52話 決着をつけ
香月由様より、ラウレとナイトメアのイラストを頂きました!
しかもラウレのほうは私の誕生日プレゼント仕様です!
ラウレ→ https://21031.mitemin.net/i337017/
ナイトメア→ https://21031.mitemin.net/i342343/
香月由様、素敵なイラストをありがとうございました!
「はーちゃんっ!」
喜色に満ちた声。
俺がナイトメアの傍を走り抜けたあと、墜落したナイトメアを追って上空から地上へと駆け下りているときのことだった。
どこからともなく白くて鉄砲玉じみた飛行物体が襲来する。
意識を事前に読んでいた俺はその捨て身のタックルに戸惑うことなく[爆肢]で減速し、危なげなくウーリを抱き留めた。
「んんぅ~っ! はーちゃん、はーちゃん!」
じたばたと嬉しそうに俺の両翼の中で暴れるウーリ。
その感情がくすぐったくて自然と頬がほころぶ。
「はは……こらこら、角が当たるって」
「はーちゃんッ、はーちゃんッ」
「まったく……」
わしゃわしゃと翼でウーリの頭を撫でる。戦闘で疲れた心が癒されるようだ。
「……ウーリ、さっきは応援ありがとうな。走り抜けることができたのはウーリのおかげだ。ウーリの援護がなければ、ナイトメアの魔力波を突破できなかった。そしたら今頃、俺は死んでいただろうな」
ウーリは勢いよく顔を上げると、薄紫の瞳をキラキラと輝かせる。
「うりうりぃ! 走り、すごかったよぉ!」
「――ッ! ああ……っ」
身体が、歓喜に震えた。
“走りがすごかった”。
その何気ない一言が、俺には神からの賛辞にも等しかったのだ。
「……俺も、最高の走りを見せられて嬉しい」
「はーちゃんの走りでコワイノやっつけちゃったぁ!」
「まあ、やっつけたというか……まだ生きているからなんとも言えないが」
ナイトメアは俺が走り抜けたときの衝撃波をもろに受け、その後地上に墜落している。
奴とはこれから決着をつけに行く必要がある。
しかしウーリは嬉しそうに言う。
「やっつけたんだよぉ! コワイノ、やっつけたんだよぉ!」
「ふはっ、そうか。そうだな、やっつけたんだ」
あまりにも無邪気だったのでつい吹き出し、俺はウーリの言葉を認めた。そういう気分にさせられたのだ。
胸の内がぽかぽかと温かい。こんなにも晴れやかな気持ちは初めてだ。
いとおしさからウーリを撫でる。すると、ウーリは嬉しそうに俺の翼に頭をすり寄せてくる。
「さて……ウーリ、これからナイトメアのところに向かうが、どうする? ここで別れようか? その、まだ怖いだろ?」
ウーリは元気よく即答した。
「一緒に行くぅ! はーちゃんと一緒なら大丈夫ぅ!」
「本当に大丈夫か? 無理はダメだぞ?」
「はーちゃんがいたら大丈夫だよぉ。だって、コワイノやっつけちゃうもん!」
「だけど……いや、わかった」
俺は反論を飲み込んだ。ウーリの意識を読めば、ナイトメアへの恐怖ではなく俺への信頼だけがあったからだ。
俺はウーリの同行を受け入れた。
もしかしたらと思い、一変した景色を見回す。
つい先ほどまで暗闇に覆われていた悪夢の区画だが、ナイトメアの傍を走り抜けた直後に温かな丘陵地帯へと様変わりしていた。
朗らかな空気は牧歌的で、悪夢の面影などどこにもない。
暗闇も寒気も恐怖も何もかも、ナイトメアの最後の試練を走り抜けたあとにきれいさっぱり消えてしまっていた。
もしかしたら、これはウーリが恐怖を克服した証なのかもしれない。
俺はウーリとともにナイトメアの落下地点へと向かう。
「……ボロボロだな」
草地にうずくまるナイトメアは敗者らしい姿をしていた。
象徴的な黒翼がいくつも折れ、ローブもいたるところが破れている。
ナイトメアの傍を走り抜けたあの瞬間、俺の速度は音速をゆうに超えその数倍に達していた。そのときの衝撃波はそれほどすさまじかったのだろう。
ふわりと地面に降り立つ俺たちに、ナイトメアが顔を向ける。
ナイトメアは何かを確かめるようにまずウーリを、それから俺を見た。相変わらず黒いモヤで表情は見えないが、そこに込められた感謝の意から想像はつく。ナイトメアは満足げな顔をしているに違いなかった。
「勇敢にして……至高なる青き鳥よ。よくぞ……よくぞ、余の試練をすべて克服した。まこと、見事であったぞ」
「……ふん。俺がここに来たのは、おまえから称賛を受け取るためじゃない。いいかげん、決着をつけようじゃないか。試練はすべて終わったらしいが、そんなことはどうでもいい。まだウーリを害するつもりはあるか? 答えろ、ナイトメア」
「……否。害する意思など、欠片もなし。安心せよ。完膚なく、余の負けである」
「……そうか」
ナイトメアの意識に虚偽がないことを確かめると、俺は肩の荷がおりたように脱力した。
これで、ウーリとの約束は果たされた。
ナイトメアの打倒と無力化。
勝ち筋など砂粒ほども存在しなかった絶望の戦いが、ようやく終わったのだった。
「……さて」
俺の背に隠れるウーリが、ナイトメアを前にして思いのほか落ち着いている。これならナイトメアとの問答に集中しても大丈夫だろう。
俺は怒気を込めてナイトメアを見下ろす。
「すべて話してもらうぞ、ナイトメア。どうして今、俺に感謝の意識を向けてくる? いや、戦いが始まる前から、まるで自分が倒されることを期待していたみたいだった。おまえの目的はなんだ? まさかとは思うが、ただの死にたがりじゃないよな?」
自殺願望だったら喜んでトドメを刺してやる。
もちろん、そんな単純な話ではないと察してはいるが。
「否、死を求めてのことにあらず。余は、打ち倒されることそのものに期待していた。厳密には、それがもたらす成果に」
「……つまり?」
俺が先を促せば、ナイトメアは強い意志を込めて答えた。
「悪夢とは……恐怖を与えるモノ。しかるに――恐怖の克服を促すモノなれば」
「……ッ!?」
頭が理解を拒絶する。
しかし、否応にも理解してしまう。
こ、こいつ……盤上をひっくり返す気か……っ!?
「ま、待て! それじゃあおまえは……ウーリに恐怖を乗り越えさせることが目的だったとでも言うのか!?」
「諾。悪夢とは、克服されるためにあるモノ。余が打ち倒され、其れの恐怖がなくなることが余の本望である」
「戦いに負ければ、死ぬかもしれないんだぞ!? そのリスクすら受け入れているというのか!?」
「無論である。余は悪夢。なれば、克服され、消えるは本望」
「おまえは……おまえはっ……!」
理不尽、との思いがあふれかえる。
感情が乱れすぎて、何に対してそう思うのかもまとまらない。
とりあえず瞑想して落ち着こうとしたところ、ナイトメアが言葉を繋ぐ。
「理解できぬか? それも良かろう。余の、悪夢の在り方まで理解せよなどとはのたまうまい。そこまでは余の期待するところにあらざれば。
されど、これが余の答えである。これが、余を打ち破った汝に感謝する所以である」
「……じゃあ、おまえは――」
俺は信じたくない気持ちで吐き捨てるように言った。
「すべて、ウーリのためだったとでも言うのか? ウーリがトラウマを乗り越えられるように、おまえは悪夢となって、自分が倒されることを待っていたとでも言うのか?」
「諾。それが余の存在意義なれば」
「……っ」
顔をしかめる。ああ、気づいた。どうしてこんなに腹立たしいのか。
ウーリのためにウーリを害するなんて本末転倒。
献身的なくせに、自己中心的で傍迷惑。
それはまるで、自分のために自分を犠牲にしたかつての俺の信念のようで、しかしそれを上回るほどにくそくらえだ。
……だが、だからといって。
そもそもウーリのために、ウーリを害せるものなのか?
大切に思えば思うほど、傷つけられるはずがない。
こいつのウーリへの思いは、それほど安くはないように感じたが……。
「前に、ウーリを何百回も殺したと言ったな? あれは嘘か?」
「否。真である」
「……ためらいはなかったのか?」
「あろうはずもなし。それが悪夢の務めなれば」
「…………」
一瞬だけ、ナイトメアの意識に諦念が浮かぶのを読み取った。が、すぐにそれは消えた。まるで取るに足りない感情だとばかりに。
なるほど……ナイトメアも少しは思うところがあったらしい。
とはいえ、ウーリを害したという事実は変わらないが。というか、もっとやりようはなかったのだろうか?
過ぎたことを考えても仕方ないが、こいつほどの強者ならあるいは……と考えてしまう。
と、俺がナイトメアを睨んでいるときだった。
ナイトメアの顔の黒いモヤが、ふいに消えた。
その下から現れたのは、ナイトメアの素顔。
二十代前半の男の風貌だ。フードから黒髪の癖毛がのぞき、切れ長の目は満足そうに細められている。
初対面ではあるが誰なのか察した。ナイトメアが使っていた能力から十中八九、間違いない。悪夢の原点となった人物、それは魔界王シテアハネだろう。
ナイトメアは黒いモヤの消失に気づいたのか、顔に手をやる。そして、整った微笑を俺に向けた。
「余の役目は終わった。最大の感謝をここに。勇敢にして至高なる青き鳥よ」
「……イスハだ」
「イスハ……涼やかな良き名である。その名、しかと魂に刻もう。では……イスハよ。
偉大なる母を頼んだぞ」
「……ッ!」
偉大なる母とは誰のことか。
そんなこと、わかりきっている。
こいつが母と呼ぶなんて一人しかいない。創造主たるウーリだ。
だが、こいつは今更そんな呼び方を……!
「虫が良すぎる! そもそもおまえに頼まれるまでもない! ウーリは俺の大切な家族だ。俺は必ずウーリを守り通す! どんな敵が相手でも、おまえの頼みがなくてもだ!」
「ふっ……なれば憂いなし。悪夢の身なれど……イスハと、偉大なる母の行く末に幸あらんことを祈る」
「……ッ! そんなこと! 願うくらいだったら初めから――あっ、おい!」
ナイトメアの存在が薄れていくと感じてすぐだった。
透けたかと思えば、ナイトメアは儚くかき消えた。
俺の苦言を聞き流すように切れ長の目を閉じ、それでいて幸せそうに。悲劇ともいえる運命を嘆く意識など欠片もなく、使命を全うした喜びに満たされて。
「……好き勝手言いやがって。悪夢らしくないことが言えるなら、悪夢の使命なんか捨て去れよな……」
俺は天を仰ぐ。
少しだけ、ナイトメアに共感できるのが腹立たしい。
あいつの最期は、きっと、かつての俺が夢見たような終わり方だった。
イスハとナイトメアのステータスを公開いたします。
なお種族特性という項目は非公開予定だったのですが、ナイトメアのステータスとしては公開したほうが良さそうだったのでイスハの分と合わせて公開しております。
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<ステータス>
「イスハ」
種族:少女鳥
種族特性: ←New(公開)
【視覚】☆☆☆ [近紫外線視][視力抜群][動体視力抜群]
【聴覚】☆☆ [聴力優良][聴覚優良]
【呼吸器】☆☆ [低酸素耐性]
【速力】☆☆ [速力優良]
【無汗】 [汗をかかない]
【身体強化(ウーリ補正)】☆☆ [イスハの全力の命精魔術と同等]
【魔力補給(ウーリ補正)】☆☆ [下位魔物の魔力量と同等]
特技: ←変化なし
【瞑想】☆☆ [休息][即時発動][冷静][感知][回復]
【持久】☆ [一日持久]
【潜在覚醒】☆☆☆ [筋力覚醒][思考覚醒]
【身体操作】☆☆☆ [絶対精度運動]
【隠密】☆☆ [気配希薄][無音行動]
【感知】☆☆☆ [体内感知][環境感知][意識感知]
【直感】☆ [危険直感]
【体術】☆☆ [上級]
【走術】☆☆☆ [超級]
魔術: ←Update
【空精魔術】 [風亡][負爆][爆撃][爆肢][風啼]
【命精魔術】 [身体強化]
【心象魔術:天上察知】
[感知拡大] 範囲拡大、意識読解、自動感知
[予知] 未来予知
【心象魔術:永走】
[走行最適化] 最適化、一本化、無意識化、身体強化、思考加速
[突破] 抵抗突破 ←New
※☆の数は価値や評価を表し、最大で三つです。☆の無記載は評価基準がないものです。
「ナイトメア」 ←New
種族:魔物(君魔)
種族特性:
【悪夢】★★★ [不死(ウーリが恐怖を克服することで無効化)]
【身体強化】★★★ [イスハの最終的な身体強化値の倍]
【思考加速】☆☆☆ [十倍]
【感覚強化】☆☆☆ [イスハの感知(覚醒前)と同等]
【魔力親和】 [魔力保有量の無制限化]
特技:
【悪夢】★★★ [恐怖強制]
【魔物】☆☆☆ [魔力感知][魔力吸収][魔力圧縮][魔力操作]
【多重操作】☆☆☆ [多量操作]
【並列演算】☆☆☆ [並列思考]
【持久】☆☆☆ [三日持久]
【潜在覚醒】☆☆ [筋力覚醒]
【身体操作】☆☆ [高精度運動]
【隠密】☆☆☆ [無音行動][背景同化]
【感知】☆☆ [体内感知]
【察知】☆☆☆ [違和察知][生命察知]
【直感】☆☆ [危険直感][成功直感]
【体術】☆☆☆ [超級]
【剣術】☆☆☆ [超級]
【刀術】☆☆☆ [超級]
魔術:
【心象魔術:七曲】
[有形歪曲] 固体歪曲、液体歪曲、気体歪曲
[無形歪曲] 光歪曲、空間歪曲、引力歪曲、魔力歪曲
※★★★は、☆☆☆を超える規格外を表します。
<魔術詳細>
「イスハ」
【空精魔術】 ←Update
・壱 [風亡]
走りの補助。風をかき分け、通ったあとに元に戻す。これにより空気抵抗を減らし、かつ風を外に出さないため、走りの高速化と隠密化を図れる。
・弐 [負爆]
走りの補助。圧縮した空気を背後に設置し、任意のタイミングで解放して疑似的な爆風に乗る。瞬間的な加速を可能とする。
・参 [爆撃]
攻撃技。圧縮した空気を操作して任意の地点で解放し、疑似的な爆風で攻撃する。
・肆 [爆肢]
走りの補助。足裏に疑似的な爆風を起こし、それを蹴って空中を駆ける。これによって、地面を駆けるしかなかったことによる空間の制限を取り払うほか、地面を蹴るしかなかったことによる速度の制限をも取り払う。
・伍 [風啼] ←Update
走りの補助。円錐の先端を前方に向けた形状に空気を圧縮固定し、風よけとする。円錐内側の空気は薄く調整してあり、空気抵抗が小さい。[爆肢]のための圧縮空気は円錐外側から取り込んでいる。
また、音速を超えるとき衝撃波の反動を相殺し、高温となる円錐外側の空気の熱を遮断する。
【心象魔術:天上察知】 ←変化なし
・[感知拡大]
範囲拡大:感知だけなら見渡す限り、察するだけなら雲の上まで感知範囲を拡大。
意識読解:意識を直接向けられていなくても意識を読み、その意図を察し、無意識を把握する。
自動感知:何かに集中していても自動で周囲の情報を感知、処理する。
・[予知]
未来予知:ごく近い未来のできごとをビジョンとして予知する。
【心象魔術:永走】 ←Update
・[走行最適化]
最適化:身体、魔術を問わず、走行に関する動作を最適化する。
一本化:走行に関する魔術の制御を一本化する。
無意識化:意識せずとも、走行補助の魔術を使いながら走行可能。
身体強化:高速域での走行にも耐えられる強い身体に。
思考加速:高速域での走行にも耐えられる思考の処理速度に。
・[突破] ←New
抵抗突破:走りの障害になる外部からの干渉に対し、瞬間的に透過して影響を無効化する。発動時間はごくわずか。
「ナイトメア」 ←New
【心象魔術:七曲】
・[有形歪曲]
固体歪曲:あらゆる固体を曲げて操る。
液体歪曲:あらゆる液体を曲げて操る。
気体歪曲:あらゆる気体を曲げて操る。
・[無形歪曲]
光歪曲:光(電磁波)を曲げて操る。
空間歪曲:空間を曲げて操る。
引力歪曲:引力(重力)を曲げて操る。
魔力歪曲:魔力を曲げて操る。
・[穿つ竜頭](第二、第三の試練)
攻撃技。地面や水や空気などを竜の長首の形にして鞭のように振るう。本数は一~八本。
・[歪曲領域]
防御技。周囲の空気や水などを旋回させ、敵からの遠距離攻撃を逸らす。
・[巨竜の咀嚼](第四の試練)
攻撃技。広範囲の地面や水などを持ち上げ、振り下ろして圧殺する。
・[歪曲迷宮](第四の試練)
防御技。広範囲の空間を不規則に捻じ曲げる。
・[発火魔眼](第五の試練)
攻撃技。赤外線を集束し、レーザーのように放出して操る。
・[超重聖域](第六の試練)
攻撃かつ防御技。周囲の重力を高める。
・[天地崩壊](第七の試練)
攻撃技。超広範囲の重力を反転させる。上空では渦を巻くように操作し、地面を崩しながら竜巻の群れを形成。落ちた地面の残骸は大渦となる。重力を元に戻したあと、大渦を落とす。
・[魔神滅亡](第八の試練)
攻撃かつ防御技。超圧縮した魔力波を全方位に叩きつけ、あらゆる魔力を消し飛ばす。魔力を操る生き物であれば意識を失い、魔物であれば即死する。




