってロードルに近づく。
「......いや、予想はしていたが ここまでとはな」
ボロボロの体から弱り切った、かすれた声でそう聞こえた。
「一つ、いいか」
戦い始めてからずっと抱いていた疑問を問う。
「なぜ俺を狙った。」
「......」
何も言わなかった。 いや、聞こえているのかすら怪しいが
俺はそのまま続ける。
「『みつけた』、とつぶやいて以降。お前は俺しか攻撃しなかった。ただの襲撃のつもりなら俺よりもはるかに強いニーナのほうを先に倒すほうが賢明だ。
俺でもわかることを 襲撃を仕掛ける相手が考えないわけがない。
俺だけを狙うのなら何か理由があるはずだ」
「......」
駄目か、 そう思った矢先、
「そうか」
ロードルの口が開いた。いや、正確には口はないため俺に声を発してきた。
のほうが正しいかもしれない。
「君はまだ、自分の能力に気づいていないのだな」
意味が分からなかった。
「どういうことだ?」
そのまま相手にまた問いをかける
「能力が目当てなら俺よりもいい能力だってあったはずだ。
俺の能力はただの肉体強化でしかない。さっきのミーティングで表せば”レベル1”だ。」
そんな俺に、追われるほどの理由はない。
そう続けようとしたが 相手の様子が気になった。
弱ってはいるが体が無造作に揺れている。 笑っているのか?
「ククク...ハハハ、レベル1? どういうことと問いたいのはこちらのほうだな。
君はこんなところで使われるべき存在じゃないんだ。
君が言うレベルで表すとしたら、君はレベル∞《ムゲン》。可能性の塊のような能力者だよ。」
返答により余計にわからなくなった。
俺がレベル∞《ムゲン》? 戦闘経験もさほどない。ただの社畜だった俺が?
ますます意味が分からない。
その時、ロードルの体が痙攣し始めた。
「っと...そろそろ身体が限界のようだ。すぐに処置すれば問題はない。 頭は返しておくよ。」
「っ!」
首から上がなかったロードルの頭が首の先から徐々に再生する。
「それから最後に、君に伝言だ。」
「っ__まて!まだ気になることがたくさん」
言葉を遮るように彼は言った。
「君の能力名は無限...「無限」だ」
それだけ告げると、徐々に再構築されていたロードルの頭が完全に戻った。
おそらく先の相手とは連絡は途切れただろう。
ロードルには悪いが、今彼の生還はあまり気にしていなかった。
俺は再生された右腕を見つめる。
「無限...無限...___」