第四話「これからのこと」
9/8題名変更
「弟子になったところで、最初に軽くあなたに対して忠告しておく」
「?」
なんだろう。あれか? ここから先はもう戻れないぞ、的なやつか? いや、それなら弟子にする前に言っているはずだし……
俺は、イアさんの言葉の続きを首を傾げて待った。
すると……。
「あなた、人のことを信用しすぎ」
そう言いながら、イアさんは不気味に顔を引き攣らせてニタァと笑った。
「えっ……ちょっとま……」
ああ、殺される。その顔を見た瞬間穴という穴から汗が吹き出し、俺は本能的に察した。
今どうあがいても、俺はイアさんに勝てやしない。あらがうなんて、蟻が象に喧嘩を売る様なもの。この人とは、生物の格が違うのだ。
「死になさい」
そして、イアさんは俺に向けて魔法陣らしき幾何学模様を瞬時に組み、何かを発射……糞、何故か思考が鮮明になってきやがった。
もしかすると、いや……もしかしなくても俺は嵌められたのか? でも、俺にはイアさんが悪い人には見えなかったが……
……しかし、悪人は得てして善人の皮を被り、さも本当の善人より善人である風に装う。それに、俺がイアさんをどう弁護したところで〝裏切られた〟。この事実は変わらないのだ。
畜生。無駄に鮮明な思考が見たくもない思い出を流してくる。ほら、黒い歴史の一ページたちが手を振ってやってくるぞ。アハハハハッ☆、ウフフフフッ……じゃない、ギャーーー!
っと、気づいたらもう発射された何かは頭の目の前だ。はっきり言って魔法云々で作られたであろうアレは異世界に来たばっかりの俺には得体がしれないが、それでも当たった瞬間俺の脳漿をブチまくことは容易に想像出来た。
俺は無駄を悟り、脳から一切の思考を叩き出して、せめてもの静かな最期を迎えようとした。
そして、決心して目を瞑った俺の事を介錯する様に、イアさんのはなった何かが俺の頭を穿……
……たなかった。
恐る恐る目を開けると、そこには先程と何も変わらない風景。
「……はぇ!?」
あれっ? どういうことだ? 俺は確かにイアさんが豹変するのを見た。
でも、現実にはイアさんは普通に座ったまま。それも弟子入り承諾後すぐと同じ体制、同じ表情で、だ。
信じられないが、イアさんは最初から一切動いていなかったのだ。
「無詠唱での『聖』古代級中位だっけ……の幻影魔法であなたに映像を見せて、『振』を利用して音を『作った』のよ。簡易的だったから少しイメージが甘くて適当だったけど、引っかかったかしら」
俺があっけにとられていると、イアさんは得意気に説明する。
今の幻影!? しかも音も偽物!?!?
「今の君は油断しすぎだわ。きっと前の世界では純粋か馬鹿かのどちらかだったのね。
まあ、この世界にきて間もないこともあるけど……それでもことが起こってからでは遅いわ。だから今のうちに戒めておこうと思って。
話を聞くと元男だったんでしょうけど……この際ハッキリ言わせてもらうわ。
あなたの前の世界での容姿がどんなに猛々しくむさくるしい男だったとしても、今はかわいい女の子なのよ。
この程度で引っかかっていたら、この世界では一日目でだまされて奴隷の首輪をはめられ、二日目で下種に買われて、三日目で不幸な生涯を終えるわ。良くてスラム街行きかしら。……あなたの容姿なら、本物の下種はともかく、女にはおもちゃにされて、男は全員紳士的になるかもしれないけど。
ともかく初めてあった人は、無条件で警戒すること。どんなに外面がよくてもね」
この人絶対何処かで騙されたことあるんだ。そうじゃないと、この鬼気迫るような表情は説明できないもん。
「後は……どんな困難があったとしても諦めないで。あなたは力を持っている。でも、それと同時に同じ量の絶望も生み出せる。それは、自分のものでもあり、知らない人のものでもある。私の予測が正しければ、あなたは少なくとも一度絶望する。原因はわからないけど。そんな時、自分に負けないで。あなたに責任はない。それだけは言っておくわ」
んー? 意味深な言葉だけど、聞き捨てならないな。一度この異世界に絶望するって? しかも他の人を巻き込んで? 今は情報が少なすぎて深読みしてもしょうがないし、深く考えずに、修行の厳しさに対する釈明と受け取っておこう。
◇◆◇
……深く考えなかった俺だが、そのことを今でも後悔している。うん、あれはフラグだったんだ。まさか自分でフラグを立てることになるなんて……この後想像以上の絶望を見ることになった。
……修行で。
それはさておき、イアさんの言葉は続く。
「警戒と、自分に負けないこと。この二つは例え私の元から離れたとしても絶対に忘れないで。忠告は以上よ」
「はい」
俺はイアさんの言葉に色々と疑問を持ちながらも、一先ずはしっかりとうなずくのだった。
「さてと……忠告も終わったところだし、これからの方針でも言いましょうか。簡単に順を追って述べていくと、まず最初に『器合わせ』。その次に、武術全般と魔法全般、そして学問全般を鍛える。その次もあるけど今教えられるのはここまでだわ」
「器合わせ?」
「簡潔に言うと魔力を適性のある他の人と混ぜて、器合わせした二人の内魔力の最大量が低い方の魔力を、魔力の最大量が高い方と同量にするって感じ。適性なんか普通何百万人に一人しかいないんだけどね。……しかもそれ相応の時間と苦痛があったりするけど。
でも幸いにも、あなたは私に対する適性がありそうだし、あなたは『界渡り』を経験しているから。流石にあれ以上の苦痛では無いから大丈夫そうね」
少しややこしいけど要するに、二人の内、量の多い方に魔力を合わせるってことか。
へー。苦痛か。やっぱりこういうのにはリスクが付き物なんだな。でも界渡りよりマシなら大丈夫かな?
「いつやるんですか?」
「器合わせは現実ではそんなに時間がかからないけど、あなたも無理矢理連れてこられて疲れてるでしょ。今日は休んで、また明日にしましょう」
……イアさんマジ感謝。この人最高だわ。天使だわ。誰だ、脳筋とか言ってたやつ。
この後、夕食を食べさせてもらった。鳥のようなお肉を焼いたものとか、おしゃれなサラダ(なんかクリーム色のドレッシングが掛かっている)とか、自家製パンとか…一つ一つのレベルが高い。そのくせ味付けは極上で、ありがたくいただかせてもらった。
後は……ついにトイレに行ったぜ。あんまり地球と変わらない洋式だったけど、洗浄、消臭、浄化、すべて魔法で行ってるようだ。文明レベル高くね? とか思ったが、よくよく考えたら、イアさんがこの世界の文明のいいとこどりをしてるかもしれないんだし、それは当たり前だろう。
いや、そこじゃない? ああ、そっちか。
パンツを脱いで、座ったんだが……あれだ。もし、女性が男性になったら恐らく正確に狙いをつけて発射できるが、男性が女性になったら無理だな。……なんであの方向に飛ぶの!?
ええ、掃除することになりましたよ。もうこの体辞めたい……。男としての何かなんかもうボロ雑巾ですわ。
体……そうだ! そういやスキル欄に《肉体変化》何てワンダフルな代物があったな! 後で調べよう。
トイレの次に何かを失いそうな場所はどこか。そう、風呂だ。と言うことで、イアさん宅の風呂に入れさせてもらった。
大したことはないユニットバスに見える。でも、この世界ではそれが可笑しいはずなのだ。……二億年もあれば、この程度はできて当たり前か。
ちなみに、前にムラムラしていないとか言ってた俺だが、ふと幼女になった自分の裸を見て、何故かムラムラしてきた件(こ、事には及んでないよ? ご、5歳児みたいな体だしね……するわけないじゃないか)については黒歴史指定を受けましたので除外します。
あーあ。これから生理とかそういう系のやつが来ると考えると憂鬱だ。赤ちゃん生むなんて痛いらしいし論外。何度も言うけどそもそも野郎と事に及びたくないし……男のままでありたかった。
そうそう、よく考えれば自分の姿をしっかりと見てなかったので、途中置いてあった全身鏡で自分の姿を見てみたが……そこにいたのはどう見たって金髪碧眼の幼女でした。端的に言うと死にたい……。
しかしまるで外国人だけど、どうして生粋の日本人の筈の俺がこんな容姿になってしまったのかが良く分からない。
ひょっとするとこれもあの神のせいか? あいつならやりかねないしな……。
そんな感じで風呂も入り終わり食事も終えた今、俺は目覚めた時と同じ部屋のベッドにいる。イアさんにこの部屋を使う様に言われたからだ。イアたんマジ天使。
誰だ邪神崇めてるみたいだとか言ってる奴。
茶番はさておき、今は布団の中で俺の持っている「能力及び技能」……簡単に言っちゃうと「スキル」……がどういう物が見極めている最中だ。
「よーし、《理解》!」
イアさん曰く、頭の中で念じながら唱えると発動するかもしれない、とのこと。しかし、イアさんでもスキルについてはあまりわかっていないらしい???というよりは多くを語らないといった感じ。少し語ったことを聞けば、ステータス魔法を作った時に初めて気づいたらしい。
俺が《理解》と唱えると同時に、頭の中に何かが入って来た……どうやらONとOFFを切り替えられるパッシブスキル、といったようなものらしいな。
勿論ONにした。すると「くぁwせdrftgyふじこlp!!!!!!!!!!!!!!!!」
〜しばらくお待ち下さい〜
……………………………………………はあ、はあ……頭の中に無理矢理情報が入ってきた。どうやらまず強制的に《理解》という〝スキル自体〟を理解させられたらしい。ご都合主義なスキルだな……でも、これってどんな仕組みになってるんだ? こんなの作ろうものならそれこそ思考実験でよくある限りなく強度の高い物質とか、全知全能の知能とか、現実ではあり得ないものでもなければ無理だと思うが……まあ、そこは異世界補正だと考えよう。
ふむふむ、成程。
流れてきた情報を読むに、《理解》は、五感に入っている対象を知ろうとすることで発動し、対象に関する情報を理解することができるスキルだ。無論そのままでは最強すぎるのか、色々制限があったりするけど……それについて話すと長ったらしい話になるからそこは省こう。
……どうやら、デフォルトでは言葉がいらない仕様になっているらしい。上手く言い表しづらいけど……脳内で言語を使用せず対象を理解ってとこか? 言葉無しで思考を行う魔物向けっぽいな。この世界に魔物とかがいるかは知らんが……まあ、俺には日本語という正真正銘の母国語があるしいらない設定だ。
……んっ? ステータス魔法と連動させることができるのか。で、連動させたらステータス魔法は改竄扱いになるから、双方の任意がなくても無詠唱で相手の情報を見ることができる?
……やべえ。なんかイアさんの作ったリミッター(セクハラ防止用)ぶっ壊しちゃった。……まあ、イアさんによればステータスは、表面上の状態だけを見せるものだから、すぐにエラーを起こすらしいしな!大丈夫なはず……。大したことではない大したことではない大したことではない…………………………………。
ともあれ、ステータス魔法と連動させることで、まあライトノベルではよくある「鑑定魔法」っぽくなったからいいか。ありがたく有効活用させてもらおう。じゃあ、他のスキルとかも調べてみよう。ちょっとステータスを改めて出してみよう。……無詠唱で。
スゥ……ハッッッ!!!
頭の中でイアさんが詠唱していた言葉を何回か反芻していたので、スムーズにできた。途端、今度は脳内に直接ステータス? らしきものが出て来た。
名前 無し
※エラーが発生しています。対象の個人名称は消去されています
5歳 女
種族及び性質 精神生命体
適正属性 毒 水 氷 火 風 土 電 闇 聖 無 増 止 反 空間 時
体力 10/10 189250
魔力 150/150 259000
攻撃力 5 34500
防御力 10 78000
魔法攻撃力 50 128000
魔法防御力 1500 1087645
能力及び技能
《完全記憶》《思考加速》《肉体変化》《不死》《不撓不屈》《ポーカーフェイス》《整理》《理解》
祝福及び加護
《気まぐれな神の加護》《転移者》《界渡り》《傍観者》《たけyzばっybwかいるにa》《eつhasnもu》《チめぇアぺr》
待て待て待て待て待て! 何か文字化け増えてる!
これ、アレや。アカンやつや。具体例をあげると、呪いとか、そういう類のテンプレでよくあるやつや。
こういうブラックボックスは早めに中身を知った方がいい。《理解》の練習のためにも、一先ずこいつらから《理解》してみるか……とりあえず最初の《たけyzばっybwかいるにa》って奴だ。
《理解》!
【error】
「はぁ?」
俺は脳内で出た表示を理解するのに数秒かかった上、したと同時に思わず声が出てしまった。
何かの間違いじゃないよな……《理解》!
【error】
……どうやら間違いではないらしい。畜生、こんな重要そうな時に限って役立たずな……
こっちの《eつhasnもu》もやってみよう。《理解》!
【error】
表示に堪えきれず、溜息をつく。
これじゃあ薄々結果が察せるけど、一縷の希望を捨てちゃいけない。全く違う表示かも知れないし、最後のにかけるか……《理解》!
【error】
結果は最後も同じか。文字化け加護は結局何なのかわからずじまい……これじゃあ仕様が無い。諦めて他の欄について《理解》を使うか。
興がそがれたけど、気を取り直していこう。よし!手当たり次第に《理解》だ!!!
【精神生命体
何らかの外的要因で精神と肉体が生きたまま切り離されたことがある時、本人の適性及び環境要因により精神生命体となる場合がある。精神生命体は、肉体が滅んでも生存可能であり、精神が消滅することで初めて死ぬこととなる。生まれながらの精神生命体には性別の概念がないが、高位の生命体には一部例外もある。《完全記憶》《思考加速》《肉体変化》を獲得の可能性。《不死》を獲得】
精神生命体、か。恐らく界渡りで肉体が変化したんだろう。獲得できるスキルを見ると結構チートっぽい。
……というかもう疲れてきた。今日は下の方のやつを調べて寝よう。
【完全記憶
五感の情報を完全に記憶することができる。】
日本ではチートだったんだろうな。中学の時に獲得したかった……
【思考加速
思考速度が通常より上昇する。思考をすればするほど上昇する】
読んで字のごとくってか。目新しいものが無さ過ぎて退屈だ……。説明欄を見るだけで眠くなる。
【肉体変化
任意により肉体の男女比を変化可能。但】むにゃむにゃ……ハッッッ!!! これだよこれ! これは俺のためにあるようなスキルじゃないか!!! これを使えばこの醜い? 体ともおさらばだ! ヒャッハッハッハッハーーーー!
……まあ、とにかく続きがあるらしいから読んでみよう。
【……但し、性別は変えられないので注意。男女の容姿割合は現在男〇対女十。スキルで男四対女六まで変更可能。又、任意で派生能力超速再生取得も可能。承認後の変更は不可】
あ、そうっすか。スキル使ってもまだ女の子なんすか。もういいっす。死にたいっす。
……でも、この超速再生って奴は役立ちそうだな。取得しとくか。
【超速再生を取得しますか?】
はい。
【超速再生を取得します】
【超速再生
肉体に損害が出た場合発動。該当部位の生命力を一時的に上げ再生。再生速度は自然のそれを遥かに凌駕する】
重ね重ね言うけどまさに読んで字の如くって感じだな。正直調べる意味あったんだろうか……
【不死
精神消滅でなければ死ななくなる】
これは精神生命体デフォルトのスキルだろうな。これだけでも結構チートな気がするが……
【不撓不屈
決してあきらめない。絶望しても這い上がる力。精神強度が上昇】
【ポーカーフェイス
感情を表に出しにくくなる。パッシブスキル。ONOFF可能。現在はOFF】
【整理
何かを整えたりすることが上手になる】
この三つはもともと持ってたんだろうけどな。ポーカーフェイスと整理は判るけど、不撓不屈か。これ、ふとうふくつって読むんだよな。何で手に入れたんだろう……《理解》では、手に入れた経緯はよくわからないし……文章から考えるに界渡りの時かな?
俺はステータスをしばらく見て考えていたが、ふと時計を見るとかなりの時間がたっていることに気づいた。祝福及び加護のところはまた明日にしよう。
少し気が向いたので、明かりを消して窓の外を見る。外には、青い大きな星……大きさは地球から見る月より一回りデカいぐらいか……が、まん丸の虫食いを見せながら煌々と光り輝いていた。その月のせいで少し見えづらいが、周りには日本とは比べ物にならないほどたくさんの星が存在を主張していて、その光景は、幻想的というほかない。
こんな光景を見ると、自分は異世界に来たのだとしみじみと実感し、ついひとりごちる。
「俺なんかが異世界、か。本当、夢みたいだよな……」
真は、いまにも溶けてしまいそうな……それこそ夢の様な幻想的な光景をしばし目に焼き付けた後、布団に入った。
そして、数分も経たない内にぐっすりと寝ていたのであった。
◇◆◇
◇◆◇
◇◆◇
「何だよ……俺が何をしたって言うんだよ!!」
「お前の✕✕がイケナイんだろ? そんな✕みたいな✕✕してさ」
「ほんとそれだわ」
「だよなー」
周囲が同調して……周囲の顔が、男女問わず悪魔の歪んだ笑みに変貌して僕は追い込まれる。
そして、僕は◇◆◇
ザザザ……
◇◆◇
「何でだよ……何だってお゛前゛は゛ァ゛!!い゛つ゛も゛ォ゛!!そ゛ん゛な゛に゛ィ……ヒック」
涙を乱暴に拭い、鼻水を啜り、少年は続ける。
「……そんなにぃぃぃ……✕✕✕、んだよォ……」
「俺は何度も……何度も何度もぉ……ヒック……✕✕✕✕✕✕のに……」
その言葉に、俺は…◇◆◇
ザザ……
ザ……
◇◆◇
「大丈夫、お前なら出来るよ。やってやれ」
「そうじゃ! 我を残して死ぬなどと戯言を吐くでない!可愛い弟子の約束を破るでないぞ!」
「……信じてますから」
俺はそんな声に後押しされて、光へと進む。そこで、俺は…◇◆◇