プロローグ
視界が、ふわふわとしている。
「……?」
私は、今朝学校に行って、教室で授業を受けて、それから目の前で急に何かが光って……それから、それから?
クラスメイトは ?授業を受けてた教室は? 机においてた、ボロボロに使い込まれた参考書は?
私は未だ霞がかかった様な思考でふらふらと周囲を見渡したけど、どこまで行ってもぼんやりとした、存在のはっきりしない地平線が広がるばかり。目に付くものは特になかった。
「夢……?」
少しほっぺたをつねってみるけど帰ってくるのは鋭い痛み。かといって今いる場所はどう考えても夢に近いし、漫画でよく見る痛みで夢か確認なんて、所詮フィクションなのかもしれない。
何も無い空間にただ一人。
「……」
普通なら、泣き出したり錯乱でもしてしまいそうな状況だけど、私には何故かその状態が心地よく感じられた。
まるで、産まれる前の、お母さんのお腹の中の様な、全てを委ねられる安心感。
何かが全てを包んで、私を完璧に守ってくれている状態。
それを感じると共に身体中からどっと疲労感が抜けて、自分が想像以上に疲れていたことを思い知る。
相変わらずぼんやりとした思考は、どんどんその回転を遅くしていき、全てのことがどうでも良く感じられて……気が付くと私は温もりに包まれ、すっかり安心しきって深い眠りに落ちていった。
◇◆◇
不意に、音、衝撃、そんな分かりやすい変化なしでそれは訪れた。
「ッ!?」
安寧から一転、心を直接揺さぶられる様な不快感を感じる。
感覚としてはジェットコースターが急降下するときの内臓が浮く感じが似ているけど、それですら正確な例え方とは言えなかった。
なんというか、あの感覚と〝おぞましいもの〟を見た時の不快感を足して割った様な、そんな感覚。
「~~~~~~~~ッ!」
耐え切れず、声にならない悲鳴を上げる。しかし、不快感は収まることを知らず、確実に私の精神を侵していった。
先程までのあの、身も心も何もかもゆだねられるような空間は、もうそこにはなかった。あるのは、絶え間なく続く不快感と、〝無〟のみ。
しかし、変化は突然訪れる。
長い時間をかけて、自分の中でその感覚が当たり前になっていき、不快感が徐々に薄れていくのはぼんやりと感じていたけど……それが、ゼロになった瞬間。
私は無限に続くかと思われた不快感に慣れてしまったばかりか、愛着さえ沸いてくるようになったのだ。
一体全体何が起きたのだろうか、と不快感が消えて冴えわたるような頭で考えていると、ふと、体の感覚が戻っていることに気づく。
指をグーパーしたりして、久々の体の感覚を楽しみながら目を開けると、まるで合成写真の様な……信じがたい光景が広がっていた。
黒に虹色が混ざったかのような不思議な色が見渡す限り万華鏡のように広がっており、おそらくは地球のどの光景より非現実だと思う。
私はしばし、非現実な空間を楽しんでいた。すると、更に不思議な場所を発見する。
「空間が、歪んでる!?」
そう、そこには明らかにぐにゃりと空間自体が歪んで壊れており、裂け目から純粋な光が差し込んでいる場所が見て取れたのだ。
しばしの間呆気にとられてみていると、歪みは益々大きくなって。
眼を焼く様な光量が私を包み。
結局最後まで何が起きたのかわからず、私は意識を手放したのだった。




