誓約の腕輪
マーベストの別荘を出た後、三人は宿へ戻って荷物を取って来た。
宿はキャンセル料を取られたが仕方ないと割り切った。
三人は宿からマーベストの別荘まで再び戻ろうとしていた。
レン:「遅いぞサクラ。」
サクラ:「ちょっと待ってよ。かよわい女の子に荷物持たせといてドンドン進まないでよ。」
ケン:「あーごめんごめんサクラちゃん。一つ持つよ。」
ケンはサクラの荷物を一つ預かり、スタスタと歩き始めた。
レンもケンは歩き回るのは慣れていたが、サクラは旅が初めてだから足がついていかなくなっていた。
サクラ:「ちょっと二人とも歩くの早い・・・」
サクラが二人から大分遅れて離れてしまっている。
レンとケンがサクラが追いつくのを待っているとサクラの背後に黒い影が現れた。
黒い影はサクラの首に腕を巻きつけ、ナイフを取り出し、サクラに突きつけた。
バルカン:「動くな。動かなければ傷つけないから・・・」
バルカンはサクラの持っている袋に手を伸ばし奪い取る。
サクラ:「金貨はあげるから腕輪だけは置いて行って・・・」
サクラはかすれた声で懇願する。
バルカン:「腕輪?ああコイツか。これは何だ?」
サクラ:「それは大事な腕輪なの・・・お願い・・・」
バルカン:「スマンな。金目の物なら頂かなきゃ。ん?見た事ない腕輪だな。ちょっとはめてみるか。」
バルカンが腕輪を手に取り腕にはめた。
レン:「あ・・・」
レンが何か言いかけた時腕輪が光輝きバルカンの腕に吸い付く。
バルカン:「何だこりゃ?外れなくなっちまったぞ。」
慌てて腕輪を外そうとするバルカン。
バルカン:「畜生!オイ!コイツを外せ!」
そう言ってバルカンはサクラにナイフを突きつけようとすると腕輪から電流が流れた。
ビリビリっと音がしてバルカンに電流が流れる。
バルカン;「いてぇ!」
バルカンは思わずナイフと金貨の入った袋を手から落とし、地面に倒れる。
バルカンは痛みのあまりに立ち上がれずにいた。
そこをレンとケンが素早く取り押さえ腕をローブで縛る。
レン:「やっちまったなアンタ。こいつは『誓約の腕輪』だぜ。」
バルカン:「『誓約の腕輪』だと?じゃあもしかしてこの女は・・・」
レン:「そう。『レクイエム』の歌姫だよ。」
『レクイエム』と聞いてバルカンの表情が変わった。
バルカン:「じゃあ俺は・・・」
レン:「サクラを守る不死身のガーディアンになったってこと。」
バルカンはショックを受けてガックリとうなだれた。
ケン;「それマジかよ!レン!」
レン:「ああ。ちなみに俺とオマエも不死身だよ。」
ケン:「おお~ちょっとレン!試しに剣で俺を斬りつけてくれ。死なねぇんだろ?」
レン:「バカ!軽く言うな!不死身って言っても色々問題があるんだよ。」
ケン:「問題?」
レン:「俺も詳しい事知らねぇからマーにいちゃんに聞いてみろ。」
レンとケンが『誓約の腕輪』の効果について話している中、サクラはうなだれてあぐらをかいているバルカンに声をかける。
サクラ:「あの!私サクラっていいます。あなたお名前は?」
バルカン:「バルカン・・・」
サクラ:「バルカンさん私ムーンバルトに行くんです。ガードしてもらえます?」
バルカン:「断ったら俺をどうする?」
サクラ:「えっと・・・どうしよう?レン。」
サクラに聞かれてレンは解説をはじめた。
レン:「いいかオッサン。まずその腕輪をつけた者は不死身になるがその代わりにサクラに危害を加える事ができなくなる。さっきサクラを襲おうとしたら電流みたいのが流れて体が痺れただろ?」
バルカン」「ああ、痛みで一瞬動けなくなった・・・」
レン:「その腕輪がサクラを守ろうとしてアンタを攻撃したのさ。」
バルカン」「コイツには意志があるのか?」
レン:「その辺の事は俺も良く知らない。だがこれで俺達はサクラに従順にならなければならないって事だ。」
ケン:「奴隷ってそういう事か・・・」
ケンがやや青ざめた顔で呟いた。
レン:「やっと事の重大さがわかったか?さらにこの腕輪にはもう一つ誓約がある。」
バルカン:「まだあんのか・・・」
レン:「もし今サクラが死んだら俺達もこの腕輪に殺される。」
ケン:「マジで!?」
シーンと場の空気が静まる中、夜の森の中に狼の遠吠えが鳴り響いた。
レン:「俺も実際に見たわけじゃないがある者は腕輪に腕から喰われたらしい。」
レンの暗い声に怯えてケンがうろたえている。
ケン:「なあサクラちゃんこれ外してくれよ~」
サクラ:「ごめんなさい。一度付けると『レクイエム』を歌うまで外せないの。」
レン:「もしも今すぐ外したいなら最終手段として腕をぶった切れ。出血多量で死ぬだろうがな。」
ケン:「No~!」
レンの脅しの冗談にケンは頭を抱えて叫んだ。
レン:「サクラから逃げて遠くへ行ったとしても腕輪の誓約は持続する。無事に腕輪を外す為にはムーンバルトでサクラに『レクイエム』を歌わせるしかねぇんだよ。わかったかオッサン。」
サクラ:「だそうです。バルカンさん。」
そう言うとサクラはバルカンを拘束している縄をほどいた。
レン;「何してんだサクラ!逃げられちまうぞ!」
サクラ;「いいのよレン。」
サクラはバルカンの方を向くと笑いながら言った。
サクラ:「バルカンさん。ガードが嫌ならそれでいいよ。もうどこへ行っても自由。だけどもし腕輪を外したいなら私が『レクイエム』を歌えるように祈っててね。あと腕輪をつけてもらったから金貨あげるね。」
そう言うとサクラは金貨20枚をバルカンに手渡した。
サクラ:「じゃあバルカンさん。元気でね。バイバイ」
ペコリとおじぎをした後、サクラはバルカンに向かって手をふり、スタスタとマーベストの別荘へ歩き出した。
ケンがあわててサクラを追いかける。
ケン:「待ってよサクラちゃん。そっちの荷物も持ってあげるよ。」
二人が歩いていくのをレンとバルカンは見つめている。
まだ地面にあぐらをかいて座っているバルカンにレンが言葉をかける。
レン:「あんた『レクイエム』を歌うっていう事がどんな事か知ってるのか?」
バルカン:「まあな・・・あの子サクラっていったな。これから『レクイエム』を歌うに行くのになんであんなに明るいんだ?」
レン:「あいつはそう言う奴さ。自分がつらくても泣き言を言わねぇ。むしろ周りに気をつかってわざと明るく振る舞う。」
バルカン:「なぜわかる?」
レン:「俺はアイツの幼馴染だ。今アイツは逃げ出したいのをこらえて必死に頑張ろうとしてる。それを少しでも支えてやりたい。」
バルカン:「兄ちゃんあの子に惚れてんのか?」
途端にレンの顔が真っ赤になる。
レン:「バカ言うんじゃねぇよ!誰があんなじゃじゃ馬・・・」
バルカン:「そうか。俺は気に入ったぜ。あのお嬢ちゃん。」
レン:「え?」
そう言うとバルカンは立ち上がりサクラを追いかける。
バルカン:「サクラか・・・咲かせられるか?その花を・・・」
バルカンがそう呟きながら歩くのをレンも追いかけていく。
こうしてサクラのガーディアン三人が揃った。