1話 魔法なんて
「ヴイ! 早くしないと遅刻するよ」
しつこく下から怒鳴る母の声と目覚まし時計、軽く返事をして再び眠りに入る。
「知らないよ!」
そう言いつつも階段を上がってくる音が聞こえる。
扉を壊す勢いで部屋に入ってきた。
「ヴイ!」
私は一瞬で目が覚め、布団から飛び起きた、目覚まし時計を見ると時刻は8:20
うん終わった。
慌てて服に着替えてる私を見ながら説教を始めた。
「本当にヴイいい加減にして! 15になっても、母親に朝起こしてもらうなんて、恥ずかしいと思わないの?」
説教を聞いている暇はない、早くしないと遅刻してしまう。
「遅刻だよ! お母さん、お願い!」
私はお母さんにお願いするが、何も言わず、扉を閉めて下に降りていった。
「お母さん!」
いつも遅刻ギリギリな私はお母さんの能力テレポートを使って、学校に行っていた、その癖で、毎晩夜更かしをして
「お母さんが連れて行ってくれるからいいや!」
そう思いながら毎晩毎晩、魔法の練習をしている。
だけど今日のお母さんは違う。
「お母さん知らないからね、荷物は下にまとめてあるから、遅刻しないで行きなさいよ」
少し厳しくなった気がしたがそれが当たり前だ、お母さんに頼ってばかりじゃいけない。
「そんな!」
「つべこべ言わず早く行きなさい」
時刻を見ると、8:30、うんもう無理。
「そんな! 後五分で行けなんて無理だよ!」
送ってくれる様子はない、急いで下に降りてカバンを持ち、家を出た。
「やばいやばい!」
「少し甘やかして過ぎたわね、お父さん」
---
初日早々遅れるなんて信じられない話だ、私は死にものぐるいで走り学校に向かう。
私は魔法で名門のマルキアにある「マルキア魔法学園」の試験に受かり通うことになった。
その学園での試験はとても厳しく、合格率も低い、だけど私は受かった、魔法を使えない人でも受かった、それは何故かは分からないが、入学できたことがとても嬉しい。
そこに通い、魔法を使えるようになり、人を救うことが出来る人になりたいと思っている。
---
走っていると私と同じ制服を着た生徒が歩いている。
(すごい呑気に歩いている)
そう思いつつその人を追い越すと、いきなり足が動かなくなった。
「え?」
ゆっくりとこちらに向かってくる。
(束縛系魔法?)
横に並ぶと私の肩に手を置き、何やら唱え出した。
「転送せよ」
その一言で視界が切り替わり、目を開けると、学校の門についていた。
「え?」
(束縛系とお母さんと一緒の能力? 魔法?)
お礼を言おうと振り返ると誰もいない、首を傾げ眺めていると門で立ってる教師に話しかけられた。
「君、早くしないと遅刻するぞ?」
色々なことがあり時間を忘れていた、私はダッシュで門を駆け抜けて教室へ向かった。
---
「やばいよ!」
そしてチャイムが鳴る、それと同時に教室のドアを開けた。
「セーフ!」
すると突風が私に向かってきた。
「ちょちょちょ!」
それと同時に教師の声が聞こえた。
「君、シャル・ヴイさんだね? 初日からギリギリはいけないよ?」
私に視線が集まり、頰が赤くなった気がした、教室に入りすぐに指定された場所に座る。
「全員、出席」
教室全体を見渡し、名簿を置く、そして話を始める。
「では、今から試験がある、ついてきなさい」
それぞれ立ち上がり教師についていく。
「何するんだろうね?」
「本当何するんかね?」
---
教師についていき、辿りついた場所は、「練習場」
全員いるかを確認しドアを開ける。
中にはすごい数の教師がボードを持って座っている。
(何が始まるのかな?)
横に並ぶように指示をして、説明を始める。
「今から少しテストを始める、不合格などはないから心配するな」
すると向かいに大きいわら人形が出てきた、すると教師がそれにめがけて魔法を撃つ。
「火球」
その魔法はとても簡単で小さい子でも発動可能だ。
(レベルが違う)
魔法レベルがSSと言ったところだろう。
わら人形は無残な姿になっている。
「一人ずつ、やってもらう」
(え、嘘でしょ!)
先頭の生徒から火球を撃っていく、撃つと周りの教師が紙になにかを書いている。
(私、発動できないよ!)
私は何一つ魔法を使うことが出来ない、どんどん私の番が近づいてくる。
(嘘でしょ)
「シャル、次お前だ」
みんな上手に火球を撃っていく、なのに、私は。
「早くしなさい」
一度は撃つ体制に入るが、躊躇い教師に話す。
「でき、ない、です」
教師の顔を見ることが出来ない、それに周りからは罵倒されている。
一度ため息をつき、次の人に回る。
「よし次」
私は撃ち終わった組のところに向かう。
すると男子が近づいてきた。
「おいおい、なんでお前がこんなところにいるんだよ、恥だぞ?」
そう、ここは名門校、なのに何も出来ない私がここにいるのがおかしい。
反論できない、できるはずがない。
すると一人の女子生徒が近づいて来た。
「ちょっと、そんな言い方ないんじゃない?」
「は? 何言ってんだお前? 本当のこだろ?」
「シャルちゃんだって頑張ってるんだから!」
声のボリュームが上がっていき、周りの教師から指導を受ける。
「静かにしなさい」
男子生徒は舌打ちをし席に座り、彼女は私の隣に座った。
「ほんと、男子って、シャルちゃん大丈夫?」
そう言って私のことを気にしてくれた、とても嬉しかった。
「う、うん、でもあの人が言ったこと間違ってない」
「私はシャルちゃんの気持ちわかるよ!」
ずっと俯いていた私がその言葉で顔を上げた。
「え? なんで?」
人差し指を立ててそっと口に当てる。
「それは、後でね」
それと同時に全員終わったのか、教師が話を始めた。
「よし、全員終わった、明日学校に着いたら、受付に来なさい、では以上、自由解散」
そう言って部屋を後にし生徒たちも教室に荷物を取りに帰る。
私は全員が出るのを待つ。
「ねえ、シャルちゃん、一緒に帰ろ!」
そう言ってくれたのはさっきの子、私はすぐに頷いた。
「うん!」
---
教室に荷物を取りに行き、門を出る。
私は話の続きを聞くことにする。
「えっと、さっきの話なんだけどね」
思い出したかのように話を始める。
「あー! 私ね、実は入学試験で魔法撃てなかったんだ、その時、周りの生徒から罵倒を受けて、家に帰るとすぐに部屋に入り、泣きまくったんだよね」
入学試験の時私しかいなかったから、何も言われなかったけど、もし周りに生徒がいたらめちゃくちゃ言われたんだろうな。
「それでね、学校が始まるまでに簡単な魔法は使えるようになろう! って思って必死に練習して」
「間に合ったんだ」
「うん、シャルちゃんも家で練習してると思う、だって手に痕がついてる」
この痕は誰にも気づかれないと思っていた、なのに彼女はすぐに気づいた。
「なんで分かったの?」
「私も痕が出来てるんだよ?」
そう言って手をこちらに見せて来た。
「本当だ!」
彼女は今日に間に合った、私はずっと練習して来てコツさえも掴めなかった、何が彼女と違うのかもわからない。
すると笑顔で提案して来た。
「私ね、シャルちゃんの気持ちわかる、だから力になりたい! 私でよければ一緒に練習しない?」
そう誘われたのも初めてだ、10歳の時、学校の生徒に誘われたが、「あいつセンスないから止めようぜ」
と言われて避けられていた、なのに彼女は私を誘ってくれた。
目にたっぷりと涙が溜まってこらえきれなかった。
「え! 私何かした?」
涙を拭いながら伝えた。
「違うよ、嬉しいの、こういうのは初めてで!」
一度落ち着き、力強く答える。
「私と一緒に練習してください!」
「やろう! あっ! 言うの忘れてたね、私の名前は、「ランス・シオリ」
シオリって呼んでね!」
「シオリちゃん! あっ! 私はシャル・ヴイ、よろしくね!」
私にとって初めて「友達」と呼べる友達が出来た気がした。