表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/31

第七話「修行2 魔法」

サブタイトル修正、誤字修正。文章追加。

「うわあああぁぁぁぁ!」


 ガバッと布団を捲り上げて目を覚ました。


 止まらぬ体の震えに動揺しながら周囲を二、三回程見回す。しかし寝室は寝る前と何も変わらず、麗らかな優しい日差しを窓から取り込んでいる。


 思わず頬っぺたをつねって痛い事を確認した俺は、そこでやっと気を抜き一息ついた。


 ……またこんな夢だ。自分に関係が無い様に見えるが、何かを示唆している、と言われたらその様に思えてしまうような夢。


 いつもは非現実だ何だと笑い飛ばせた……そんな夢だけど、黒い〝俺〟の言葉を聞いている俺にはそんな風に冗談と一蹴できなかった。


『お前の心の深淵は恐ろしく深いぜ。それこそ俺が糞な位、な』


 心の深淵。界渡りをする事で知ることができるであろう、自分の知らない自分。


 中二病を拗らせた様に感じるかも知れないが、もしかすると本気で俺には……例えば真名みたいなものとか、封印されし云々とかがあるのかもしれない。


 ……いや、幾ら何でもそれは自意識過剰ってもんだろう。俺は中二病なんか卒業したんだ。あんな血塗られた歴史、思い出すだけ無駄。


 異世界に来たからって白い髪や赤い眼とか、漆黒の最強武器(もちろん刀)見たいなのを期待しちゃいかん。俺は御都合主義なんざ御免被りたい。……あの女神に土下座させてからチーレムを作るまでの一連の流れを一度は体験してみたいとは思うけどさ。


 それでもそんな御都合主義はあり得ないだろう。


 なんてったって、俺はこの世界に来たせいで界渡りからイアさんに言われてTS転生に気付くまでの一連の流れで、一番の地雷を躊躇なく行進されたんだからな。


 これが御都合主義なら俺は首を吊ってるわ。



 ◇◆◇



 そうしてしばらくするとイアさんが起こしに来た。


「もう起きなさ……あら、もう起きてたのね。いい心がけだわ」


 色々考えて頭の片隅に押しやろうとしていたものが溢れ出てきた。だるい眠いめんどくさい。俺は夏休みの宿題を二徹して最初に終わらせる様に、大体のことは面倒事を避ける為率先してやるタイプの俺にこの三拍子を言わせるとは……。


 俺はまるで日曜日の夜、陽気な三世帯家族が出てきた時の疲れきったリーマンの様な声で溜息混じりにこう呟いた。


「また一日ひゃくねんが始まる……」



 ◇◆◇



 修行二日目。今日は暴走させた魔力を自由に操ることを目標に魔循環をした。昨日は魔力暴走を起こしてしまったし、あんな難しいことできないと抗議した。しかし、その結果がこれだ。


「私は十歳の時には出来てたわよ?」


 天才め……。ちょっと大人気ないが言い返したくなって失敗して暴発したらどうすんだと反論。すると、


「わたしがなんとかするわ」


 と言われ、言い返せなくなってしまった。


 どうやら逃げ道はないようだ……。本気でこの一連の修行、食事しか安寧がない。


 外のちょっとした原っぱの様なところに移動してイアさんが時を歪める。今日は器合わせの影響が無くなっているらしく、魔循環の時間が一時間プラスされた。


 更に、昨日ずっと時間を歪めたからか、それとも歪めた時に対する何かしらの適性があるからなのか、時を引き延ばす倍率も上がった。体感時間で言うと元の時間と合わせて百年以上……。


 これ明らかに可笑しいよな?俺が不撓不屈とか神様の加護とか持っているからいいものの、普通の人なら廃人確定だよな? 実際きつくないかといえば、発狂したくなる程キツイし。


 トンデモオカルト、歴史の教科書、はたまた世界中の物語にも夢の産物として不老不死は出てくるけど……あれは不老不死を知らないから夢を語れるんだ。時間は無限かも知れないけど、出来ることは有限。やる事をやり尽くして、何もすることがなくなったらどうするんだ。イアさんの例もあるし、常人よりも心が強いであろう俺でもたった数十年間変化のない環境にいただけでこれなのに。


「……はぁ」


 前述したことを訂正しよう。


「またすくなくともひゃくねんいじょうのじごくが始まる……」



 ◇◆◇



 考えてもしようがないので魔循環を始める。


 ぐるぐる身体をあったかい物が循環を始める。昨日も同じ様な事を少しは思ったが、今日は前回より慣れたからかまるで魔力専用の血管でもあるみたいだ。


 徐々に血液が沸騰する様な錯覚とともに全身に高揚感が回ってくる。イアさんの解説によると、この時これに流されてしまったら魔循環が身体で連鎖的な反応を起こして暴走、全ての魔力を使って爆発するらしい。


 しかもタチの悪いことに空気中にある魔力をも取り込んで燃料にするので、周囲すべてを巻き込んだ連鎖的破滅が訪れることになるという。


 昨日見た月の虫食いも勇者の任意でやった魔力暴走の結果だという。……どっかの反物質触手先生じゃないんだからさ。


 暴走させないように必死で高揚感に抗う。気を抜いたらすぐに精神が持ってかれそうになる。今なら薬を辞められない人の気持ちがわかるかも知れない。その前にオ〇禁を思い出したことについては触れないでおこう。


 三日前の召喚された日の前日の夜に一回夢精したから今日で四日目か……精通後に四日目に突入したのは今回を合わせても二桁に届くか届かないか位だからな。


 幼女になったせいなのかも知れないが俺の中では酸素ボンベを持たずに北側からエベレスト登頂を果たしたような快挙だ。前人未到のォ!! 四ッッ日目ェ!! とか自分でも褒めたい位だ。


 はっきり言ってあっちの世界では性欲モンスターだったからな……。一日一オ〇は基本だったぜ! やらなくとも俺の意思とは関係なく強制的に夢精が起きるんだけど。(三日目に突入する前にここで全滅するので俺はここを〇ナ禁の天王山と呼んでいる)


 閑話休題。猥談はやめよう。俺にとって毒だ。主に黒い歴史的な意味で……。


 魔循環なんてものがあるならもう魔法とかの訓練も始めているのかといえば、実はまだ全く教えて貰っていない。


 なんでも、暴走を自在に操ることが出来てから教えるそうだ。嘘だと信じたいが、曰く俺のイアさんと同量の魔力量(但し身体が許容していないせいか、今は数パーセントも満足に使えていないそうだ)で慣れないうちにやると、初級基本魔法とかの括りに入っているテンプレの『ファイアボール』みたいな魔法でも、誤って魔力を数億、いや数京倍入れて小太陽を作り上げてしまうらしい。うん、俺は順調に人外に成長してきてるね!


 魔力暴走はあくまで威力を増幅するものだって言ってたし、普通の魔力でも魔法の発動は出来るのでは、と質問したら盛大に誤魔化されたけど。


 ちなみに無理矢理詰め込んで八桁×八桁の計算までは《完全記憶》で覚えたから一切のタイムラグ無しで魔法の威力を算出出来るような演算能力も持っているよ! 


 それと昨日の並列思考、元々の《思考加速》を全て合わせたらレインマンもびっくりのスパコン人間の完成だ!(イアさん曰くこの程度の演算能力が無ければ魔法を自在に操ることが出来ないらしいけど、それだったらこの世界の魔術師は全員人外だよな……)


 それから三時間後(六十年後)、やっと魔力暴走を自在に操ることが出来るようになってきた。何なのこの難しさ。逆立ちをしつつ針の穴に足の指で糸を通す様な難しさ。解りづらいが俺みたいに語彙のない人が頑張って言葉を捻り出しても、他に言葉で表そうとするなら例えようがない難しさ、という言葉しか思いつかない。


 それでも百年以上の積もりごじかん積もった月日のどりょくの結果、俺は魔力を随時臨界状態にしても飄々と出来るようになっていた。


 異世界開始三日目の朝(まだ三十時間の内の十時とかそこら)にして百八十年過ごした俺を誰でもいいから褒めて欲しい……。




 ◇◆◇




「ふう……疲れたなあ。休憩とか無いのかなー」


 露骨に露骨を組み露骨で塗り固めたほど露骨に休憩を要求するがしかし。


「そう、疲れてるのね。でも、疲れてる時こそ修行のしがいがあるってものなの。そうねえ、貴方と似た場所から来たであろう人の言葉……そう、鉄は熱いうちに打てって言葉知ってる?」


 イアさんはにっこり笑いながらご丁寧にも以前転生者が使ったであろうことわざを利用して、俺の逃げ道を塞ぐのだった。


 そうして抗う間も無く次の修行、「お勉強♪」が始まる。


 これは

『表面上の名前で色々と誤魔化している物は大抵碌でもない』

という法則に盛大にあてはまっており、丁寧語とか音符とかを付けて誤魔化しているが、その実は常に全身に最上級の筋肉痛と内臓痛、頭痛等をかけながら《完全記憶》と《理解》に頼ったお勉強という名の地獄であり、正直いうと下半身の愚息の玉を殴られた方がマシかもしれないレベルでヤバい(男にとって最上級の痛みの比喩表現)。あれはあれで相当辛いが、一発で終わるなら俺は迷わずそっちを選択する。


 しっかし百年魔循環といい、「お勉強♪」といい、普通の人なら廃人決定のはずなんだけどな……。


 最近痛みの基準が可笑しい。「お勉強♪」の最中の痛みなんか、日本では経験したことのない様な痛みのはずなのに以外と余裕で耐えきっちゃってるし、魔循環も昨日は発狂しそうだったけど今日はさして苦痛にもならなかったし。


……俺の中から「人間」が失われていってるのは気のせいであって欲しい。


 そんなことを考えながら「お勉強♪」をする場所に行く。一瞬でなんか予備校の教室のような前に黒板のある清潔な感じの部屋に出る。しかしながら椅子などは凝っているらしく、パイプ椅子なんてことはなく上質で背筋が伸びそうな椅子の上にチャイルドシートのようなものを置いて座らせられた。


 昨日もここでやったがイアさんの外から見るとお洒落なログハウス風の家のどこにこんなスペースがあるのか不思議でしょうがない。聞いてみたら、「亜空間を作った」だそうだ。もう何を言われても驚かないぜ。


 さて、「お勉強♪」は全部で六時間やったのだが、昨日全身に負荷をかけて体を鍛えていたお陰せいで身体のスペックが上がり繊細な魔循環でも引き延ばしの最大が増えたが、それ以外の時間は更に引き延ばせるようになったらしい。


 と、いうことで!!


「またきのうよりふえてにひゃくよんじゅうねんかんが始まる……」



 ◇◆◇



 さて、負荷が一気にかかってきた。痛みには慣れたが気怠い感じはどうやっても取れない。例えるなら常時風邪に近い状態、というところだな。しかし、そんなこちらの体調も気にせずイアさんによる授業は始まる。


 今日やるのは魔法について。普通の授業では語りつくせるわけがないような内容だが、生憎こちらは二百四十年も時間がたっぷりあったりする。


 それに魔法についてはこちらも興味があるのでしっかり聞こうと思う。聞かなくても無意識で《完全記憶》しておけば全部覚えてしまうわけだが……こっちの方が気持ちアウトプットしやすい気がするし、まあ、なんだその……ぶっちゃけ気分の問題だ。


「魔法とは……で……干渉するのであって……」


 簡単に要約すると、二億年の人類による魔法の解釈の集大成は、例外を除き「魔力を使って現実世界に干渉し、事象を起こす」という一言に尽きるらしい。イアさんもこの考え方を支持している。


 ちなみにこれはあくまで一番有力な考え方なだけであって、他にも色々と理論はあり、「我々のいる世界は最初からゲームの中で、魔力を使って我々のいるゲームの世界からこの世界を創った創造主に干渉して事象を起こしてもらう」なんてユニークな考え方もあったりする。俺としてはここ自体が異世界という非現実なので、そっちの説の方が正しいのではないかと考えてしまうが。


 さて、魔法に話を戻そう。


 魔力で干渉、なんて言ったが、ここで重要なのが干渉の仕方。


 干渉の仕方には大きく分けて二種類あり、直接魔力を干渉させる方法と魔法陣などの入れ物に魔力を注いでから干渉する方法がある。俗にいうと前者が詠唱などをする魔法であり、後者が何処かに幾何学模様、所謂魔法陣を描いたりする魔術だという。


 前者は脳のスペックに問題がなければ瞬時にいろんなことができるが、大きなことをするのには向いていない。逆に魔法陣は複数人で魔力を注ぎ込んだり、時間をかけて魔力を注ぎ込んだりする為、利便性はあまりないが、威力や範囲などは前者を大きく上回る。基本的に罠などとして作らない限りは、戦闘では即席で作成出来る魔法の方がよく使われている。


 後、途中で気になって聞いた話によると、こちらの世界では魔術師に重火器を向けることは自殺行為といわれている。理由は簡単で、どんなに弱い魔術師でも物体の力の大きさや向き、更には熱などにも干渉する「振」という属性の劣化版である「反」という属性を標準搭載しているからだ。


 「反」。この属性こそが魔術師を魔術師足らしめていると言っても過言ではない属性だ。


 わかり易く言うと、任意で自分の周りの攻撃の威力を正反対方向に反射するバリアを常時張ってくれる属性なのだ。例えば銃弾が当たった場合、来た時の勢いのまま正確に銃口に戻っていき、大抵の場合それで狙撃手を殺す。


 弱い魔術師なら十発ぐらい打ち込めば魔力が切れて殺すことができるが、逆に言えば弱い魔術師でも・・十発は打たないといけないのだ。宮廷魔導士や、賢者などといわれている者の中には核爆発のエネルギーに指向性を持たせ、爆弾を落とした国に全部打ち返して壊滅させたという逸話もある。


 ……ここまでで気づいた人もいるだろう。


 そう、魔法使いとは魔物とかの様に人外の括りに入れていいレベルの生命体なのだ。


 その強さたるや、こちらの世界に「剣や銃をそろえる金があれば全部はたいて魔法使いを呼べ」なんて兵法の格言を作ってしまう程。


 今なら隕石とか氷河期を止められたのも納得である。だってこの惑星で人間が生きることが出来るのも重力を軽減した魔術師のおかげなんだし。


 そんな感じの魔法についての基礎知識、そして高等理論の説明が三時間ひゃくにじゅうねん続き、休憩を挟んだら同じぐらいだけ数学の暗記をさせられた。これが魔術師同士の戦いでは非常に重要なのだというが……14桁×14桁なんてどのように覚えたか記憶が飛んでる。《完全記憶》仕事しろ。


 さて、そんな感じで「お勉強♪」が終わった後は戦闘訓練だ。今日はなんと魔法を使う!


 やっぱり異世界でやってみたいことの中で必ず上位に来るのは魔法を使うことだし、今から興奮が抑えられない。考えてみれば今まで魔法をかけてもらったことはあっても自分で使った魔法といえばステータス魔法ぐらいだしな。


 隕石を跳ね返す事だって、気候を一新する事だって出来る……そんな、奇跡の力。俺は今日、それを体験する事になる。



 ◇◆◇



 訓練場に来た。


 まだ歴史やこの世界の常識、その他諸々についてしか「お勉強♪」ではやっていないので、魔法使いどうしの戦い方もあまり教わっていないしどの様にするのかわからない。


 イアさんに移動する前に聞くと、「楽しむ余裕は無いし、精神力も削られる。かなりきついよ」なんて返事。イアさんをもってきついと言わせるとは……嫌な予感しかしない。この世界に来てからSAN値が削られる状況しか無かったからな。


 普通魔法って派手に撃ち合って避けたり防御して反撃、の様な感じなのでは? と創作では当たり前の魔法使い同士の戦い方を例に挙げ聞くと、それは『三流』とのこと。何でも魔法を使える人間が行うものらしい。


 ……いや、人間でいいから! そこ大事だから!


 それでも国を滅ぼす力こそパワーな魔術師同士が戦ったらどうなるのだろうか……最早怪獣大決戦、いや、核戦争擬きの様な天変地異が起きるのではないだろうか。


 よくこの惑星もイアさんたちの戦いで負った環境負荷を自然修復ができたな……と思ったところでよくよく考えるとそれも魔法でどうにかなるだろう、という結論に至った。取り敢えずこの世界では思考停止魔法ブッパだ。それで何とかなる。


 おおっと、もう始まるし気を取り直そう。


「じゃあ始めるとしましょうか」


「今から教える戦い方は『二流』よ。これを通らないと一流の戦い方はできない。『一流』の戦い方は『二流』の段階を経て脳の処理速度を上げないと脳が焼き切れるから」


 『二流』か。どのような戦い方なんだろう。イアさんは間違いなく『一流』の戦い方をしているんだろうけどな。


「戦い方を教える前に簡単に魔法の使い方を教えましょう。今まで教えてなかったからね」


 以前試しに中二じみた詠唱を中二じみたポーズで試してみたけど、全く意味もなく小恥ずかしくなるだけだった。やはり何かカギとなるものが必要なのだろうか。


「まずは想像上で起こしたい事象を再現する。それを計算上、理論上で精密に補う。するとそれ自体が脳内で一つの魔法陣、つまり魔力の入れ物になる。そこに魔力を流して術は発動するわ。何か試してみなさい」


 計算、その他諸々を教えられたのはこの為か。試しに控えめにライターの火を想像してみよう。ステータス魔法では「火」なんて属性の適性持ってたしな。


 想像上の火が俺の脳内で完璧に出来上がる。そして今度はそれを起こすための計算式も完成。


 簡単に計算できるぞ。まあ「火」だしな。想像が難しい「空間」とかと比べれば容易いだろう。


 次は完成された式に魔力を流し込む。なんとなく、どの程度流せばいいのかわかるのでそれを基準に魔力を流す。


 そして……後は発動するだけ。


 すると、


「おお!」


 想像通りのとろ火が人差し指から出て来た。思わず声を出しちゃったぜ。


「できたわね。じゃあまずは一時間ほど魔法を教えましょう」


 ちょっと待て。え……? 一時間よんじゅうねん


「ナニカノマチガ「さあ、やりましょう!」」


 無間地獄は続く。他でもない同じ無間地獄に嵌っている者の手によって。



 ◇◆◇



 みっちり教え込まれた。何をって?これがエロいこととか恋愛イベントとかだったらどんなにいいか。時間が経ちすぎてそろそろ自分の人格が前と同じか不安になってきた。


 それでも魔法の基本はほぼ教わった。自分が持ってる大体の属性の魔法が使えるようになった。流石に強力なものは少ししかないがな。


 紆余曲折はあったがひとまず基礎は終わり。いよいよ魔法を使った戦闘訓練に入る。


「さて、それでは魔法使い同士の『二流』の戦闘訓練にはいりましょうか。


 まず最初に言っておくけど、魔法使い同士の戦闘は、相手の力を使わせないことに本質がある。言うなれば、相手の魔法を上書きして不発か自爆させる感じかしら」


 うーん。多分、魔法をお互いに使って戦うのではなく、お互いにお互いの魔法を使わせない様に細工するって事か。


「やり方は簡単。相手の魔法に干渉するだけ。相手の魔法に魔法をかけて作り変える、といえばわかる?」


 なんかややこしいな。魔法に干渉するってことは脳に干渉するってことか? てかそもそも基礎魔法ですらあんなに難しい式を嫌という程使ったと言うのに、あれを発動前に書き換えろと? それとも何か妨害電波のようなものを流すとかかな?


「感じてみたほうが早いかな……ちょっと私に最大威力の魔法を撃ってみなさい」


 ここでちょっとした魔法ではなく最大威力を求めるところが元脳筋らしいな。まあいい。前世で培った知識(異世界の文明が進みすぎてほぼ役立たず)とここで教えてもらった知識、そして《理解》を利用して最大の魔法を撃つぞ!!


 《理解》ッ!! 今までに教えてもらった属性の中で殺傷率が一番高いものは……これだ!


「空間属性下級最上位魔法、《次元斬》!!」


 俺は右手で頭を抑え、左手で空気を薙ぎ払いながら出来るだけダンディな声でそう叫んだ。


 次元斬。ネーミングがベタすぎるが魔法を覚えたて……?(普通の人間よりは絶対長くやっているが……あれっ? なんか自分で墓穴掘った気がする)の俺が使える最大威力の魔法。魔力の消費量順に七段階に魔法を分けた基準の中で六番目の「下級」、そしてその中でも一番強い「最上位」の魔法。


 長々しく前置きをしたのはなんとなくこういう詠唱みたいなのが言ってみたかったから。声が高いせいで「わたしのかんがえたさいきょうのじゅもん」って感じになってしまったがな。というかそもそも教えられた魔法の発動方法自体無詠唱だから魔法名もいらないし……。


 この魔法を簡単に言うと、相手の上半身と下半身の座標をずらして切断する魔法だ。下から数えた方が早い下級魔法とはいえ、空間魔法なので異常に強い。


 しかしながらこの魔法は魔法覚えたての俺でも空間に干渉さえできれば意外と簡単に出来る、とても利便性のある魔法なのだ。今は発動にコンマ数秒かかるが、これも極めたら瞬間的にできることだろう。


 ……というか空間魔法って反則だろ。この魔法も魔力をビックリする程ごそっと持ってかれるが、逆に言えば首チョンパも縦切りも魔力さえあれば簡単にできるし、転移で相手の懐に入ることもできる。もしかしたらこの属性自体がチートなのかもしれない。


 っというか……


「……あれ?」


 魔法が発動しない。途中で僅かに撫でるような感覚があったがひょっとしてあれが書き換えか!? 小さすぎてそよ風か何かだと思ったぞ!?


 残ったのは腕で切り裂いたようなポーズをとった俺と、それを無言で見つめるイアさんという構図。


 ……恥ずかしすぎて泣けてきた。


 しかしそんなことはお構いなしにイアさんは話しかけてくる。


「感じられたようね。今のは座標の対象を『私』から周りの『空気』に置き換えたわ。この魔法は単純だから発動も簡単だけど書き換えも容易なのよ。こういう風にしてなるべく相手の魔法を使用させないようにするの」


 そんなことをしていたのか。というか威力は強いはずだがそれは盲点だったな。


「でも、もう一回その魔法を私に向けて打って見なさい?」


 そう言われ俺は、再び《次元斬》を打つ。……もちろん詠唱、ポーズ無しで。


「ハァッッ! ……って。








 え?」


 気がつくと俺の視界は回転して……


 回転が止まった俺の視線の先には、小さい子供の下半身が鮮血を吹きながらゆっくりと、とてもゆっくりと倒れかけ……ていた?


 あれって……





 ……お れ の か ら だ ?




 ◇◆◇




「もういや……おうちかえりたい……」


 俺は体育座りで泣きじゃくっていた。


「ま、まあまあ……私も実演すれば書き換えの強さをわかるかと……」


「実演すればいいってもんじゃないですよ!!


 大体、書き換えの脅威を分からせるためとはいえ上下半身を真っ二つにすることは無いでしょうに……」


 そう、俺はイアさんに次元斬の座標設定を俺自身に弄られ、結果次元斬は俺の上下半身を真っ二つに切り裂いたのだ。痛いのは修行と界渡りで慣れてるし、事後はイアさんがどうにかしたとはいえ、血が噴水の様に湧き出てる自身の下半身を離れたところから見るって……トラウマってレベルじゃねーぞ。


「ま、まあこれでやり過ぎたとはいえ書き換えの恐怖を分かったかしら。


 まずは簡単な初級魔法から書き換えてみましょう。そして、完璧にできるようになったら一回私と摸擬戦をやってみましょうか」


 なんか盛大に話逸らされた。俺は思わずジト目でイアさんを見るが、イアさんは顔さえも盛大に逸らしていた。




 ともあれ、難しそうだがやってみなくちゃわからないこともあるだろう。何よりこれが終わったらイアさんと戦うことができるし、もし書き換えを相手がしたとしても、もう上下半身を分断されたくない。


 何より思ったほど精神的に削られるものではなさそうだ。(界渡りとか『お勉強♪』、上下半身の分断と比べたら)


 正直あんな悪夢が毎回続くのならもうやめたいけど……流石にそんなことはないだろうし、気合い入れなおして頑張るとするか。




 ——ちなみにその後一時間よんじゅうねんやると知ってトイレに逃げたが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ