第十五話「新たな依頼」
短め
《一匹狼》の討伐をやりとげた俺。
その後バタンキューしてしまったものの、モーガンさんとアナスタシアのお陰で無事町に戻ることができた。
こうしてギルドメンバーに実力を認められ晴れて正式な一員になった訳だが、あの後しばらくは難しい依頼はなく、俺はしばらくの間平穏に暮らしていた。
そんなある日の夕食のこと。
「明日から、みんなでこの依頼を受けようと思う」
ロンはそう言って、食卓に一枚の紙を出す。
「そりゃまた急だな。どれどれ……〝リネリア村の邪教徒の討伐〟?」
依頼書には、〝リネリア村の邪教徒の討伐〟と書いており、その下に細かい条件やら村の場所やらについて書かれている。
リネリア。以前俺が《一匹狼》を屠った森と同じ名前。つまり……
「リネリアってことはあの森の中かそばにあるってことだろ? そもそもあんなところに人が住む村なんてあんのか?」
「確かに。あんなところに人が住めるんですかね」
モーガンの言う通り、あんな化物がいる場所に村があるなんて到底思えない。
「それが、森の中に一個だけあるんだ。普段は外との交流も絶ってるから、命知らずの商人ぐらいしか行かないらしいね」
そこまで言うと、アナスタシアが首を傾げる。
「じゃあ……何でそんなところに邪教が見つかったのかしら?
外との交流が無ければ精々物をお供えしたりする程度でしょうし、そんな場所で宗教なんて起こり得ないと思うんだけど……」
「それは……僕にもわからない。多分、商人がなにか見つけたんだろうけど、依頼書にはその辺りの事は全く書いてない」
「そんな……ちょっと前情報が少ないっすよ。わざわざリネリアの森を突っ切って村まで行ったとして、収穫なしだったらどうなるんすか」エレリックが眉を潜めて言う。
「大丈夫」
ロンは自身ありげに答える。「今回の依頼は、教会から手当が出るんだ」
「教会の支援があるって事っすか?」
「そう。一度異端が現れれば教会は面子のために是が非でも討伐依頼をしなければならない。
だけど、ただでさえ厄介なリネリアの森に行くのに、やる事は邪教の討伐。人気が無いから教会も必死なのさ。それこそ成果が無くとも前払い分は儲けが出る程度にはね」
「はあ……そう言う事だったんですね」
俺が感心してそう言うとロンはこちらを向いた。
「そうだ。トラシア、今回はそこそこ危険だから戦力も必要になる。申し訳ないけど、僕らが間に入るしアルの参加を許してやってくれないか」
「ああ……構いませんよ」
未だ猜疑心があるのは事実だが、このギルドに入っている限り、いつかはなった事だ。
前回よりも俺自身の戦法は洗練されているし、アルからの敵対心も今は感じられない。
警戒さえしていればそれほどの脅威では無いだろう。
「明日……明日は授業。いけない」
ミスラナがそう呟く。
「学園の休みはまだだったね。じゃあ、ミスラナは朝と夜だけでもいいからマリーの世話もしておいてやってくれ」
「わかった。いつもみたいにやる」
「さて、みんな。今回の邪教徒討伐だけど、調査も僕らが兼ねる事になっている。つまり、最悪調査だけでもいいって事。
相手の戦力がわからない以上、撤退も考えている。ミスラナとマリー以外のメンバーは全員予定が空いてる筈だ。
詳しい事はまた明日話すけど、泊まりの仕事になるのはほぼ確実だ。今日は早く寝て明日、準備して出発しよう」
こうして、話はお開きとなった。
◇
ギルド本部の裏にある井戸から手押しポンプで水を汲み上げ、桶に入れる。
タオルを水に浸すと最早羞恥心すら感じない自分の体(見慣れたから、というよりは幼女体型だからかもしれない)を濡れタオルでぬぐい、服を着る。
俺は建物に入ると備え付けの椅子に座り、夕食で余ったお茶を飲む。
「……ップハァ」
一息ついた俺は、先程の唐突な依頼のことを考える。
実は、俺はこの依頼を受ける事に反対だ。
ロンの話は聞こえはいいが、要するに俺達は偵察兼特攻兵として期待されているということ。幾ら金払いがいいとはいえ、いかがなものか。
それに、リネリアの森の中で生活しているという事は、《一匹狼》を 正面からはともかく搦め手で討ち取れる邪教徒がいてもおかしくは無いという事。
新参者が色々と口を出すのも何なので黙っていたが、依頼を受ける理由が俺にはわからなかった。
しばらく考えていると、感じ覚えのある魔力が近づいてくる。ロンさんに似た、この魔力は——
「マリーさん」
そこには長い髪を流した、美しい女性が立っていた。ロンさんの彼女、マリーさんだ。
「……」
俺の問いかけにマリーさんは答えず、そのまま他の席に座る。
「……?」
その様子は、俺の事を無視したと言うよりは——
「見えて、無い?」
そもそも、そこに存在がないかの様な反応だった。
そんな不思議な反応に俺が首を捻っていると、遅れてロンも入ってきた。
「トラシアか。どうしたんだい?」
ロンは俺がいた事が意外だった様だが、すぐにそう話しかけてきた。
「ああ、マリーさんのことなんですけど……もしかして彼女、目が見えなかったり耳が聞こえなかったりするんですか?」
「……なんでそんなことを聞くんだい?」
心なしか、ロンは不機嫌そうだ。
「さっき話しかけたら、無視されてしまったので」
「……そうかい。確かに彼女は感覚が弱いよ。多分、今はいつもより調子が悪いんじゃないかな。僕がエスコートしておくよ」
「……そうですか」
そんなやりとりをした後、ロンはマリーの手を取り、二階に登っていった。
俺は、その様子を眺めていたが——なにか、言いようのない違和感を感じる。
何か、決定的に歯車がちぐはぐになっている筈なのに、それを見つけられないもどかしさ。
考えろ。今見ている光景の中で、おかしい所を。
頭を必死に回転させ、スキルも使ってなんとか抽出を試みる。
しかし、俺の努力も虚しく二人は二階へと消えてしまった。
「……今日は早く寝よう」
不気味に思った俺は、考えを放棄して寝る事にした。
さあ三章スタート。
実は間が開きすぎて作者にも小説の全容を理解できていないとか言えない(特にリネリア村について)




