10days 1
1day
荒谷 縁太はの朝は早い。
カッブ麺の待ち時間を着替えに充てる。
26歳独身彼女なし、O型乙女座
寂れたアパートで悠々自適な独り暮らし。
『遅れて、すんまっせんっ。』
赴任早々、バスが遅れて遅刻。
なんか、さい先悪いな。
エンタ、まあた、朝寝坊かぁ?
赴任先の6年生の主任は小学校時代の恩師だ。
お前は3組だ。
あっと、一人、夏に転校してきたやつだけど問題児がいるが、まぁ、きにかけてやってくれ。
歯切れの悪い言い方をする主任を横目に6年3組の教室に行く。
『産休に入った望原先生の代わりに来た荒谷縁太、26歳独身彼女なし、O型乙女座です。』
そんじゃぁ、出席とるぞー。
相川…。…松宮 夏樹。
…ハァイ。
気だるそうに返事をするその少女に俺は釘付けになった。
どことなく暗い瞳をする彼女が気にかかる。
これが、俺が生きることを知るきっかけになった出会いだ。
これから先、俺は担任になる日にはこの日から10日間の話をすることになる。
生きたいと望み、死んでいった命のこと。
どうしようもないときは俺に言ってくれ、と強く言い聞かせることになるとは汁ほども思わなかった。
『こらっ、夏樹。制服ぐらい着ろよ。』
夏樹は手の焼ける生徒だった。
赴任初日、違和感に感じてみれば、夏樹だけが私服だった。
だって、すぐにいなくなるもんっ。
それに、うちびんぼーだから。
笑う彼女は切なそうだ。
『ええっとぉ。』
松宮 夏樹の住所はすぐにわかった。
帰り道にあるから、ということを理由に訪問してみたのだが…。
ここって、お寺じゃんっ。
『道に迷われたかな?』
住職さんに声をかけられる。
ええ、生徒の家に行くつもりが。
ああ、これなら。大矢野ではなく犬矢野ですよ。
でも、こちらのお寺に来たのなら参ってほしい墓碑がございます。
こちらです。
案内された墓碑に刻まれた戒名は幼くして亡くなったことを示している。
『童女ということは、幼くして亡くなったんですね。』
その通り。11歳で彼女は亡くなりました。
5年前にこの街の小学校で亡くなったそうです。
死因は硬膜下血腫だったようです。
誰も祀らないのが不憫でならなくて。
ここに引き取りました。
『舞花小学校で起きた死亡事案。
なにも、聞いてないけどなぁ。』
結局、夏樹は身体の弱い祖母との二人暮らしだとわかった。
何か引っ掛かる事案だから、調査は続行しよう。
気になることはとことん調べる、それが俺の悪い癖――――。