3話 あなたとなら......
陽がどんどん落ちていく。
「ヴイちゃん! もう少しだよ!」
明らかに最初と違う感覚だ、今までゾワゾワする感覚が無かった、出来る、かも!
「うん!」
あたりが真っ暗になり、家からイオリのお母さんが出てきた。
「もうそろそろ帰らないと、お母さん心配するよ」
私は練習で夢中でその声が聞こえなかったが、イオリが気づいて返事をした。
「わかった! ラストだから!」
そう言って私の方に期待しながら見つめる。
「大丈夫! 行けるよ!」
私は最後にかける、今までと違う感覚、今なら出来そうだ。
「うん!」
心でゆっくりと唱えた。
(火よ我に力を、火球)
火をキープしながら目標をじっと見つめて、想像する。
〈プシュー〉
石に何かがぶつかり、音が聞こえた、イオリがこちらに走ってくる。
「ヴイ! すごいよ! 出来たね!」
手を握って喜んでくれた。
発動することはできたが、レベルは低い、けれど、今は発動出来たことに感謝しかない。
「ほんとにありがとう! イオリ!」
歓喜が聞こえたのか、何処からか拍手が聞こえる。
〈パチパチパチパチ〉
聞こえた方に振り向くとイオリのお母さんが出てきていた。
「おめでとう、シャルさん、お母さん心配してますよ?」
練習に集中していて時間を見ていなかった、あたりを見渡すとすっかり夜だ。
「あっ!」
「すっかり夜になったね、じゃあ今日はお開きということで!」
私は感謝の気持ちを伝える。
「イオリ、今日は本当にありがと! 私にとって初めての経験ができて、本当に楽しかった!」
照れ臭そうに鼻をこする。
「なんだか照れくさいなー、私もヴイちゃんのお陰で上達した気がするし、楽しかった!」
今までとは違う、最初は少し疑いもしたが、今はそんな気持ちもない。
私はあらたまって伝える。
「これからも、私と友達といてくれる?」
私の目をみてしっかり答えてくれた。
「当たり前じゃん!」
それから私は帰る支度をして家を後にする。
「ヴイちゃん、また明日!」
手を振り、走って家に帰ろうとすると、イオリのお母さんに止められた。
「シャルさん、私がお送りしますよ」
私は感謝を込めて深くお礼をする。
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「ヴイ起きなさい!」
いつものように、お母さんの声と目覚まし時計が鳴る。
階段を上がってくる音が聞こえ、部屋に入ってきた。
「起きな、」
「起きてるよ!」
珍しく起きてることに驚いた様子で、部屋を後にする。
「朝ごはん食べなさいよ」
学校行くことが楽しみなんて思ったこと初めてだ。
急いで下に降りてご飯を食べる。
「珍しく早いのね」
「早く学校行きたいしね」
「ヴイらしくないわね」
食べながらお話をして、学校が行く時間が迫ってきた。
「じゃあ私もう行くね!」
朝早く起きてもいつもギリギリで行く私が、今日は早めに学校に行く。
お母さんは私を玄関まで見送る。
「いってきます!」
「いってらっしゃい」
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昨日は遅刻ギリギリで走っていたけど今日はその必要はない。
私は学校には向かわず、イオリの家に向かう。
(友達と登校なんて、初めて)
昨日の待ち合わせ場所に着くと、先にイオリが待っていた。
「ヴイちゃん!」
私はそれに答えるように手を振る。
「イオリ!」
二人で登校することになった。
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「昨日はありがとね」
「いいよいいよ!」
一緒に登校することが初めてで何を話せばいいのか分からない、私は考え込むと、横から顔を覗かせてきた。
「どうした? ヴイちゃん?」
心配そうにこちらを見てくるイオリ、申し訳なく思う。
「いや! 何にもないよ、ただね、一緒に学校行くなんて初めてで何を話そうかなって」
お腹を抱えながら笑い出した、私は口を膨らませた。
「あははは、ごめんごめん! そんなに深く考えなくていいよ! マルキアはすごいね、建物が一つ一つでかいし、私のところは木造だけど、この辺は非木造? て言うのかな? すごいよね」
遊びに行くときはあまり考えていなかったが、たしかにイオリの家は木造私の家は木造ではない、というか周りで木造の家はない。
「そうかなー? イオリの家もすごいと思うよ?」
家を想像しているのか一度振り返った。
「そんなことないよ! 庭にやっと池ができたんだよ?」
うん、すごいと思うよ!
「昨日なかったよね?」
「昨日とは違うところにあるの!」
「まだあったの?」
昨日の庭は一部に過ぎなかったらしい。
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歩き始めて十分がたった、学校が見えてきた。
「見えてきたね!」
「だね!」
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それから五分が経ち、門の前に着いた。
「着いたね!」
なにやら中が騒がしい。
「どうしたのかな?」
「騒がしいね」
恐る恐る門を抜けると生徒たちが教師になにかを訴えている。
「どういうこと? 意味わからないんだけど!」
「そうだそうだ」
門を抜けると戦争みたいになっていた。
「すごい事になってるね、とりあえず私たちは受付に行こうか」
受付に行くよう言われていて、受付に向かうことにする。
抗議の前を通るとき、一通り眺めても見たことがない人ばかりだ、しかも何やらバッチが付いている。
「早く早く!」
イオリに手招きされ少し小走りで追いつく。
騒がしい中からとてもでかい声で訴えてる人がいた。
「なんであいつが帰ってこないんだよ!」
あの騒がしい中であの声だけがしっかりと聞こえた。
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校舎に入ると、受付の看板がある。
「新入生はこちらへ」
「あそこだね! 入ろ!」
手を引かれて受付に中に入ると、同級生が何か渡されていて説明を受けていた。
それに外で抗議していた人と似ているバッチをつけている。
「ここに並ぼう!」
列の一番後ろに並んだ。
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五分も待たないうちに順番が来た、先にイオリが行く。
「終わったら外で待っとくね!」
そう言って呼ばれた席に向かう、すぐに私も呼ばれて席に向かう。
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「あなたのお名前は?」
「シャル・ヴイです」
名乗ると、たくさん紙が入ってる袋から何かを取り出し、机に広げる。
(なになに、生徒証?)
生徒証とバッチが置かれている、それに書かれているのはC
生徒証を見ながら説明が始まる。
「シャル・ヴイで間違い無いですね? では今から説明します」
一礼する。
「この表は昨日の試験に基づいて作られています」
表が書かれている。
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名前:シャル・ヴイ 15歳
魔法: 火球 不明
魔法ランク: C
担任から一言。
今後どうなって行くか楽しみな生徒です。
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指で指しながら説明をする。
「では、まず魔法に関してですが、あなたは発動不可ということで、不明とさせていただいております」
うつむきながら答えた。
「はい......」
「そして魔法ランクに関してですがCですね、制服にこちらのバッチを付けてください」
バッチを手渡しされて服につけた、私は疑問に思ったことを質問する。
「魔法ランクなんですが、Cから上に上がることは可能なんですか?」
即答で答えた。
「はい、ランクが上がるとクラスも上がります、授業内容も難しくなってます、他に聞きたいことはありませんか?」
努力すれば上に上がることができるらしい、だがそれはとても難しいことだ。
「分かりました」
生徒証を渡されてクラスに入るように指示される。
「では、1-Cの教室に入ってください」
席に立ち一礼する、イオリが座っていた席には別の生徒が座っている。
(外か)
外に出るとイオリが生徒証を見ながら待っていた。
「おまたせ!」
こちらに気づいたイオリが笑顔で答える。
「おー! きたきた! 生徒証どう?」
見せるのが恥ずかしいが、イオリならと思い見せる。
「ふむふむ、不明とCか、なら私と同じクラスだね!」
こちらに生徒証を見せる。
「えっと、CとランクもC」
(でも一応火球がCって評価されてるだけでも羨ましい)
今日一番の笑顔で気合い混じりの声で話し出した。
「ヴイ! 同じクラスになれて私は嬉しい! だけどね、Cクラスは正直言って悔しい、私ね? ヴイとなら上目指せる気がする、だから!」
イオリは私と同じ考えをしていた。
「私もそう思っていたの、イオリとなら上のクラス目指せる気がする! だから、これから私と上を目指そう!」
気持ちを素直に伝えられるのはイオリだけ、今までは友達いなくていいと思っていたけど、今は違う、イオリがいなくなると私自身、終わってしまう。
そこまで友達のことを思えたことは初めて。