10days 9
9days
『えっ?ユータが登園していない?』
いつも、ユータが登園する光景を見ていた。
舞花小学校の隣が舞花保育園だ。
時計台から見えるユータの笑顔を一日の糧にしてきた。
毎日きちんと通ってきていたはずなのに…。
あたしの時のフラッシュバックが起こる。
頭が割れるように痛い。
呼吸数脈拍が上がる。
まるで、思い出すなと身体が言ってるみたい。
まんじりとしない不安の中、授業に向かう。
『夏樹、よそ見か?』
すみません。
気のない返事をする彼女。
今日はずっと上の空だ。
何があったというのだ?
『おばあちゃん、ごめんなさい。』
あたしは地縛霊の禁忌を犯す。
授業が終わって時計台に出る。
うっすら見える結界はあたしが外に出るのを拒んでいる。
結界破りをすれば、輪廻転生のルートに乗れない。
だけど、そこまでしても助けたい、救いたい命がある。
あたしは、もう二度とあんな悲劇を起こさないと誓った…。
『いたた…。』
結界の綻びに全力で体当たりをした。
その結果、全身傷だらけのボロボロになりながらも外に出られた。
だけど、もう時間がない。
きっと、来年からはこうして地縛霊として成仏を待つことはできないだろう。
それでも。
ユータを死なせはしない。
あたしのように死なせはしない。
忘れているはずなのに強くそう思った。
『ユータ。』
あのあと、あたしはふらつきながらも家に向かった。
そして、見つけたのは傷だらけで泣き叫ぶユータの姿だった。
すぐに狂気の魔の手からユータを庇う。
例え、あたしのこの現し世の姿が死んでしまったとしても。
あたしは、ユータを守ると決めた。
地縛霊になるときに、ユータをいかなる狂気からも守ると誓ったのだ。
『大丈夫?』
大人びた顔をして語りかけてくるお姉さん。
僕の知らない人。
だけど、僕を守ってくれた。
お姉さんの服は所々赤く染まっている。
その中でも、お腹の辺りの染みが一番酷い。
病院に行こうと言ったのに、追われているし大丈夫だと笑って見せる彼女に何も言えない。
大丈夫って聞きたいのは僕だよ。
『あたしがあなたを安全な場所まで連れてってあげる。』
ごめんね。あたし、もう…。
さっき、ユータを庇った時にお腹を刺された。
かすり傷程度と言い聞かせているが…。
気を抜けば、意識が飛びそう。
だから、唯一、あたしのことを気にかけてくれているエンタせんせーにユータを託そうと。
早く歩みを進めなくちゃいけないのに、身体が言うことを聞かなくなっていく――――。