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第十八話「祠の中」

weberのperpetuum mobile下手なJPOPよりずっとすこ

今位の文量であと10話~程度?

 進むほどに魔素は濃くなっていく。そのお陰か洞窟内は不思議なほど明るく、ぼんやりとだが奥まで見渡せる。どうやらアナスタシアも気づいたようで、きょろきょろと洞窟内をせわしなく見ていた。


 奥には地下水源でもあるのだろうか、ちょろちょろと水の流れる音が聞こえてくる。


 天井では大きな白い鍾乳石が沢山垂れ下がり、少しずつ水が滴り落ちてくる。魔素の充満と相まって、不思議な空間を形成していた。


「ここ、凄いわね……魔素が一杯」


 耐え切れなかったのか、アナスタシアがリンさんにそう話しかける。対するリンさんは、その言葉を驚きをもって受け止めた。


「ええ、そうなんですか?」

「――もしかして、魔力を感じられない?」

「……少し、圧迫感がある程度です」

「うーん、こちらは圧迫感どころじゃないんだけどなぁ」


 アナスタシアの言う通りこの感覚は圧迫感というレベルではなく、もはや物理的に何かに押しつぶされているのに近い。


「ああ、だからですか。以前ここに来た時、魔法を使える友達が怯えてたんですよね……でも説明してくれなくて」


 そう言ってリンさんは落ち込む。


「別に魔素を感じられないからって困ることはありませんしいいじゃないですか」

「……そういうトラシアさんは感じられるんでしょう?」

「……まあ、一応」


 それを聞いてリンさんは更に落ち込む。まあ、こればっかりはどうしようもないので仕方ない。一応界渡りなどをすればできるだろうが、俺とは違って何の加護も持っていない彼女は精神的に耐えられないだろう。


「しかし、魔素、ですか。この場所は元々リネリア様が住んでいたとされる洞窟なので、何か魔術的な縁が深いのかもしれませんね」

「へえ、こんなところに住んでいたんですか……」


 洞窟内はかなり涼しく、とてもではないが住めるような環境とは思えない。湿り気もかなりあり、魔素が充満しているからって住もうとするだろうか……。


「当時は乾いた洞窟だったらしいですね。言い伝えによると住んでいた途中で大きな揺れがあって湿りだしたそうです」


「地震による水脈の変動、ですか。魔力が多いのももしかするとそれに関係あるかもしれませんね」


 と、そうこうしているうちに俺たちは目的地へと到着した。


「さて、着きました」


 リンさんがそう言って立ち止まった先には石でできた社のようなものがある。予想に反して意外とこじんまりしたそれの中央には、白い水晶玉がひとりでに光っていた。


 傍には花や食べ物がお供えされており、見た目はともかくしていることは日本で言う神棚と変わらないだろう。


 そして同時に夥しい量の魔力が降りかかる。そのすさまじさたるや、社に自然と後光が差しているほどだ。どうやらやけに多かった魔素の大部分はこの球から出ているらしい。


 気になってよく観察すると、水晶玉の台座にはこれまた見たことのない魔法陣がびっしりと描かれていた。


 断片的に見ても、単語自体がわからないので内容も読み取りようがなく、書き手の技能の高さを伺える。何とか意味を取ろうとしても、〝集める……道……力〟とか、〝残された……よる……受け継ぎ〟の様に、単語を分けると一切意味が分からなくなってしまうので仕方ない。

 一応魔力を集めている、という推測は出来るがそれも想像の域を出ない。

 成程、高名な魔法使いだったという事も道理だ。


 俺は気になって手を伸ばす。が、しかし寸前で手を掴まれてしまう。


「幾ら客人でもそれは大事なものです。触れないように」

「すいません」


 流石に駄目だった。物凄く興味が惹かれるが……今は諦める他ない。


 俺をたしなめた後、リンさんは濡れて凸凹にもかかわらず床に正座する。


「この祭壇の前では先程子供たちの歌っていた歌を一節歌うことになっています。普段は客人にも見せないのですが……今回は特別です」


 そう言うと、リンさんはそのまま透き通った声で独特な民族調の歌を歌い始めた。


 すると、洞窟内の鍾乳石がランプのように辺りを照らし出す。


「~~♪」


 歌は洞窟内で反響し、まるで幾重もの人が重なり合って歌ったような大合唱のようだ。


 幻想的な響きと共に水晶玉の光量が増し、遂には光で前が見えない程になった。


「……凄い」


 それしか感想が思いつかない。間近で見る分、そっち方面の教養のない俺には下手なオーケストラなどよりもよっぽど圧倒される光景だった。


 あっという間に歌は終わり、リンさんは一礼して立ち上がる。


 それと共にあれだけ神々しかった洞窟内は落ち着きを取り戻し、元通り暗くて静かな場所になった。


「さて、これで祠ですることは終わりです。戻りましょう……どうかしましたか?」


 俺たちは歌の余韻に浸り、一瞬その言葉への反応が遅れる。


「……あ、いいえ、とっても素晴らしい歌だったわ! 毎日でも聞いていたいぐらい!」

「すごくうまかったです!」

「ありがとうございます! 外でもしょっちゅう歌っているのでそちらもよければ聞いてくださいね?」


 こうして俺たち三人は村に戻っていった。


 俺は帰る途中に考えを巡らせる。勿論邪教についてだ。


 あの儀式は成程、王都の宗教とは全く祈りの方法が違うし、祈る対象も別物。これだけなら異端という名の邪教と言って差し支えない。


(――でも、リンさんはこうも言ってた)


 普段は客人にも見せない。要するに人様に見せるようなものではないのだ。そして、ここは村外れ。戦力が乏しい商人がわざわざこの洞窟まで出っ張ったとはとてもではないがそうとは思えない。


 つまり、あの儀式は邪教の告発とは何ら関係のない物。無論宗教的な側面やあの謎の水晶玉などを見ると信仰とは関係があるかもしれないが、商人があれで邪悪と判断したわけではないだろう。


 依頼書にはただ、邪教の討伐とだけ書いてあった。商人の告発の内容は支離滅裂で所々に矛盾があったらしく、正確な情報ではないと大部分はカットされていた。だからこそ調査を含めた依頼なのだが――。


「おーーーい!!」


 と、そこまで考えたところで、前からひどく慌てた様子の少年が叫びながら走ってくる。


 少年は俺たちの前に来るや否や間髪入れずにまくし立てた。


「みんな、大変! 早く村に戻って!」

「どうしたの?」

「ゴーンの群れが村を襲ってきた! 今村長とお兄さんたちが冒険者さんと一緒に戦ってる!」

「なんだと!? すいません、走るのでついてきてください!」

「嘘……魔物!?」


 俺たちはせかされるままに村へと走る。


「そういえば、この村はどうやって魔物に対処してるんですか?」


 俺は走りながら聞く。


「結界ですよ、周囲に魔物除けの結界を張ってるんです! なのに何で……」

「結界、ね。集団で無理矢理無効化したのかしら」

「集団? そう言えば先程からそう聞きますけど、そもそもゴーンって〝一匹狼〟なんじゃないんですか?」

 

 するとアナスタシアが答える。


「私も伝え聞きでしかないけど極稀に統率力のあるリーダーがいると集団を形成するらしいのよ。大抵その土地の〝モッカ〟が全滅するって」

「あのモッカが……」


 モッカとは日本で言う鹿的なポジションの異常な繁殖力を持つ動物だ。体長が鹿ぐらいあるくせに年中発情しており、冬を除けば数か月感覚で三、四匹子供を産む。天敵しかいないリネリアの森で生き残っていることからもその繁殖力が伺えるだろう。そのモッカが全滅するというのだから、やばいとしか言えない。


「それは……モーガンさんやアル、ロンさんにエレリックさんがいるとはいえ急いだほうがいいかもしれませんね」

「ええ。流石に四人で相手するのは難しいわね」


 一体なら瞬殺だったがあの巨体が群れているのだ、いくら〝時に翻弄されし旅人〟のメンバーが強いとはいえどうなるかは分からない。


 俺は自身に身体能力強化魔法と反射無効化結界をかけると、来る戦いに備えるのだった。

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