50話 速さの壁を超え
「……は、はは」
天地の逆転によって降り続いていた砂利の雨。
それらが眼下の空を果てしなく覆い、渦巻いている。
その渦までの距離は六キロメートルほどだろうか。本来なら区画の薄暗さによって見えるはずがなく、そのほうが幸せだっただろう。だが……【天上察知】によって大渦の全容を把握できてしまう。
横幅は、馬鹿げていることに悪夢の区画をすべて飲み込む大きさ。天に蓋をする半径十キロメートルの大渦。
厚さは二キロメートル以上。破砕されたレキが密集しているため、多少は圧縮の余地があるものの地面と大差ない。とても通り抜けられるものではない。
理解を超える大きさ。そのプレッシャーたるや……筆舌に尽くしがたい。取るに足りない極小の水滴でさえ、これほど集まれば積乱雲直下のような言い知れない恐怖を感じるだろう。だが、これらは水滴ですらない。地面のガレキなのだ。第二の大地と言っても過言ではない。その物理的な破壊力はどれほどまでか。
これがナイトメアの制御下にあるのだから……悪寒が止まらない。十中八九、この大渦を落としてくる。そう確信できる。
唯一、台風の目のように中心だけぽっかりと穴が空いている。直径七百メートルほどだろうか。大渦が落ちてきたときには、そこだけが突破口になるだろう。
しかし、これほどあからさまな突破口をナイトメアが見逃すはずもない。
絶対に何かある。広範囲攻撃か、あるいは無作為攻撃か。
果たして俺は、それを乗り越えられるだろうか?
天地を操り、大自然の驚異と同等以上のあんな大渦を生み出したこの試練を、最後まで突破できるだろうか?
不安で仕方がない。
試練が変わるたびに、死にかけているのだ。
しかも今回は、桁違いときている。
さっきから危険直感がガンガン反応している。
次の攻撃がどれほどヤバいことか……。
「……それでも、避けるしかない」
たまらず、自分に言い聞かせる。
そして、瞑想。……まずは平静を。
それから、自分の武器を思い出す。心の支えを意識する。
……そう、俺の武器は走りだ。
感知も得意だが、この少女鳥の身体になって磨き続けてきたのは、走りなのだ。
こればかりは自信を持っていい。
なにしろ……俺の走りに、何が追いつける?
「……なにものよりも、俺は速い」
光速にはさすがに負けるが……しかし、熱線攻撃も俺には届かなかった。
そう、どんな攻撃が来ようと、振りきってしまえばいい。
俺には何も届かない。俺の走りが全てを置き去りにするからだ。
そう思えば……不安も薄れようというもの。
「……ただ、速く」
走るだけでいい。
だから……。
「走り抜けてやるぞ、ナイトメア」
俺は宣誓した。
【天上察知】によれば、いつの間にか大渦の目の向こう側に存在しているナイトメア。
そこに向けて、不安を跳ねのけるように決意を表す。
すると……聞こえたわけではないだろうが、ナイトメアの意識に捕捉された。
ちょうど俺の姿を見つけたらしい。
……だが、そんなことより、俺は……。
「ははっ」
吹っ切れていた。
自分の言葉で、気づかされたのだ。
“ただ、速く”“走り抜けるだけ”。
――そう思えば、なんとも単純で、簡単なことではないか?
振り返れば、俺の走りはナイトメアの魔術にも引けを取っていない。走りによって、これまでの試練を乗り越えてきた。
その中で俺がやってきたことは何か? 走り抜けることだけだ。
そうであるなら……ナイトメアの次の攻撃がどうであろうと関係ない。
走り抜ければいいだけだ。
そう思える。いや、そうとしか思えない。
……それに俺はまだ、走りの速さの限界を迎えていない。
それはつまり、さらに速くなるということ。
「……俺も本気を見せよう、ナイトメア」
自重はやめだ。
こんな、悪夢の区画規模の大技を出されては出し渋っている場合ではない。
戦闘中なので自滅を警戒して自重していたが、今の俺には[予知]のビジョンがある。死に直結する失敗もカバーできるに違いない。
ナイトメアの攻撃がどんなに苛烈だろうと、問題ではない。
どんなに難しかろうが……“壁”を超えた俺の走りで、突破してやる。
「ウーリ、見ていてくれ。これが俺の本気の走りだ」
正真正銘の、俺の全速力。走りの真骨頂。それをどうか見守っていてほしかった。
聞こえているかわからなかったが、すぐに「わかったぁ……!」と期待に満ちた肯定の意識が返ってくる。
俺は微笑むと、早速とばかりに眼下に向けて駆け出した。
重力に従い、空へと落ちていく。
目指すは、大渦の目。
その向こう側にいるナイトメア。
……ここからが、俺の本気の速さだ!
最後になりそうな予感の走りが、今、始まった。
直後。
俺の出発を見計らったかのように、それが起きる。
……重力の再反転。
すなわち、正常化。
そのタイミングをナイトメアの意識から読み取っていた俺は、難なく姿勢を翻す。
今度は目的地が頭上になるため、重力に逆らって駆け上がることになる。
だが、それがどうしたとばかりに[爆肢]で加速を続けていく。
……さて。
重力が正常に戻った今。
先ほどまで、眼下にあった大渦が……頭上にある。
それがどうなるかなど、想像するまでもない。
半径十キロメートルの天蓋が、落ちてくる。
やはり、と思うと同時、息を飲む。
「ッ……」
ビリビリと肌がざわつく。
身体がすくみそうになる。
天変地異に匹敵する、ガレキの大渦の落下。圧倒的質量の重圧。
あたかも大自然の驚異に立ち向かうような根源的恐怖。
だが……問題はない!
このまま大渦の目を抜ければいいだけだ!
そうやって自分を奮起する。
故意に、あることから目を逸らす。
しかし、俺もわかっていた。このまま安全に大渦の目を通り抜けられるわけがないことを。
新たな攻撃が来ることを。
そして……。
大渦の目が、閉じ始めた。
「ッ!?」
その意味を思い知らせるように、ビジョンが発動。
大渦の目が閉じてしまい、通過が間に合わない未来。
そこで俺は逃げ場を失い、大渦の下敷きになって圧死している。
大渦の目を閉じるなんてアリか!?
しかも速い! 閉じきるまでざっと十秒か……ッ!
……対して、大渦の目までの距離。
六キロメートル。
加えて大渦の厚さ、二キロメートル。
通り抜けるまでの合計距離、八キロメートル。
大渦そのものも落下してきているため、多少は距離が縮まるだろうが……それでも十秒で、八キロメートルを走り抜けなければならない。
つまり平均して秒速800m。ちなみに音速が秒速340m。
……無茶だ。無謀だ。
そうして、胸の内からとある感情がこみ上げてくる。
これは……絶望か?
自分に問いかける。
だがそうするまでもなく、即座にその正体を理解する。
「――ははっ!」
違う。
これは、歓喜だ。
なぜなら、そう……それは、挑戦だから。
どれだけ速く走れるのかという挑戦であるから。
音速でも間に合わない? 想像を絶する速度が必要?
……ああ、最高じゃないか!
先ほど、自重はやめると決断した途端にこれだ! わざわざ速さを追求する舞台を整えてくれたのだ!
こんなの、喜ばないではいられないだろ!
俺は不敵な笑みをこぼす。速く走ることを強いてくれる世界に感謝を捧げる。
そして、加速の力を限界まで引き上げた。
一般人だったら吹き飛ばされて重傷を負うレベルの爆風。それを全力で蹴り出し、[風啼]で暴風をまき散らしながら突き進む。
しかも、ただ真っ直ぐ。ナイトメアの意識に捕捉されるのもお構いなしに。
間合いの操作だろうがなんだろうがそれを圧倒的に上回る速度を出せば問題ない。
自重をやめた俺は、加速のアクセルを全開で踏みっぱなしにする。
――大渦の目が閉じるまで、残り九秒。
静止状態からの加速なので、速度が出るまで多少は時間がかかる。
手痛い時間のロスだ。
だが、それがどうしたと言わんばかりに、すぐにこれまでの最高速度に到達。
時速600km? 時速700km? なんでもいい。
自重をやめた俺にとってはただの通過点でしかない。
途方もない加速の力に身体が悲鳴を上げる。しかしそれは期待の裏返しでもある。それほどの力で加速し続けているということなのだから。
そうして加速を一切緩めることなく、過去の最高速度をあっという間に通過。
世界が、俺の知らない速さで後ろに遠ざかっていく。
少女鳥の心が、そして俺の心も、最高速度をドンドン更新していくことに歓喜する。
そしてついに、恐れていた速度に足を踏み入れる。
そこでは何が起きるかわからない。
ただ一つ確信していたことは、トラブルが起きて自滅するだろうということ。
だが、もう止められない。いや、止まる気などさらさらない!
……さあ、“壁”を超えろ!
そう意気込んだときだった。
「ッ!」
新たなビジョンが発動。
[風啼]が壊され、体勢を崩し、大渦の目の通過に間に合わなくなる未来。
その原因は……予想通り。
だが、【天井察知】がより詳細に教えてくれる。
それは、音の壁。
音速を超えることによる衝撃波。その反動。
これこそが、俺が本気の速さを自重していた理由。
だが……こうしてビジョンが見えた今、対処できるはずだ!
瞬時に頭が回転する。
この問題は、衝撃波の反動で[風啼]が壊れること。
これを防ぐにはどうすればいいか。
[風啼]の強度を上げる?
だが、[風啼]は圧縮空気による風よけ。もともとは空気なので、強度をどうやって上げればいいかわからない。
衝撃波の反動をかき分ける?
意味がわからない。空気ですらない圧力をかき分けるなど、どうしろと。
口元の笑みが凍りつく。
具体案が思いつかない。
このままでは……死ぬ。
命の危機に、加速する思考。
だが……答えは見つからない。
[風啼]でどうにかする方法が思いつかない。
そもそも、衝撃波の反動をどうにかするなど、鎧を着込みでもしなければどうにかなるとは思えない。
じわり、と焦りが忍び寄る。
くそ……俺では無理なのか?
こんなときに、少女鳥の身体が最速の走りに喜んでばかりいるのが憎らしい。
おまえも何かアイデアを出せないのか? と、無茶な要求をしてしまう。
それだけ追い詰められてしまっている。だが、そんなことを考えるのは不毛だ。少女鳥の身体に思考する人格はないのだ。俺が考えなければどうしようも……いや、待て。
ふいに、バカバカしいような奇策が思い浮かぶ。
……おまえの【永走】ならどうにかなるのか? と。
俺はとある確信をもって、【永走】の[走行最適化]に制御を委ねてみた。すなわち、[風啼]の改良を任せてみる。
そうして俺は、[風啼]に追加したい効果だけを強くイメージする。
それは、水精魔術のイメージ。
風よけで切り開く対象の拡張。水への応用。
空気のみならず、水すら切り開き、水圧をものともせず受け流す。
その延長で、衝撃波の反動をも受け流すというイメージ。
しかし手段の判然としない夢物語だ。俺だったら意味がわからないと投げ出す提案。
……ちなみに水精魔術に関していえば、親和精ではないが、それにこだわってはいなかった。つまり、使えないというイメージを抱いていなかった。
そもそも親和精とは、性格による相性を反映させたもの。
体質だったらどうしようもなかったが、性格であれば話は変わる。
確かに俺は器用なほうで、繊細な操作を要する空精は性に合う親和精だ。そして大ざっぱな操作である地精は不和精だ。
だが……俺も地精が使えないことはない。操作の感覚が気に入らず習熟速度が落ちるだろうが、それでも時間をかければ地精が使えるようになるだろう。
また、地精の中でも、例えば繊細な操作を要する技があるなら俺には合う。その技なら例外的に、地精親和の術師より俺のほうが習得しやすいだろう。ラウレの[火消]もそのたぐいだと思われる。
性格による相性とはそういうことだ。
だから、水精魔術も技によってはすぐに使えると思っていた。
それが良かったのだろうか……。
音速突破に起因するビジョンが、消失した。
「!?」
それはつまり、衝撃波の反動を受けても[風啼]が壊れなくなったということ。
[風啼]の改良が成功したということ。
……マジか!?
水精魔術というチョイスもかなり適当だったが!? 逆になんで成功した!? 衝撃波の反動をどうやって!?
俺は【永走】のデタラメさに喜ぶよりも驚愕する。
……それもつかの間。
ドンッ、と周囲で衝撃波が発生。
いや、[風啼]が衝撃波をまき散らす。それこそ、空気を潰して啼かせるかのように。
「っ!?」
それは、音速突破の証。
そして、周囲の空気がねっとりと[風啼]に絡みつく。あたかも空気が水になったような感覚。
水のように重たい空気を[風啼]が切り開いていく。……そういう意味では、水精魔術のイメージもあながち的外れではなかったのか。
衝撃波の反動も、どうやったのか、なくなっている。……いや、魔力消費が不自然に激しくなっている。これ、本当に水精魔術の効果だけなのか? それにしては妙に消費が多すぎる。かなり無茶なことをやっていないか、【永走】よ。
消費したぶんは、周囲からの魔力回復とウーリからの魔力補給で充分にまかなえる範囲だが……。
まあ、なんにせよ、音速を突破できたのだから良いか。
俺はすぐに気持ちを切り替え、よくやった! と少女鳥の心に声をかける。
そして思うまま、加速を続けていく。
――大渦の目が閉じるまで、残り八秒。
だが……。
ガクン、と加速が落ちた。
「!?」
理由はすぐに判明する。
[爆肢]用の圧縮空気が作りにくくなっている。
音速を超えたことで、[風啼]外側から空気を取り込みにくくなっていた。それによって圧縮空気が作りにくくなっていた。
……というか、[爆肢]のために[風啼]外側から空気を取り込んでいたのかと今更気づく。
いつの間に。【永走】によるものか。
……だったら、これも任せた!
俺はそう思いつつ、[風啼]外側のねっとりした空気から、圧縮空気に必要な空気を取り込むことを念じる。
すると、直後、[爆肢]用の圧縮空気が作りやすくなった。空気の取り込みに成功したのだろう。
加速が回復する。
良い仕事だ! と【永走】をねぎらう。
それから思うまま、加速を続けていく。
――大渦の目が閉じるまで、残り七秒。
まだ、大渦の目までの半分も来ていない。というか一キロメートルも進んでいない。
残り七キロメートルも残っている。
圧死のビジョンだって消えていない。このままでは間に合わないかもしれない。
……だが、俺は心配していなかった。むしろ期待しかない。
加速は、いまだ止まってはいない。
まだまだ、行ける。もっともっと速くなれる。
そして後半の伸びがすごいことになるはずなのだ!
ついに危機感すら置き去りにして、心の中が走りの歓喜一色となる。少女鳥の心に感化されたのかもしれない。
瞑想で正気に戻るべきか。しかし……不思議と、これで良いと直感した。
俺は走りの衝動に身を任せ、思うまま加速を続けていく。
――大渦の目が閉じるまで、残り六秒。
再び、新たなビジョンが発動。
原因不明の熱にやられ、意識を失い、大渦の目の中で潰される未来。
しかし、俺はその原因や対策案を深く追究しなかった。いや、その必要性をまったく感じなかった。
どうすればいいかなど、わかりきっていたのだから。
……頼む、【永走】!
俺は声をかけると同時、[風啼]の内側から外側に熱を排出するイメージを抱く。
もはや空精魔術でも水精魔術でもなく、五精魔術ですらない。あるいは、熱の操作は火精魔術かもしれないが、火でもないのだ、よくわからない。
だが、それでも構わない。いけると思えばそれで充分だった。
直後、熱にやられるビジョンが消失。
熱の排出システムがうまく作動したらしい。
……【永走】、グッジョブだ!
とはいえやはり排熱操作は無茶だったのか、再び魔力消費量が急増している。
しかし……まだ供給のほうが上回っている。というかウーリからの補給量が大きいのだ。
よって、走りの障害にはなりえない。
俺は夢中になって加速を続けていく。
――大渦の目が閉じるまで、残り五秒。
俺は知らず、熱の“壁”を突破していた。
現在は、ねっとりとした空気と[風啼]の間に熱が発生している。おそらく摩擦によるものだろう。そして本来ならこの熱が、[風啼]内側に伝わってきていたのだろうと考えられる。
だが、それは対処済みだ。[風啼]に組み込まれた排熱システムが作動しているため、こちらに熱は伝わってこない。
俺は別の熱に浮かされたように、嬉々として加速していく。
というのも、本当に、速さの限界が見えてこないのだ。
これほど楽しいことが他にあろうか……!
まるで同意するかのように、ウーリからも楽しそうな意識が飛んでくる。
ウーリという支持者を得て、俺の加速はますます止まらない。
俺は思う存分、果てしなく加速を続けていく。
――大渦の目が閉じるまで、残り四秒。
ここにきてようやく、大渦の目までの半分に到達。
そうして、あっという間に通過した。
八キロメートルあった距離は残り五キロメートル。
これに対して、十秒あった時間は残り四秒を切っている。
間に合わないビジョンも消えていない。
だが……行ける気しかしない!
止まらない加速! 急増し続ける速度!
俺は熱と衝撃波をまき散らしながら、いつまでも加速を続けていく。
――大渦の目が閉じるまで、残り三秒。
加速が止まらない。
加速の障害がすべて排除されている。
強烈な加速の力に悲鳴を上げていた身体もいつしか沈黙していた。いや、痛覚や触覚が麻痺したのではなく、身体の強度が上がっている。身体強化だろうか。強烈な加速に耐えられるようになっている。
加えて、瞬く間に通り過ぎていく世界がよく見える。動体視力だけによるものではない。どうやら、認識や把握といった思考速度が上昇している。こちらは思考加速だろう。
これらも【永走】によるものに違いない。音速の何倍もの走りにも耐えられる身体へと最適化された結果だろう。
……万能か! 本当に最高だな、おまえは!
俺は【永走】に全幅の信頼を寄せ、もろもろの制御を委ねる。
そして、気持ち良く加速を続けていく。
――大渦の目が閉じるまで、残り二秒。
……ようやく、辿り着いた。
そう……ついに、大渦の目の中に突入したのだ。
そこはまるでトンネルのように、筒状の空間が真上に伸びている。
今も大渦の目が閉じていくため、四方からガレキの壁が迫ってくる。
だが、ひどくゆっくりと感じられる。俺の走りに比べれば全然大したことがないのだ。
俺の走ったあとには、音速の数倍という強力な衝撃波でガレキの壁が粉砕され、弾け飛ぶ。大渦の目が閉じるのを待つことなく、後方で大渦の目が破壊されていく。
結果的に、退路が断たれたも同然。
だが、そんなことはどうだっていい。
ただ速く走ること。それだけがすべて。
……いや、もちろんナイトメアを倒すことも念頭にある。
だが、走り抜ければそれは達成される気がしていた。
このままナイトメアの傍を走り抜けたとする。
そうすれば、[風啼]によるこの強力な衝撃波がナイトメアを打ちのめすだろう。
そう、走り抜けるだけでナイトメアを攻撃できるのだ。
その事実の、なんと素晴らしいことか!
ナイトメアを倒すという目的と、速く走るという目的を同時に達成できる。
俺は少女鳥の心と歓喜を共有したまま、ナイトメアに向けて一直線に加速を続けていく。
そして……。
大渦の目を壊しながら走り抜ける俺へと、ナイトメアからとある意識が向けられた。
――それは、称賛だった。




