10days 7
7days
『韮崎のばあちゃん、今日も国からの郵便ですよ。』
おやおや、二日と開けずに何だろうねえ。
送り主を確認する。
…労働省総務部総務課戦死者身元特定係。
ああ、神様。
信じてないけどありがとう。
あの人が帰ってきた。早く会いたい。
会いたいよ。
『なんか、いい知らせだったんかい?』
あんたの言うことは間違っとらんかったなぁ。
旦那が帰って来るんじゃ。
もう、6、70年になるわなぁ。
会えんようになってから。
なんでも、韮崎のおばあちゃんの旦那さんの遺骨が見つかったらしい。
やっと、帰ってきてくれるか。
旦那には伝えなんだらあかんことあるしなぁ。
とてつもないほど悲しいことやけんど。
一緒に悲しんでくれることだろうなぁ。
『…ごめんね。あたし、もう長く生きられないみたい。
あなたと一緒に死んでしまうわ。』
でもね、そうしたら天国で家族一緒に暮らせるわ。
あの人は驚くかしら?
あなたのことを知らないものね。
きっと、驚いて、喜んでくれるに違いないわ。
お父さんを一緒に驚かせましょうね。
あまり目立たない腹を優しく撫でる。
そこには彼が戦地に赴く前、あたしに残していったあたしと彼の家族がいた。
両親は学生だったあたしと彼のことをあまり良くは思っていなかった。
『あなたのこと、大切だから、ここに来たの。』
家を出ると決意したのは、彼に想いを捧げて帰ってくるまで待つと決めた夜。
あたしの両親があたしを別の人に嫁に出そうと話しているのを聞いたとき。
彼以外に嫁ぐのは嫌だった。
彼の妻としておいてください。
彼のご両親はいい人だった。
こんなあたしを娘として扱ってくれた。
子供のことがわかってからは孫だと喜んでくれた。
『お願いです。あたし、この子をきちんと彼の子にしてあげたい。
例え、彼ともう、二度と過ごせなくても。』
戦争は終わったが、彼は帰らない。
あたしの身体は病魔に蝕まれ、きっと、そう長くは保たない。
彼は帰らぬ人となっているのだろう。
だから、帰って来てくれない。
戦後の混乱のどさくさに紛れて彼の戸籍にあたしの名前をのせた。
これで、家族だね。
待ってるから、早く帰って来て。
『そうか、旦那が…。
長きにわたってその街の管理者をしていてくれたこと感謝する。
約束は守ろう。』
再会をさせる場所はあなたたちの出会いの場所。
当時に戻って伝えるがいいだろう。
菩提寺からの帰り道。
高台に向かう。
彼と別れたのは旧制初等学校。
今の舞花小学校――――。