脳~ブレイン~ 十二話 【右腕】
「ロード...ル?」
巨人の頭に下半身だけ埋め込まれたようにロードルが乗っている事実を
俺はまだ許容できたいなかった
「鮮血の鴉...」
かつて頭があったであろう場所からそう聞こえた。
「っ!!」
頬に鋭い痛みが走る。
__血鴉の突進...っ
「来る」
反射的に体をねじると、ちょうどそこに巨大な鴉が放たれる。
「っ!!」
脇腹にかすりつつも何とかその攻撃をよける。
「分裂」
脇腹を掠った血鴉が瞬時に複数の小鴉となって軌道を変えた。
「なにっ」
咄嗟に能力で強化した腕でガードする、しかしこの状況下でこの攻撃に耐えられるかは不明だった。
「==ヴォイス==」
真っ直ぐ俺に向かう鴉群をニーナの音波が横殴りにする。
音波で揺れ形を保てなくなった鴉が次々とその場に血液として散らばった。
「あ、ありがとう...」
「馬鹿、集中切らすんじゃないよ!」
その刹那に今度はロードルが乗る巨人の拳が放たれた。
「だぁっ!」
強化した左腕がそれを同じ拳として打ち付けあった。
衝撃波が打ち付けあった拳を中心に広がる。
俺はその衝撃に耐えきれず後方へ吹き飛ばされた。
__巨人を操るのはおそらくロードル自身...ならまず本体を狙わないと
空中を猛スピードで翔け、そう思った時
「あたしが時間を稼ぐ、耳塞いでな!」
俺の考えを読み取ったようにニーナが叫ぶ。
「スゥ____________」
言葉の意味はよくわからいがこれから大技を繰り出すことだけは分かった。
咄嗟に俺は両手で耳をふさぐと、
「==ヴォイス==ロッキン」
室内に轟音が轟いた
竜巻に放り込まれたような空気の揺れがニーナを中心に広がった。
「!!?」
耳をふさいでいてもなお意識が飛びそうだ。
「今だ!」
轟音をもろに食らった巨人はそれに怯み、一瞬だけ体制を崩した。
巨人の上に立つロードルが露になる。
その時気づいた。
__瓦礫が避けて一直線に伸びたロードルへの軌道、彼女が用意した道だ
「あああああああ!!!」
空を舞い、壁に着地した瞬間。
__頼む、発動してくれ
俺は腕を強化するときと同じイメージを足に送った。
バチィッ!!
ふくらはぎの筋肉が肥大化しているのが分かった。鎧のような装甲を纏い足に来る衝撃を緩和している。
__いける
全身全霊の力を込めて俺は壁を蹴った
コンクリートの壁が砕け散り、同心円状にひび割れが起きる。
ロードルまでの距離およそ数十メートルの空を切った
「あああああああ!!」
瞬時に左腕に力を込める。
ドラム缶級に肥大化した大拳を振りかぶった。
「無駄だ」
はっきりと声が聞こえる近さでそう受け取った。
「!?」
空中で急に抵抗を感じ、俺の動きが止まる。
「鮮血の鴉」
先ほどニーナが破壊し、血だまりへと姿を変えた鴉たちがこの瞬間を待っていましたと言わんばかりに俺の振りかぶっていた左腕にしがみついていた。
(終わった、次の発声までには殺されてる)
ニーナも敗北を確信した。
__そんな、打撃ならもう届く距離なのに、
焼き付けられるように胸が熱くなった。
標的はすでに自分の間合いであるのに、肝心の武器は相手に封じ込まれたのだ。
「終わりだ」
身体を大きな影が覆う。
手槌を振りかざした巨人の腕が俺の頭上に構えられた。
__終わった、 俺 死ぬ
___せめて今...
==右腕があれば==