第十三話「最初の依頼」
朝が来て、ギルドで粉っぽいパンや様々な色が入り混じるエキゾチックなサラダ等、軽い食事をした後。
早めに食事を終えた俺が席から立っていいのか分からずただぼおっとしていたら、ロンがこちらに話しかけてきた。
「あまりタイミングもないし今のうちにミスラナの自己紹介を済ませておこう。ミスラナ」
そこでロンは昨日居なかった、黒髪をショートボブに切った大人しそうな少女に目配せする。すると少女はその印象通り、静かに話し始めた。
「私はミスラナ、追跡魔法が得意。王立の魔術学校に通ってるからあなたと会う機会は少ないかも。……よろしく」
そう言うと、ミスラナは軽く会釈したので俺も同じ様に会釈を返した。
「ミスラナさんですね。よろしくお願いします」
顔を上げると、どういうわけか彼女は俺をじっと見つめていた。
「……?」
「……いや、なんでもない。勘違いだったみたい」
「そ、そうなん……ですか?」
俺は訳が分からず苦笑いで返す。
「前に似た人を見た」
その反応を知ってか知らずか、ミスラナは言葉少なに喋り始めた。
「でも私の思い違い、別人だった。忘れて」
「は、はあ」
「じゃ、今日の仕事は私の出る幕無さそうだし私は戻る」
そんな、意味不明な話とあっさりとした言葉に俺はどう反応して良いのか分からず、ただ変な子だな、という印象だけが頭に残り、気付いたらミスラナは喋りづらい静寂を置き土産としていなくなってしまった。
「あ、あの、ミスラナさんって一体……」
俺は耐えきれなくなり、ロンに話を振る。
「……はは、ミスラナはちょっと抜けてるところがあってね。学園にも通ってるし、このメンバーの中では変わった存在なんだよ」
「変わった?」
「僕達は一つの志の下集まったんだけど、実はミスラナだけは進んで入った訳じゃなく、僕からスカウトしたんだ。だから、他のメンバーとの間にある共通認識も少ないんだよ」
「さて。紹介も終わったし、本題に入ろう」
ロンは俺達のあいさつが終わったと知ると、一息ついてギルドメンバー全員を見れる位置に立った。
「今日は誰あろう、僕達の新しい仲間であるトラシアの実力を確かめる為に一つ依頼を受ける。トラシアの場合見た目と強さがこれっぽっちも合ってないから、誤解が生まれる前に見せておこうと思ってね」
「昨日言ってた実戦ってわけか。このチビがどれくらい強いか今から楽しみだぜ」
モーガンは強面に似合わぬ愛嬌ある笑みを浮かべる。
てかモーガンがちびというか。モーガンの身長は明らかに二メートルを超えてるし、むしろお前がでかいだけだろ……
「まあ、そんなこんなで依頼斡旋所に行ってきたんだけど、示し合わせた様にいい依頼があってね。トラシアにはそれをやってもらおうと思う」
そういうなり、ロンは懐からごちゃごちゃ文字が書かれている藁半紙の様な一枚の紙を取り出し皆に見せ回る。すると、モーガンが独り言ちた。
「『《ゴーン》の討伐』……か。リネリアの森にいる奴だったよな。覚えでは五等級だったっけ? 確かに腕試しにはもってこいだな」
その言葉に同意する様にエレリックも続けて言った。
「まあ、《ゴーン》をソロで倒せるなら戦闘に関してはいちゃもんのつけようもないっすね」
しかし、それとは対照的にアナスタシアは反論した。
「え、最初から《ゴーン》の討伐? 初めてだし、もう少し優しい難易度の物でもいいんじゃないの。そう……同じリネリアの森の魔物でも例えば《ヤーンエイヴ》とか、せめて《白糸》みたいに。ミスラナちゃんの時は同じ五等級でも薬草採取だったでしょう?」
それに対してロンは説明をした。
「新人を相手にするならそれでいいけど、今回は話が違うよ。即戦力としてやってきたんだ、この程度はこなしてくれなくっちゃ」
だが、アナの首は依然として横に振られる。
「それはそうだけど……それでもこの子、戦い云々の前にまず体が育ってないじゃない。魔法使いを歳で判断するのはいけないなんて散々言われてる事だけど、それでもこんな幼い子一人で魔法生物の討伐なんて反対」
俺はその言葉を聞いて少し安心する。そう、魔法があり、体格の差が絶対と言えないこの異世界でも、流石に五歳児を戦闘に駆り出させるのはやはり異常なのだ。
ロンは常識人かと考えていたが、もしかするとロンの感覚は少しずれているのかもしれない。悪い人には思えないが、一応情報については改めて自分で調べることにしよう。
そんな風に考えを巡らせている間にも、ロンとアナの会話は続いていた。
「この子がアルと戦って引き分けた、なんて言ったら納得するかい?」
「現場を見ていないから何も言えない。それに私はアルのギルド参加も後数年は待って欲しかったんだからね?」
ロンは溜息をひとつついた。
「依頼前に魔法を使わせるのは正直してほしくなかったんだけど……こうなったらしょうがない、か。トラシア、少し身体能力強化をして貰えない?」
「あ、分かりました」
俺は言われた通り軽く魔法陣を展開し、身体能力強化を行った。
「は、無詠唱? というか……え、ちょっとこれ、どういうこと!? 下手したら強化の幅がアルより大きいし、しかも魔力の消費は極限まで抑えられてて体に全然負担がかかってない!? ロン、なんでこんな小さな子がここまで魔法を完璧に使える訳!?」
魔法を見たアナスタシアは、想像以上の反応を見せた。
「え、いや……師匠の元で死ぬ程練習したので」
「……というわけで、トラシアは君が考えてるよりもずっと強い。大体、《ゴーン》一匹程度、非戦闘員のアナでも討伐できるだろう? こんな魔法を使える上にアルと互角以上の立ち回りができる人間ならなおさらだよ。
というか、今回はトラシアが魔法生物の討伐に慣れてるかわからないからわざわざ弱めの《ゴーン》にしたんだ。何ならもう少し厄介な依頼でもいいんだよ」
「そう……ね。どうやら見た目以上にしっかりしてそうだし、私の見る目が足りなかったみたい」
アナは納得しきれない、という様子だったがしぶしぶ反論を取り下げた。
「お金と装備は渡すから、今回は《ゴーン》の討伐だけお願いするよ。勿論危なくなったら助けるけどね」
そうして、そこからはロンの独壇場。依頼に書いている《ゴーン》の出現地点や、注意すべきこと、装備などについて俺に話していった。
だが、肝心の《ゴーン》をわかっていると思っているのか話してくれない。翻訳のニュアンスのお陰で狼に似た魔物ってことは分かるけど、ここは魔法が蔓延る異世界。人間は同じ様な形ではあったが、それ以外の生物の進化の方向が同じとは限らない。それに……
「等級って何ですか?」
聞きなれない言葉に俺は質問した。
「ああ、旅をしてるからそこら辺にも疎いんだっけ……王立の依頼斡旋所には魔法使い向けの依頼の難易度の目安として一から十までの等級があってね。まあ、簡単に言えば依頼の難易度を大雑把に区分したものだよ。
五等級といえば、そうだね……大抵は魔法生物の討伐か希少な薬草の採取辺りかな。《ゴーン》は魔法生物だね」
「ほう……」
俺はゲームで聞いた事のあるようなシステムに、感心を抱いた。ゲームで見た、とは言ったが、あれらのゲームで使われているシステムは現代人が考え出したものであり、それに類似した発展を遂げているこの世界、もしかするとシステム面は中々悪くないのかもしれない。
しかし「魔法使いの」と言う一言から分かる様に、やはりこの国でも魔法使いは有象無象とは一線を画す存在の様だ。そりゃあ、魔法使いは例えるなら銃をデフォルトで持っている上に相手の攻撃を無効化するシールドまで貼っているわけで、そうならなきゃおかしいとは思うけど。
そうなるとやはり、獣でありながら「魔法使い」でもある《ゴーン》の強さが気になる。
「あの! もうひとつあるんですけど……」
「どうしたんだい?」
《ゴーン》って見たことないんですけど……どんな外見の魔物なんですか?」
「へ、《ゴーン》も知らないのか! 君のお師匠さんは随分と人里を離れてたようだね……。
まあいいや。それはさておきゴーンは犬に似た、モーガン以上の体高を持つ魔物だよ。魔法を使うとは言っても反射魔法と身体能力強化系統の魔法だけだから、それほど強いわけじゃない。アルで例えるなら、五体までは囲まれても無傷で乗り越えられるだろうね。ただ、がたいの割にすばしっこいからそれだけは警戒した方がいい。
それ以外に知りたい情報はあるかい?」
「へ? ちょっと待ってください。モーガンと同じって、大きさのことですよね?」
簡単に言ったけど……二メートルを超える狼ってやばくね? それだけの大きさなら贅力は下手な重機並みにあるだろうし、その上で身体能力強化の魔法を使うとかちょっとやばすぎないか……。
「ああ、大きさは大体2.5メートルかそこらかな。ただし単細胞だからそれ程脅威でもないと思うよ」
「そ、そうなんですか……」
俺はその言葉に一応納得するそぶりは見せるものの、いまいち納得しきれないのだった。
「さて、それじゃあ準備を整えてから依頼書通り、リネリアの森で《ゴーン》を狩りに行こうか」
本気で一切筆が進みません。現在も無理矢理書いています。
次回戦闘回。
次回は早く投稿したい……
20180724
計算間違ってた……正しくは1.9ウルでした