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泉の女神  作者: 紺碧七
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タクトを探しに泉へ

 それはとある昼下がりの出来事だった。リーチがスミレナから頼まれたちょっとした使いを終えてオーパブに戻ったところ、なんだか困った様子のスミレナがいた。

「ただいま帰りました。スミレナさん、どうかしたんですか?」リーチが声をかけると

「ああ、リーチちゃん。実はタクト君に水汲みを頼んだんだけど、一向に戻ってこないのよね」

「水汲みですか?」

「そう。町外れにある小高い丘、知ってるわよね?」

「ああ、ハイ。ありますね」

メイロークの町外れに小高い丘があり、丘の頂上には清冽な水が湧き出す泉があった。その泉から湧き出た水は小川を流れ下りメイロークの街中を横切って少し離れた大河に流れ込んでいる。その水は生活用水として洗濯に使われたり、また農業用水として使われたりしている。

飲み水としてはもっぱら井戸水をろ過して使用してるのだが、泉から湧き出した湧き立ての水はとてもおいしいため、オーパブでは蒸留酒の水割り用にその泉の水を使っている。基本的に使い切り前提なので、日々10Lほどの水を営業開始前に汲んできていた。

その泉はオーパブからゆっくり歩いて30分ほどのところにあるので、往復しても1時間ちょっとで行き来できるハズであった。


「いつもはエリムに汲みに行かせるのだけど、今日はエリコは魔王とデートしてるから、臨時にタクト君に頼んだのよ。それなのに1時間半経っても帰って来なくて」

「ええと……ザインとデートって、エリム、女装して?」

「女装じゃないわ! 妹なの! エリコは」断言するスミレナにリーチは腰が引けた。

「そ、そうですか……妹でした」

「な~んてね、妹は欲しいけど残念な事に、あの子はまだ弟なのよ」極めて残念そうに語るスミレナに、リーチはエリムの不憫な身の上に心の中でそっと手を合わせた。

「それでね、リーチちゃん。泉まで行って見てきてもらえない? あそこは町外れと言っても危険なモンスターとかは出ないから。あ、でももし不安だったらロドリコさんあたりについて行ってもらってもいいわ。ただ、他人がいないところだとロドリコさん、狼になるかもだけど」

「えっ? ロドリコさん、狼に変身するんですか? それってつまりライカンスロープだと言うことですか!?」真剣に尋ねるリーチに

「まあ、リーチちゃん。なんて鋭いのかしら! ロドリコさんがライカンスロープだったと気付くなんて!」スミレナが感嘆した表情を見せると

「オレだって日々少しづつ成長してるんですよ! 傍目には亀の歩みに見えるかも知れないですけど」と得意げな表情のリーチ。

「でもきっとロドリコさん本人は隠したいと思ってるに違いないわ。だから決して本人に問いただしたりしてはダメよ?」

「そうですか? かっこいいのにな。でもわかりました! オレの心の中に仕舞っておきますよ」スミレナは、アホの子ぶりは相変わらずよね~とひとりごちた。


町外れにやってきたリーチに門衛をしているロドリコが声をかけてきた。「や~リーチちゃん。どこかへお出かけかい?」

「あの、タクトのやつ、丘へ向かいませんでした?」

「ああ、1時間ちょっと前に馬鹿でかい水筒を肩から提げて丘へ登ってたな。それきりだよ」

「そうでしたか。スミレナさんが泉に水汲みに行かせたんですよ」

「ああ、あの泉か。様子を見に行くのかい? 良かったら俺がエスコートしようか?」

「大丈夫ですよ。ところでロドリコさん、オレ知らなかった。ロドリコさんが実はとてもかっこ良かったことに」にっこり笑って話しかけてくるリーチに

「そ、そうか、さすがだねリーチちゃん。俺の魅力に気付くとは」上気した表情のロドリコ。

「魅力じゃないですよ。隠しているアレのことです」

「隠しているアレ? アレって言うのはアレのことかい?」ロドリコは己の下半身を見やるが、リーチは、ロドリコがこれまでひた隠しにしていたことがバレたせいで、目を泳がせていると捉えてしまった。

「隠す必要ないと思います。少なくともオレはロドリコさんのアレ見たいです」

「そうか、リーチちゃんがそこまで言うなら、今後は堂々とモロ出しすることにするよ!」

「ホントですか? 楽しみにしてます!」無邪気に喜ぶリーチにロドリコは思わずサムズアップした。ま、両者の解釈に多大なるズレがあるため、この後に訪れる悲劇にはただ合掌するのみである。


さて結局、リーチはひとりで丘の上に向かった。

丘はふもとからの高さが20mほどで、なだらかな坂道を1kmほど登っていくと丘の頂上部で、そこからさらに300mほど歩くと泉がある。

リーチはほどなく泉の岸辺にたどり着いた。

泉は周囲20mほどの真円型で岸辺から急に深くなっている。透明度が高いため水面下、かなりの深さまで見通せるのに一向に底が見えないため水深はかなりのもののようであった。

清冽な水を湛えていて、さらに泉の真ん中が持ち上がるほど大量に水が噴出している。溢れ出した水は川幅1mほどの小川となり丘を駆け下っていく。

リーチは泉に手を入れてみた。「冷てぇ~」さらにそのまま前屈みになって泉の水を直接口に含んでみた。「あ、確かにまろやかな感じのいい水だ。うん?」泉の中になにか浮いていた。

「あれってタクトが持っていたという水筒じゃ?」

泉の周囲20mなので直径は7m弱となろうが、小川の反対側のあたりにプカプカと水筒が浮いていた。

「どうしよう? あ、そうか」リーチは翼を広げて泉の上を飛んでいき水筒を拾った。

「まさかタクトのやつ、この泉に落ちたのか?」

すると突然、泉の底のほうから大量に気泡が現れ泉の水面を埋め尽くした。泉はそのため白く濁ってしまった。

「な、なんだ~?」リーチは飛んで岸辺に戻る。すると何者かが泉の中から姿を現した。

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