10days 8
8days
『おばあちゃん、お久しぶりだね。』
ああ、舞花小学校には渚海ちゃんがいたんだね。
実は、旦那が迎えに来てくれるのよと教えた。
目を輝かせて喜んでくれる。
もちろん、あたしも見届けさせてもらうよ。
嬉しいこと言ってくれるのは渚海ちゃん、あなたの方だよ。
あたしゃ、子供には渚海ちゃんのような子に育ってほしかった。
まだ見ぬ子供だからこそ、そんな幻想を抱けたと思うし…。
だけど、地縛霊になってどれだけこの子があたしの子供だったらいいだろうと思ったことか。
『…捺。』
あの人の声だ。やっと、迎えに来てくれた。
辺り一面に桜の花が散っている。
別れた朝と同じ。
今は夏なのに。
要さんを隠れて驚かしてやろうか。
何て言うおばあちゃんは、生きていたらあたしと同じぐらいの女の子になっていて。
彼と出会った年まで遡ったわ。
気づいてくれるかしら?
おばあちゃんと呼ぶにふさわしくないから、お姉さんと呼ぶことにする。
お姉さんはあたしが生きていたら入学したであろう、舞花高校の制服姿だ。
『要さん。』
お姉さんが出ていく。
要さん、お兄さんも舞花高校の制服でかなりのイケメンであることがわかる。
要さん、やっと帰って来てくれたんだ。
嬉しい。60年も待たせるなんて。
『捺、ごめん。待たせて。』
うわぁっ。絵になる二人。
木陰からそっと見守る。
木造の校舎と桜吹雪。
二人の姿が一瞬ぶれて軍服の青年ともんぺの女性へと姿を変える。
これが、本来の二人。
『ばかっ。ばか。何で早く帰ってきてくれなかったの?』
ポカポカと音がしそうな勢いで彼を拳で殴る。
ごめん。本当にごめん。
お陰で、あたし、戦争が終わってすぐに死んじゃった。
要さんが帰って来るまで待ってた。なのに…。
風にのって給食室からの香りがする。
要さんや渚海ちゃんには大丈夫でも今のあたしには…。
さっきから服の締め付けもきつくて仕方ない。
『…うっ。』
みるまに青ざめてその場に崩れ込むあたし。
あっ、おいっ。
あたし、にはその光景に覚えがあった。
ユータが腹にいた時の母も食べ物を前にしただけで青ざめていたものだった。
あたしはいてもたってもいられなくなった。
『ごめんなさい、気分が悪くて。』
捺を木陰に横たえる。
どうすればいい?何をすればいい?
お姉さん、水飲めますか?
幼い声が聞こえてきたのはその時。
捺は頷いてゆっくり水を飲む。
少し落ち着いたように思う顔色。
心配そうな渚海の顔。
頷いて、笑顔を作る。
『要さん、大事なこと話したいの。』
震える手を隠しながら、話そうとするけど、悲しくて。情けなくて。
ぎゅっと要さんが手を握ってくれる。
あたし、死んじゃった時に赤ちゃんがいたの。
その子は一緒に死んじゃった。
守れなくってごめんなさい。
かすれた声で言うお姉さんに青年は何も言わずにただ手を強く握りしめた。
桜吹雪がざあっと舞う――――。