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第十九話「襲撃」

フォーレの「シシリエンヌ」郷愁感あってすこ


 村に戻ると、狼の遠吠えが耳に届く。声のする方角は——南。村の入り口だ。


 少年とリンを避難させてから急いで向かうと、そこではモーガンとエレリックが連携して四匹のゴーンと戦っていた。


 ゴーンは多少矢や打撃を受けて弱っている様だが、連携は機能している。技術はともかく身体能力の差は大きい。こちらも魔法で強化されているとはいえ、四匹の連携を二人で切り崩す事は至難の技だろう。


 しかし……何故、村の入り口が襲われる?


(もしかして……つけられていた?)


 ……途中野生動物がいなかったのは群れが食べ尽くしたか追い払ったから。村直前に出てきた狼は斥候か何か。


 襲われなかったのは警戒であり、現に包囲できる村に入った途端に襲われている。


 発見できなかったのは単純に離れて追跡されていたからだろう。地球でも狼は人間より遥かに鼻が利く動物として知られていた。ましてやこちらの化け狼なら数キロ程度造作もないに違いない。


(……ともかく四の五の考えてられない。今はゴーンを倒す事に集中するか)


 少年はゴーンの群れと言っていた。ここ以外にも襲われている場所は何箇所かある筈だ。おそらくアルやロンが迎撃しているのだろう。


 アルはともかくロンは戦闘向きの能力ではない。アルにしたって数体で襲われたら無事では済まない筈だ。急がなければならない。


 俺はモーガンが三体を足止めし、エレリックが矢で一体を怯ませたのを見て、一体の方へ勢いのままに突っ込む。


「ちょ、待ってよ!」


 アナスタシアがそう言うが、今は敵への対処が先だ。


 いきなり接近する俺にゴーンは反応するものの、すかさずエレリックの矢の追撃が襲い掛かる。ゴーンはたまらず攻撃を避け、俺に隙を晒した。


「魔力吸収……からの次元斬ッ!」


 俺はそのまま流れる様にゴーンの表面から魔力を奪い取り、胴体を両断した。


 血を吹き出して崩れ落ちる狼を見てエレリックは残る三体に狙いを変え、次々に矢を射る。


 矢が命中し、ゴーン達は仲間を殺された動揺と矢の痛みから激しく暴れ回った。


「トラシアか、でかした! これで一方的に倒せるぜ!」


 暴れると言うのは一見危険に見えるが、要するに動きが乱暴になり精細さを欠くという事。技術を以ってモーガンと拮抗した実力を持つ彼らにとっては最悪手であり、こちらにとって一番都合のいい状態。


 エレリックと俺の支援もあって、ゴーン達は次々とモーガンに殴り殺されていった。


 俺とエレリックが矢と土魔法で動きを制限し、モーガンがありったけの力を込めて哀れな狼を殴り潰す。


 ゴーンはなんとか爪で受けようとするが、筋力特化のモーガンの全力の一撃をまともに受けて耐えられるはずもなく、そのままグシャっという音と断末魔をあげながら生き絶えていった。


 モーガンは槌を軽く振り払って力任せに血糊を落とすと間髪入れずに叫ぶ。


「まだ襲われている場所はある、急ぐぞッ!」


 アナスタシアはようやく追いついた様で、俺たちの様子を確認すると魔法をかける。


「怪我はかすり傷の様だけど一応回復しておくわね、《バリア・ヒール(癒しの結界)》!」


 俺は傷が癒えるのを感じながら魔力の残量を確認する。


(……次元斬は後一発で打ち止めか)


 ゴーンはそのまま相手をすると毛皮が硬く、貧弱な俺が有効打を与える事は難しい。体術など体を内から破壊する技も、柔軟な毛皮が全て受け流してしまうだろう。


 なので出来るだけ物理面での耐性を無視した攻撃である次元斬を使いたいのだが……。


 ゴーンの魔力を利用しているとはいえ、「他者の魔力を使う為の魔法」には自身の魔力が必要である。


 間接的なプロセスとはいえ、発動するのは空間魔法だ。魔力の消費はべらぼうに多く、ゴーンの魔力をもってしても収支は釣り合わない。たとえ魔力吸収を利用して撃ったとしても、二発以上撃つと身体能力強化などの基本的な魔法も使えなくなってしまうだろう。


(牽制とサポートに徹してモーガンを戦わせるのが無難、か)


 モーガンは本気を出せばゴーンを一撃で葬る火力を持っており、一体一には無類の強さを発揮する。しかし、先程の戦いでは相手の隙のない連携によって思う様に動けていなかった。


 ここは俺とエレリックが他の敵を足止めして連携を断つことで、モーガンに各個撃破してもらうのがいいだろう。


「分かってると思うが他の所も襲撃されている! 急ぐぞ!」


 モーガンの号令と共に俺たちは他の襲撃地点へと走っていった。


 二つ目の襲撃地点は村の東。四人程度の村人が五匹のゴーンを結界の様な魔法を使って抑え、数人が武器で牽制していた。村人にしては健闘していると言っていいだろうが、破られるのは時間の問題だろう。


「おお、冒険者様…来てくださいましたか!」

「やっとだ、やっと救援だ!」


 村人達は俺達の到着を歓喜を持って迎えた。


 俺はその間を通り抜け、ゴーンの頭上に魔法で小さく音を鳴らした。


 瞬間、一斉に上を警戒するゴーン達。人よりも鋭敏な聴覚は、僅かな音も見逃さない。故に、彼らは目の前の敵から目を逸らしてしまう。


「ここは任せろぉ!」


 エレリックに強化魔法をかけられたモーガンがゴーンに向かって槌を振り回していく。


 結界は攻撃が当たる瞬間に解け、一匹のゴーンの頭部が変な方向に折れ曲がる。ゴーン達はいきなり味方がやられたことに動揺し、一瞬ひるんでしまう。


 俺は隙を逃さず土魔法と水魔法を使ってゴーンの真下の地面を流砂の様な状態に変え、行動を制限する。


〝ヴォァァァァッ!〟


 反応の早かった二体はもがいて何とか脱出するが、間に合わなかった残りの二体は泥の中にドンドン体を埋めていく。


「《グラ―ヴィス》」


〝ヴァァァァッ!〟


 そこに示し合わせたかのようにエレリックが何か魔法を使ったかと思うとゴーン達は一気にぬかるみの中に浸かっていった。


 必死にもがくが、流砂には逆効果。完全に耳の上まで泥で浸かり、やがて動かなくなった。


「……今のは」


「重力魔法っすよ。結構つかれるんで普段はあんま使わないんすけどね」


「そうですか……凄いですね」


 重力魔法。かなり難易度の高い魔法であり、俺も使うのに時間が掛かったものだが……やはりこの時代は魔法の研究が進んでいるのだろう。


「……そういうのは後っす。ひとまずはゴーンの討伐が先っすよ」


 そう言ってエレリックは牽制射撃を放つ。俺も続いて地面を変形させたりして相手の姿勢を崩した。そこへモーガンが突っ込み二体は難なく倒された。


 これで一件落着。そう思われたが、モーガンが槌を軽く振り上げる。


「……ここまでの相手は妙に弱過ぎる。アルとロンが本命を相手してるかも知れん、急ぐぞッ!」


 ……どうやらまだ闘いは終わらないらしい。


 ◇


 それは暴虐の嵐、と形容して差し控えない光景だった。


 何百年もの歳月をかけて育った巨木は枯れ枝の様に折られ、地面は踏み込んだだけでクレーターを形成していた。


 わかっていた。ただでさえ巨大なゴーンの親玉だ、更にでかいのは当然。


 しかし、それは現実で見るとあまりに絶望的な大きさだった。


 ……ぼろぼろになったロンとアルが相手していたのは、四メートルはあろうかという規格外の怪物と、十体のゴーンだった。


 アルが巨大な化け物をヒットアンドアウェイ戦法を繰り返してひきつけ、ロンが十体に向かって魔法を唱える。


「《グローミ(傀儡)ー・マリ()オネット(憂鬱)》ッ!」


 すると、相手側のゴーン二体が味方を攻撃し始める。


「《アローレイン》」


 そこへエレリックが魔法の矢を雨あられの様に降らせる。ダメ押しとばかりに俺も土魔法で足元の地形を崩した。


 どれも彼らを殺すには至らない、取るに足りない攻撃。それでも唐突な攻撃によって戦意をそぐことには成功したらしく、警戒したゴーンは後ずさりを始めた。


 チャンスだ。エレリックと俺が魔法を準備し、モーガンが一網打尽にしようと槌を構える。


 が、しかし。


〝ヴヴヴヴヴァアアァァァァッ!〟


 リーダーであろう、巨大な狼が耳をつん裂くような絶叫を放つ。


〝グルゥ……〟〝ヴヴ……〟


 それによって部隊は士気を取り戻し、同士討ちしようとする仲間の首を噛み切って屠り、陣形を整えなおした。


 その隙に接近したモーガンはリーダーに向けて槌を振るうが、なんと、あのモーガンの槌をゴーンは片方の前足で受け止めてしまう。


 モーガンはそのまま槌を掴まれて振り回され何回転もしながら一気に後方へ飛ばされていった。


「《ペネトレーション》、《エンチャント》」


 エレリックがモーガンが投げられた瞬間を見計らい弓を魔法で強化して撃つが、寸前で躱され、軽く掠るだけに留まる。


 巨大なゴーンはエレリックに狙いを定めるも、アルの攻撃を受けて狙いを変えた。


「くそ、モーガン先輩の攻撃も効かないなんて、デカ物が厄介っすね……ロンさん、先の魔法は?」


「いや、アレは魔法の抵抗力が強すぎて無理だ……それにちょっと魔力を使い過ぎた、かな。結構数は減らしたつもりだけど、あの魔法はさっきので打ち止めだよ」


 当然俺たちが他の相手をしているときもアルとロンはこのリーダーの相手を続けていた筈だ。体力、魔力共に限界は近付いていた。


「今はアルが抑えられてるっすけど、このままじゃ……どうにかしてあの防御を突破する方法……」


 エレリック、一応貫通する事はするだろうが牽制役として最上、攻撃役にわざわざしたくはない。重力魔法もあの巨体に対して使うのはキツいだろう。


 モーガン、攻撃が通じない。取り巻きを倒して一騎打ちになれば魔法の強化も相まって倒せるかもしれないが、取り巻きを一掃するのにそのモーガンが必要というジレンマ。


 アナスタシア、論外。アル、ロン、二人がそんな強力な力を持っているならとうに使用しているはずだ。


 ……どうやら、俺が出るしかないらしい。モーガンでも敵わず、ロンでも魔法を抵抗される相手だ。俺の魔法が効くかは未知数だが、試さないでジリ貧になるよりはマシ。


「……俺が行きます。どうにかして隙を作ってください。《次元斬》で首を切り落とします」

そろそろ最近出番のないタグの鬱展開君がアップを始めるかもしれ

そう言えば一応言っておくけど当作品のゴーンはレバノンゴーンとは関係ありません

何で被ったし……

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