10days 4
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『…リスカしたんだ。』
自慢げなクラスメイトの声。
命を無駄に扱うな。
そう叫びたかった。
あたしは生きたかったし、まだ、まだ、まだ、やりたいことがいっぱいあった。
生きるってことの意味をユータに教えてあげたかった。
高校生になったら恋をして、学校を出たら、ささやかでもいいから家庭が持ちたかった。
優しい旦那さんとやんちゃ坊主な息子におませな娘。
どんなに貧しくたっていい。
家族が笑っていられるなら。
そんな、平凡な夢でさえあたしは失った。
『世の中には生きたくても生きられない人もいる。
何を考えてるのか知らないけど、そんな人たちより幸せで恵まれてるんだから、命を大切にしたらどう?』
どうせ、こんなこと言ってもわかりゃしないんだ。
あたしたちのことを気づかなかった世間の奴等には。
あたしは基本、人を信じない。
あっ、おばあちゃんは別ね。
あの人はあたしにとっての親も同然の人なんだから。
あたしは命を無駄に扱う人間が嫌いだ。
『おばあちゃん、生きるって大変だね。
命って、重いのにみんな知らずに捨てるんだね。』
生きる意志がないなら、あたしにくれたっていいのに。
本当はもっと生きたかったなぁ。
おばあちゃんはもし、もっと生きられたら何をしてた?
うーん、そうだねぇ。
戦争がなかったなら、軍隊に入るなんてバカなこと、彼も言わなかっただろうし。
とりあえず、おバカな彼を張り飛ばして真面目に働かせて、平凡に暮らしていたかしら?
…おばあちゃん、見かけによらず旦那さんを尻に敷く肝っ玉母ちゃんだったんだぁ。
あたし、てっきりあの時代の女性って大和撫子だと思ってた。
おしとやかでいかにも淑女ってかんじ。
『彼に会えたら、おばあちゃん、どうするの?』
彼が帰ってきたら、とりあえず、殴るかしら?
…おばあちゃん、逞しいです。
もっと早く帰ってきてどうして守らなかったのって怒ってやるわ。
『でも、どうしても彼のことが好きだから、着いていくと思うわ。
もう、一人残されるのは嫌なのよ。』
…あたしは、弟のユータを守りたいから。
だから、誰かに死んだ理由を探してもらいたい。
あたしの死んだ理由にこの想いの元の理由があるはず。
初めて人にあたしは心を見せた。
ユータのことは誰にも話したことはなかったのに。
『これが来週の慰霊祭のお知らせです。』
今年も、成仏できないのかなぁ?
あたしは毎年、慰霊祭の前日までの10日間だけしか現世に居られないのに。
あとは、ただ、この学校の中で一年が過ぎるのを待つだけの日々。
慰霊祭の祈りも届かない――――。




