その男盗賊につき
サクラ達を追ってバルカンとレンもマーベストの別荘へたどり着いた。
別荘の入口でレンを待っていたサクラはバルカンを見つけるとバルカンに走りよって抱きついた。
サクラ:「バルカンさんどうしたの?」
バルカン:「俺はお嬢ちゃんの度胸が気に入った!ついていくぜ。」
サクラ:「ありがとうバルカンさん!バルカンさんイケメンだから来てくれると思った!」
レン:「顔は関係ねぇだろ!タコ!」
バルカン:「やいてるんじゃねぇよ兄ちゃん。」
サクラ:「そうよやいてるんじゃねぇよレン。あっかんベー。」
そういうとサクラはレンにアカンベーをした。
サクラ:「じゃあバルカンさんも一緒にマーおにいさまの所へ行きましょ。」
バルカン:「え?俺は・・・」
レン:「サクラ、残念だがこの家はマーにいちゃんの別荘だ。バルカンさんの泊まる部屋があるかどうか・・・」
マーベスト:「おかえりサクラ。」
声のした方を見るとマーベストがドアを開けて迎えに来てくれていた。
マーベストはバルカンの腕を見て眉間にしわをよせた。
サクラ:「ただいま。マーおにいさま。」
マーベスト:「その方は・・・腕輪をしているということはガーディアンのお仲間か。」
サクラ:「この人はバルカンさん。結構シブめのイケメンでしょ?」
マーベスト:「そうだね。まずまずの色男だが君は盗賊だね?バルカン君。」
マーベストに指摘されるとバルカンは肩をすくめておどけた態度をとった。
バルカン:「まあ・・・色々あってな・・・」
マーベスト:「ちょっとそこで待っててくれ。今準備をするから。ああ、三人は部屋の準備がしてあるから中へ入りなさい。」
レン:「はい。」
ケン:「はーい、おじゃましまーす。」
マーベストが促すとレンとケンも別荘の中に入っていってそれぞれ用意された部屋に向かった。
サクラはマーベストの表情が気になりバルカンと共にマーベストを待った。
そうしているうちにマーベストが荷物を持って別荘から出てきた。
マーベスト:「バルカン君、寝泊まりはそこの庭でお願いするよ。」
そう言うとマーベストはテントと寝袋をバルカンに渡した。
マーベスト:「そのテントと寝袋は君に支給するから使ってくれ。食事は済んでいるのかい?」
バルカン:「ああ、もう済ませた。」
マーベスト:「明日は早めに起きて朝食を食べてから出発する。バルカン君、君にはこれを支給する。」
そう言うとマーベストはカップラーメンとレトルトカレー、飯盒、お米、食器を渡した。
マーベスト:「炭とコンロはあちらのバーベキュー場にあるから好きに使ってくれ。バーベキュー場には台所もあるから水はそこで飲める。」
ここまで黙って聞いていたサクラがマーベストに抗議をする。
サクラ:「ねぇマーおにいさま。せめて朝食ぐらいバルカンさんも一緒でいいでしょ?」
マーベスト:「何か不便はあるかね?バルカン君。」
バルカン:「いや、何から何まで支給してくれて感謝するぜ。ありがとう。」
そう言うとバルカンは庭にテントを建て始める。
バルカンはテキパキとテントを建て終わると支給された物を持って中に入っていった。
テントから顔を出してバルカンが尋ねる。
バルカン:「明日は何時出発だ?」
マーベスト:「日の出と共に出たい。6時頃ここで落ち合おう。」
バルカン:「わかった。じゃあお嬢ちゃん。おやすみ。」
サクラ:「はい・・・おやすみ・・・なさい・・・」
サクラは何か言いたげにじーっとテントを見つめている。
マーベストが不満そうなサクラに声をかける。
マーベスト:「不満そうだね?サクラ。」
サクラ:「何で私達とバルカンさんの扱いが違うの?」
マーベスト:「盗賊という職業がどんなものか知っているかい?サクラ。」
サクラ:「知らないわ。」
マーベスト:「剣士、武闘家、魔法使い、僧侶などの職業の中でも最も忌み嫌われている職業が盗賊だ。」
サクラ:「それはどうしてなの?」
マーベスト:「最低一度は何らかの犯罪を犯し投獄された事がある者が盗賊の職業を与えられるからさ。」
サクラ:「なぜ彼が盗賊だとわかったの?」
マーベスト」「サクラ、彼の腕の入れ墨を見たかい?」
サクラ:「ええ、右腕に龍の絵が描いてあるわね。」
マーベスト:「あれはドラゴンプリズンに収監される囚人に入れる入れ墨なんだよ。」
サクラ:「でも牢屋から出てきたって事は改心したって事じゃないの?」
マーベスト:「彼は君たちから何かを盗もうとしなかったかい?」
サクラ:「金貨と腕輪を盗られそうになったけど・・・」
マーベスト:「それが彼らの仕事なんだよサクラ。盗賊の仕事は盗む事。理由はそれぞれ違うが盗む事を仕事として課せられた者達。それが盗賊なんだよ。」
サクラ:「盗む事を課せられるってどういう事?誰がそんな事を押し付けるの?」
マーベスト:「盗賊ギルド。世間に受け入れられない元犯罪者を唯一受け入れる団体だ。盗賊達の身元を引き受ける代わりに彼らに盗みを行わせる。」
サクラ:「そうなんだ・・・」
マーベスト:「一般人は盗賊と行動を共にしない。盗賊も普通は一般人と行動しない。ごくまれにミッションで盗賊が必要な時もあるが、パーティーを組んでも寝食はお互い離れた所で行う。明日からの道中でも彼は我々とは距離をとるはずだよ。」
サクラ:「私は別に一緒に食事してもいいんだけどな。」
マーベスト:「やめておいたほうがいい。彼もそれは望まないはずだから。」
サクラ:「でもガーディアンを引き受けてくれたんだもの。仲間になってくれたんだと思うのよね。」
マーベスト:「それが不思議なんだよ。盗賊がガーディアンになったという前例がない。彼がガードを引き受けた理由がわかるかい?」
サクラは少し考えてから答える。
サクラ:「俺はお嬢ちゃんの度胸が気に入った。着いていくぜ。って言ってたなバルカンさん・・・」
マーベスト:「彼を旅に連れていくのは気がすすまないな・・・」
サクラ:「ダメよう!せっかく引き受けてくれたんだから。それに・・・」
マーベスト:「それに?」
サクラ:「バルカンさん『レクイエム』の事知ってるみたい。」
それを聞いてマーベストは驚いた。
マーベスト:「それは確かかい?」
サクラ:「ええ、『レクイエム』を歌うって言ったら表情が変わったの。」
マーベスト:「どうやら彼には複雑な事情があるようだね。自分でも言ってたし。」
サクラ:「それに私の勘ではバルカンさんはいい人よ。」
マーベストはサクラの言葉にやや苦笑いをした。
マーベスト:「わかった。彼も旅に連れて行こう。さあ明日は早い。もう寝なさい。」
サクラ:「はーい、おじさま。じゃあおやすみなさい。」
そう言うとサクラはマーベストのほほにキスをして二階の部屋に走って行った。
『彼が盗賊になった事に『レクイエム』が関係してるのか?・・・』
マーベストはテントをちらっと見た後、別荘の中へ戻っていった。