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第三話「弟子入り」

9/8最後が露骨すぎたので修正

「あああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!」


「とりあえずベッドから出ましょう」


 言うと同時、俺は何かに包まれ。


「あ……?」


 気が付けば、イアさんにジト目で睨まれていたのであった。


◇◆◇


「はあ……」


 まさかのTSに愕然とした俺は、延々と我を失って叫んでいた……そうだ。なんか叫んだ記憶が飛んでいる。


 お陰でイアさんに散々呆れられてしまった。何せ嫌という程呼び掛けても反応せずにただ喚き叫び、転げ回り、なんと最終手段として魔法を使わざるを得ない程だったのだ。事情を説明したら一応納得していたが、最後までジト目は治らなかった。


 ……その後、よくよく考えてみたら自分が「女性」ではなく、「幼女」とでもいうべきものになってしまったことに気が付き、発狂した……そうだ(案の定記憶はない)。また叫び回ったんだろうが、イアさん曰く〝叩けば治った〟とか。俺はブラウン管テレビか……


 ああ、因みに服は何故か最初から着ていた。……着ていたが、裸に白いワンピースだけという冗談の様な格好だったが。


 あの神の計らいだろうが、男だった奴にわざわざこんな物用意出来るのならこの体……幼女化についてもあの場でちゃんと説明できたと思う。というか絶対出来た。そうでなけりゃ神なんてご大層な名前で呼ばれる訳が無いだろう。本当にこの体じょたいかに関しては神の悪戯とでもいうべきだ。……悪戯の範疇をチョモランマ並に飛び越えてる点については留意が必要だが。あいつは呪い殺す、とまではいかずとも一回ぶん殴ってやる。それまでは死んでも死にきれないだろう。


 まあ、経緯はどうであれ流石に裸ワンピで過ごすわけにもいかないので、下着はイアさんのを借りた。この世界の魔法は高性能なようで、魔法による加工を施されているパンツは伸縮自在、この体にもしっくり馴染んだ。


 え? パンツ穿くときに何かを失うような感情が湧かなかったかだって?


 ……何も湧かなかった訳ではないが、男として大切な何かを失ったとか、そんな感情は湧かなかった。たとえそれが美女のパンツであったとしても、だ。驚いている自分がいると同時に、反対に冷静になっている自分もいた。


 俺の予想では単に俺の中での『女になった』という衝撃が強すぎて、『女としてパンツを穿いた』という方の衝撃がなくなってしまったのではないかと思う。流石に生理とか、生理現象とかは何か大切なものを代償とする気もするのだが……まあ、どちらもまだなってないから良しとする(要は先送り)。未来の自分にエールを送っておこう。


 それよりも不思議なのが、あんなに異常で性欲の権化みたいな存在だった俺が、この体になってまだ一回もムラムラしたことがない、ということだ。キ〇ガイ神のそれはそれはありがたーい塵加護のお陰で一日オナ禁したら即日夢精がデフォルトの俺がだぞ? 


 あの神も加護の効果が切れかかってるとは言ってたものの、切れてるとは言っていない。それなのになぜムラムラしない。やっぱ身体が生殖に適していないせいだろうか。


 正直あのキモイ程の性欲が無くなるのは大歓迎だし有り難い。


 ……有り難い、が、しかし……そうだとしたら成長してそういう体つきになった時が恐ろしい。例えば性欲に抗えず毎晩男と一緒にニャンニャン……いやああああぁぁぁぁ!! 無理無理! 我慢出来るとかそんな問題では無く生理的に無理! 特に俺がニャンニャンする側ってのがもう無理!


 決めた! 俺の異世界での目標は『男に戻る』と『神に一発パンチを打ち噛ます』だ!


 今ならイアさんがあの糞とか言った気持ちも分かる。あの馬鹿神、覚悟しとけよ……



 ◇◆◇



 ところで、今は同じ部屋……ベッドと衣類のロッカー、机と椅子が置いてあるぐらいの必要最低限を追求したような部屋だ……でイアさんと面と向かって腰掛けている。先程俺の絶叫により中断してしまった質問タイムだが、イアさんの計らいによって再開させてもらっていた。


「そもそもこのステータス? 魔法ってだれが作ったんですか?」


「ああ、私が一憶五千ま……コホン、()数十年前に作ったものだと思うわ。」


 明らかにおかしい言葉が混ざっていた気が……ぐは! イアさんから途轍もない殺気を感じたからこれについては考えないでおこう。


 イアさんの年齢はかなり気になるが、自分の命の方が大切だし他にも重大な情報があった。


「ステータス魔法、イアさんが作ったんですか!?」


「そうよ。以前貴方と同じ様に他の世界から来た人が言っていた、

『自分の能力を数値化すると同時に数値化できないような称号とか、加護とかのetc.も文章に変換するステータス魔法が私の世界にはあった』

 という言葉をヒントにして、独力で数万ね……いや、()数週間かけて作り上げたのよ。


 使い方は、まずきじゅんとなるものを設定する。数値化するなら何か相対的な基準となるものさしが必要だからね。基本を一としってところの基本の部分をあなたの名前とか、私の名前に変えるのよ。そして誰のステータスを開示するか「彼の」を変えて選ぶの。後は勝手に光が魔力に反応し収束して、諸々の情報が記された光の板の出来上がりってわけ。


 この魔法は細部にまで時間かけたなぁ。この世界の主要な言語全てに対応させて、新しい技や言語、スキルとかが出て来た時に対応できるように、簡易的な思考能力、学習能力を兼ね備えてる人工知能も術式に搭載したし、ハラスメント目的で使うやつが絶対いるから、無詠唱では開けず、使用者が最低限『周りがしっかり聞き取れるくらいの音声』と認識している声で詠唱しないと開けないようにしてるの。しかも開示させられる人が嫌なら、『レジスト』とか、その人にとって『拒絶』を意味する言葉を言うか考えれば簡単に完成しなくなるから。私の自信作よ」


 ハイスペックすぎだろ……人工知能搭載の魔法って何かよくわからんけど凄さを感じる……でも魔法のことはよく語るな、イアさん。魔法好きなのかなぁ。


 ……ああ、ステータスといえば、《理解》でステータスについて調べるのは少し後にした。いつでもできるからね。


 そしてこの話の後、しばらくこの世界の基本的なことを聞いたので、簡単にまとめよう。


・この世界の時間の単位は幸いにも日本と似通っておりほぼ長さも一緒だったので、これからは秒とか前の世界のままに頭で変換するようにした。結果わかったことはこの世界の一日は約三十時間もある、ということだ。


 こんなに一日の長さがずれていたら心身ともに影響をきたすのは想像に難くないし、先に召喚された勇者は大丈夫だったのかな……と思ったが、勇者召喚時に所謂『チート』として驚異的な環境適応力を手に入れるので問題ないらしい。


 補足すると一ヶ月は二十五日で一年は十六ヶ月。二十五についてはこの世界にある月の満月から次の満月までの日にちがイコールで、尚且つ丁度十六回満ち欠けするとほぼ正確に太陽の周りを一周した時期に重なるからだという。


・長さの単位はややこしく、約一.三センチメートル=この世界の一ウ?(言語を全て置換するわけじゃない様で、そこは発音がそう聞こえる)という単位になる。百倍するごとにウル、ウルラとか増えていく感じだったと思うが、面倒臭いし基本的には脳内で大まかに変換するとしよう。


 その後長さや大きさについて質問を重ね分かったのが、『この惑星は地球よりも直径にして二倍位大きい』ということだ。


 当然重力もそれに比例したものになる……と、思いきや、なんとこの惑星全体に誰が掛けたか『重』の力で重力軽減魔法が掛かっており、地球と比べても精々一割増位にしか感じない。そういえば俺が召喚されたのも魔法のせいだし、今の所俺に降り掛かった諸々の問題を解決したのも魔法。……何か魔法、万能だしチートくさくないか?


・そんな大きな魔法がかかっているのなら、そもそもこっちの人類は何時からいるのか、という疑問が湧いてくるだろう。そしてその問に対してのイアさんの返答は、『少なくとも二億年前からはいる』という物だ。イアさんってやっぱ二億さグハァッ! 殺気が……殺気が! 止めて! 本当に……


〜しばらくお待ちください〜


 ……コホン。気を取り直そう。二億年。その年月は人類に容赦なく牙を向く。実際二億年の間には、大破局の可能性があろう危機が幾度となく存在した。例を挙げれば直径約四キロメートル級(正確には三十ウルラ)の隕石や、大規模な地殻変動、氷河期の到来とそれに伴う気候ジャンプ、終了に伴う気候ジャンプ、スーパーボルケーノの破局噴火等挙げればきりがない。


 しかしここでも魔法のチートっぷりが発揮する。この世界ではそんな人類存亡の危機が起きるとその都度、その時代の超人魔法使いが狂気すら感じる超巨大魔法を打ちなんとかしてきたというのだ。


 要はこの世界、魔法打っときゃ何とかなるという脳筋思考なんだな……実際それで隕石とかが何とかなってるのが恐ろしいが……。


・『勇者がこの世界に召喚されたことがある』と聞いてもしやと思ったが、俺のように召喚時に性転換してしまったことは過去にも全く例がないようだ。何で俺だけ……。


・お金の単位に関しては、まずそれぞれの世界の相場が前提として違う……つまり、金本位制の様に二億年間、或いは地球とこの世界間で共通の基準が存在しないので、安易に日本円に置き換える行為はできそうにもない。極論この世界では金がゴミ同然、鉄が超貴重なのかもしれないのだ。


 更に言えば、二億年間で通貨は一億を軽く超える数存在するので(場所によって流通している通貨が違うのでそれも考えて。現在流通している通貨は覚えてないらしい)、少なくともあちらの世界の物差しで物価等を測ることはできないだろう、ということだ。


・因みに諸々の単位について補足をしておくと、時間の単位や長さの単位等、変わると厄介な物はその時代の主要な国家の裏でイアさんが暗躍して統一してきたらしい。いや、イアさんってホント何者なの!?


 ……これくらい話したところで、唐突にイアさんが提案をしてきた。


「あの神に変な事されたのは私も一緒なの。その好でどう? あなた私に弟子入りする気はない? 一人前になるまでこの世界の知識、そして生き残る強さを教えてあげるけど。勿論断ってもいいわよ? その場合知識はともかく強さは時間もないし軽くして終わりだけど」


「!?」


 不意に提案されたので驚いたが、こっちとしては願っても無い様な提案だ。しかし、都合がよすぎて少し裏がないか気になってしまう。


「恩人を疑うのも何なんですけど、こっちに都合良すぎて裏無いか気になるんですが……」


 でも、お高いんでしょう? って事だ。こういうのは早めに条件とかそういうのを聞いた方が後で後悔しないと思う。ましてや、今回は自分の人生の大きな分岐点だ。異世界で弟子入りして頑張るか、一人旅をするか。どちらかというと前者の方が安定感があって俺はいいけど。


「あははは! 裏ってそんな大層なことはないわよ! まあ一つだけ条件があるけどね。それについてもちゃんと全部言うわ」


 裏がないのはいいな。俺はスポーツの駆け引きとか、格闘ゲームの対戦みたいに相手の裏を読むのが苦手だし。ボードゲームのプロは百手先まで手を読むって言うけど、ああいうのは素直に尊敬できると思う。


 ……でも、裏とまではいかなくとも条件があったのは確かだ。


 俺は友達に好きな人を聞く位の気持ちで、気軽に聞いた。


「どんなものなんですか?」


 しかし、イアさんはそんな俺とは正反対に一呼吸置いてゆっくりと話し始める。


「あのね……私と私の友人六人を……」









「殺してほしいの」


 俺は武術の達人では無い。魔法とか、そんな物も今はまだ知らないし、使えない。そして、そもそも漫画とかに出てくる強者でもない。


 ……それでもその瞬間、そんな俺ですら確かに場の雰囲気が変わるのを感じていた。


「えっと、あの、何ていうか、冗談ですよ……ね……」


 『殺してほしい』何て聞きなれない言葉を前に混乱、疑問、驚愕等様々な感情が心の中で渦巻きながらもなんとか笑顔で繕って答えた俺だが、最後の方に縋る様に見たイアさんの眼光が冗談ではないことを雄弁に物語っていて、言葉をすぼめてしまう。


「勿論冗談をサラサラいう気はないわ。何しろこれは今の私のたった一つの願いだもの。少し言葉が足りなかったわね。私の願いは私と、その友人六人とあなたが個別に戦って・・・その結果私たちを殺すことよ」


 たった一つの願い?? 自分と友人を殺すことがたった一つの願いだと??


 ……遠い親戚のそれ位しか聞いたこともなく、〝死〟という物に現実感が無い俺は、考えれば考えるほど訳が分からなくなって混乱していく。


「動揺を隠し切れてない様だけど、そんな言う程の条件でも無いわよ? 私は『殺して欲しい』とは言っても、『殺せ』とは言ってない。『出来ればして欲しい』。その程度の条件よ。別にしなくてもいいし期限とかは設けないわ。それにあなたにもメリットがある」


 違う。何ていうか、そうじゃない。俺が聞きたいのはそういうことじゃなくて……


「そ、そもそもなんで……なんで、そんなことを願っているんですか?」


 〝死〟なんてものが歓迎されるなんてありえない。俺にはそんな価値観が根強くあった。まるで、懸命に作った作品をその一撃で台無しにするような……積み上げた何もかもを壊してしまうような危うさ。それが俺の中での〝死〟という概念だった。


 そんな破滅を自ら望む。若くて人生まだ先があるであろう俺には、その心境が理解できなかったのだ。


「それはね……」




「人生詰んだからよ」


 その口から、嘲笑を貰うような……冗談のような悲劇は紡がれる。




 ◇◆◇




「……昔、私には六人の冒険者仲間……とは言っても魔法馬鹿の私を筆頭に剣馬鹿とか、鍛冶馬鹿とか、感覚馬鹿とか、重力魔法だっけ……まあいいや。そんな魔法を使う馬鹿とか……他にもいるけど、とにかくそんな馬鹿達がいたの。


 私を含めたその七馬鹿ははっきり言うとバトルジャンキーだったのよ。今はそんなこと言ってられなくなったけど。


 そんな七人だからこそ共闘し、時には仲間同士で戦いあい、強くなった。その結果魔王を倒すことができちゃったの。


 ……今思えば魔王にも同情するわ。うん、あれは弱い者いじめだったかも……。初手に私が城の外から「重」と「時」、それに「理」を利用して核爆発並みの爆発のエネルギーを保存しながら限界まで重力の力で圧縮して、「変」の力で一方向に指向性を持たせたそれを、十発ぐらい・・・・・「動」で超加速して打たれたんだもの。まあ、流石魔王と言えるだけあってそれにも耐えたけど、城は跡形も無く消滅したの。そこを剣馬鹿を筆頭とした奴らが滅多打ちにするもんだから、断末魔の一つ上げることも許されずに逝っちゃったわ」


「要約すると?」


「開幕で核爆弾なんか屁じゃない威力を持つレーザーを準光速で十発打った」


 ……やべーよ。イアさんやべーよ。気になることは色々ある。だけど、この話まだまだ続くのにこの時点で強者・・のはずの魔王を、たとえ仲間がいるとしても弱い者いじめ・・・・・・しちゃってるっていう……うん、確かに魔王が不憫だ。


「そんなことで魔王を倒すことができちゃった私達は、英雄として祖国で表彰を受けることになった。とは言っても王と周囲の大臣全員何故か土下座してたけどね。


 だけど、七人の中に称号とか名誉とかに興味があるものはいなかった。


 唯々〝強くなりたい〟それだけが目標だったの。


 そして私達は時には互いに大陸の地形を変えながらも戦いあうことによってさらに強くなった。


 そうしていつしか『七戦神』とか『七天魔王』とか呼ばれるようになったわ。宗教みたいなものもあった気がするけど……」


 とうとう自分が魔王になっちゃったよ!! この人!! 軽く言ってるけど大陸レベルで地形を変える戦いに巻き込まれたら絶対死ぬじゃん……


「ちなみにその途中で自分を『馬毛』とかだっけ?兎に角そんな名を名乗る人に出会って、少し修行に付き合ってあげたり色々したら、『超』っていう属性を利用して全員不老不死に変えてくれたの。勿論不老不死と無敵はイコールではないから、精神的に死んだり、体を丸ごと消滅させたりしたら死んじゃうような感じだったけどね。それでも『老衰では死なない』状態に私達はなったの。


 後は、保護なしで・・・・・界渡りを数えきれないほどやったりしたかなあ。懐かしいわ~」


 あ、遂に生死を超越した。それにあのトラウマの界渡りを修行内容に組み込んじゃってる……


 でも話の途中で出てきた人が気になる。〝うまげ〟かあ。強そうではないけどどんな人なんだろう。不老不死なんかを魔法で実現する位だし、ひょっとするとあの野郎以外の神様何て線もなかろうか?


「そんな生活をしてたある日のこと。遂にあいつが接触してきたの……」


 あいつ? あいつあいつ……イアさんがあいつ扱いする奴と言えば……やっぱりあれか?


「神、ですか?」


「その通り。更に付け足せば、あなたに加護を付けた奴と同じ神よ。


 神は私たち七人の前に姿を現しこう言った。


『君たちはちょっと暴れすぎだ。僕の力で大人しくしてもらうことにするよ。まず君たち七人の間での殺し合い、そして戦いの禁止。更に同族の人間と亜人を殺すことも、戦闘することも禁止。まあ、後者についてはせめてもの情けとして相手が仕掛けてきた場合。つまり正当防衛なら良しとしよう』


 こういって何かの魔法……魔法を極めた私でも理解不能な魔法を掛けて去っていったわ。それからというもの、七人同士で戦うことができなくなって、強さの基準が曖昧になっていった。それでも私たちは強さを追い求め続けた。




 二千万年だっけな。それくらい経って、ようやく脳筋だけではだめだと思った……というより流石に戦いに飽きたのか、皆でおしゃべりしてた時、ふと七人の内の一人がこう言ったの。


『なあ。俺ら七人より強い人間なんてこの世に多分いないじゃん。それにさあ、俺ら戦いともなると、本気になるから手加減とかできないじゃん。


 更に言うと、前に二千五百四十五代目の魔王とその軍隊全員・・・・・・・・・に袋叩きにしてもらったけどさあ、俺らそんなこともあろうことかと体の再生を瞬間的に無意識で行うようにしてたから全く・・痛くもかゆくもなかったわけよ。


 ってことでさ。俺ら体、人間辞めてるじゃん。そのせいか、恒星に突っ込んで中心部でずーっといても無傷だったわけ。その道中で宇宙でも生きることができることも分かったし……こんな体な上俺らは不死身。


 何か……今まで〝強くなりたい〟この一心でやってきたけど、俺らどんなことがあっても死なないんじゃね? 何千回と界渡りしてきた精神を折れる人だって考えつかないし、唯一実力が拮抗してる七人同士の戦闘は禁止。


 ……臭いセリフだとは思うけど、人生のスタートが〝生まれること〟だとすると、人生のゴールはどんな形であれ〝死ぬこと〟だと思うわけよ。そう考えると、死ねない俺らって人生が終わりのない拷問のようなものじゃん。


 ……まどろっこしくなっちゃったけど、何が言いたいかというとさ……








 ……………………俺らって人生詰んだんじゃね?』




 ……当時はまだ・・二千万年しか経っていなかった。だからか、この言葉を笑い飛ばす奴の方が多かった。


 ……でも、その二倍の年数経った。皆現実に気づき始めた。


 ……さらにその四倍、いや八倍以上の年数がたった今。皆やっと自分の置かれてる状況を理解できるようになったのよ。


 私たちは、終わりのない無間地獄の中にいるってことをね」



 ◇◆◇



 ……思っていた以上に重い話だった。それこそ、俺が女もとい幼女になってしまったことなんか大した事でもない程度に霞む位。まあ、それとこれとは別だけど。


 少し考えると、俺はおもむろにイアさんをじっと見た。


 長い黒髪は丁寧に手入れが行き届いているようで、見ただけでもサラサラだとわかる。本人の顔は、和風美人とかいうのか、クール系とかいうのか。とにかく美人なことに変わりはない。


 服は、明らかに寝るのを邪魔されたとか、家の時間を邪魔されたという感じの、日本で似てるものを挙げれば浴衣とかのようなシンプルな恰好だが、恰好が恰好であれば妖艶な気配さえ出してしまいそうだ。


 何というか……こんな美人が話の通り長い時を生きて、それに伴う地獄を経験してきたとはとても想像がつかない。歳を感じさせるものが何一つないのだ。そもそも二億年なんて長すぎる時を感じさせるもの自体俺には想像できないが。


 しかし、今はこの人以外にこの世界で頼れる人もいないわけだし提案自体は悪くないんだよな……迷う。


 やはり駄目元とはいえこの人を殺さなければならないと考えると、いくら異世界とは言っても現代の倫理観の残る俺には抵抗を感じる。それに話を聞いて幾許か疑問もわいてきたし、念押しも兼ねて質問してみよう。


「えっと……本当にどんな自然環境でも死ねなかったりするんですか?」


「目につくものは大体試したけど、無理だったわ。一人ぐらい七人の中で例外があっても不思議じゃないとは思ったけど、全員肉体をにんげんを極限まで鍛えていたやめていたから……ああ、そう言えば一人は少しダメージを受けていたけど、それでもコンマもかからず無意識に発動する再生能力で修復される程度だったわ。だから考えたのよ。私たち七人が弟子をとって師匠になって、弟子を私達よりも強くすればいいと!」


 うーん。一応理屈的にはあっているが、腑に落ちない。


「それに話を聞いていたら、少なくとも一億数千万年は生きている気がするんですけど、そんな人たちのことを十数年ぽっちしか生きてない俺は越せるんですか?」


 イアさんは俺の言葉を聞き一瞬思索をとったように見えたが、にっこりとして返答する。


「その点は心配しないで。何せ私達にはいなかった強さの『経験者』……つまり師匠がいるのだから。その気になれば、数万……とはいかないかもしれないけど、数千分の一位には効率化できると思うわ」


「数千分の一!」


 それはすごいな。かなり早く強くなれそうだし、ひょっとすると俺TUEEEなんてイカれた芸当も出来るかも知れない。


 条件が条件だし、イアさんたちを殺すのに数万年かかるかも知れないけど、長いものに巻かれる選択肢でこれ以上のものはないと断言できる。


 ああ、それとこれも聞いておかないといけない。


「途中で数え切れない程界渡りをやったって言ってましたけど、界渡りで元の世界に戻ることってできないんですか?」


「説明が足りなかったわね。私の言っている界渡りは、界渡りではなく界渡り時に通る空間、『界』に行く事なの。


 流石の私でも界に転移することは出来ても、そこから異世界に移動する事、つまり界から界に渡る事は不可能ね……」


「まあ、そうなりますよね……」


 流石に出来ることなら即帰還させられるか。まあもとより帰れる事は期待して無かったし、しょうがない。


 こうなると気になるのが、制限や制約だ。悲しきかな、いくらイアさんが善人だったとしても契約とか弟子入りなんて仰々しい言葉を聞くとすぐに疑り深くなってしまうのが気の小さい俺の性なのだ。


 自分に都合の良いことだけ話して、都合の悪い部分は話さない。こんなのはどんな詐欺でも使われてるしイアさんがそんなことをしてる可能性だって無きにしも非ずだ。


 さっきは制限なんか無いって言ってたけど、殺せなかったり、志半ばで死んでしまったら、魂をもらうとか……いや、それは俺の妄想だろうが、それでもここは慎重に確認していきたい。


「じゃあペナルティーとか、制限とかはありますか?」


「とくにはないわ。修行時以外の行動の決定権も基本あなたに委ねるわ」


 かなり自由だ。それに、自由意志も持てるという。ここまで来たら、疑問はほぼない。何か心の奥に引っかかるような違和感がある気がするが……こんなところでフラグを立てても仕方がないだろう。


 ……うん、迷ってもしょうがない! こういう時はさっさと決めてしまおう!


「では、弟子入りしてよろしいでしょうか?」


「もちろん!」


 


 こうして、俺とイアさんの師弟関係は始まりを告げたのだった。

作中では説明しにくかったステータス魔法の使い方

《Xを1としYの情報を開示せよ》

X=基準となる物、Y=基準に対し比較したい物。

例えば5リットルの水をXに設定して10リットルの水をYに設定すると2と出る様な感じです。

簡単に式にすると


X:1=Y:a

a=ステータスの値


初期……つまり「X=基本」の状態は成人の平均を全能力値100(魔法は持つものと持たざる者の違いが大きいので注意。普通(持たざる者)の平均は50程度)として計算する設定。

あくまで表面上の数値を概算するだけなので、大きい存在になると意味がなくなる。


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