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すれちがい、恋初め、恋結び、 ~ほろ苦くも甘い初恋~  作者: 鯣 肴
第一章 助け、助けられて、彼は思い出し、彼女は恩返す。

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第18話 ライトアイボリーフラワーレース Ⅲ

 少々ハプニングがあったが、少年は、結局問題無く処理してみせた。


 鞄の中に直に突っ込んだままになっていた女の子の濡れた下着が他の衣類と一緒にしたりそれそのままで洗濯機に入れては破れそうな繊細なものであることを確認し、体操服の袋に入れ、コインランドリーの洗濯機に入れる際には他の洗濯物と彼女に不審感抱かせずに分ける準備を整えた。


 その際に手に再び付着してしまった彼女由来の黄色の液体は、格子状の金属蓋を外して貯水槽型の溝にダイブすることで何とかやり過ごす。辛うじて彼女に彼女のパンツを保持していることをバレずに。


 そうして、彼女自身の買い物と、彼に頼まれた買い物を済ませてきた彼女に、店員に事情を話して呼んで来てくれるように頼む。流石に彼は、彼女に男物のパンツを買わせる羞恥を味わすことになることは気が引けたから。


 色々と判断の基準がバラバラで、酷いものであるが、彼は電車での出来事に未だ揺らいでいるのだ。自身が冷静だと思い込むようにしているが、全く冷静でないのだ。


 とち狂った行動の数々、ストッパーなんて外れたような思いつきの数々がそれを証明している。


 そして、ドブ水でズブ濡れになった彼は、彼女を待ちつつ、自身の持ってきていた水筒の中身をぶちまけることによる、念の為の鞄の中の匂い混ぜ兼洗い流しを行って、格子状の金属蓋を嵌め直し、流石に疲れて壁にもたれてへたり込んでいるところだった。






 タッタッタッタッ――


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ――」


 放置したままになっていた携帯端末を拾い上げ、ライトをOFFにしたところで、彼女の切らす息の音が聞こえてくる。


 タッ。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、……」


 彼の前まで来て止まり、息を整えようとしている。滴る汗。地面に落ちる位に汗だく。顔は薄くだが紅潮している。そして――


「買ってきましたよぉおおおおお」


 彼女はその手に、Lサイズの、ゴム部分が黒で、他の部分は青地のボクサーパンツを携えていた。店員など、来ていない。彼女は恥を忍んで、そう、そんなにも恥ずかしさと焦りで店内で、レジで、顔を真っ赤にする程きつかっただろうに、彼の為にそれを、買って来てくれたのだ。


 しかも、気を回して、タグは既に切り取ってある。


「はぁ、はぁ、大丈夫です。値段は、はぁ、はぁ、覚えて、ますから」


 と、未だ時折苦しそうに息継ぎしながら、彼女はそう言い、笑顔を浮かべるのだった。


 ドクン!


 濃厚な向日葵に似た香り。彼女の、汗の、匂い。すると、彼女が、その輪郭が、笑顔が、輝いたような錯覚を彼は感じる。目を擦る。見る。気のせい、ではない。が、彼女自身が光る、なんてあり得ない。ここは日陰なのだから。


 そして、目が放せないでいた。じっと、凝視してしまっていた。嗅いで、彼女の向日葵に似た汗の匂いを堪能していた。


 だが、変な欲に呑まれた、電車での気絶した彼女に対する時とは異なり、昂ぶるのではなく、心が安らいでいくかのように彼は感じていた。


 そして、いつまでもずっと、その光景に、空気に、浸っていたい気がした。


(この子が、とても輝いて見えたような……? あぁ、とても、素敵だ。いつまでも、見て、いたい。嗅いで、いたい。とても、幸福な、気分だ。不思議なものだ。衝動に呑まれそうになるでもなく、逆に、心が、安らいでいく。そして、過去の俺も、今、全く同じことを思い浮かべている)


「素敵だ」


 ぼそり、と彼は呟いた。


 彼女の顔が沸騰するかのように赤くなる。


(はは……。少女漫画にありそうなシチュエーションだ。女の子はやっぱり、こういうの好きなんだなぁ……。そう思うと、こんな台詞を頭に浮かんだままに吐いた過去の俺……、それは恥ずかしいぞ……。恰好つけたみたいで……。そして、今の俺にとって、悶絶物だ……)


「もう、大丈夫そうだな。吹っ切れたか? 目覚ましてからずっと、君、暗い顔してたからさ」


 そう、続けて、すっと、キザな言葉を彼は言う。それを聞いて、驚いた顔をしつつ、彼女はまた、とても自然な感じに、明るく笑った。まるでそれは、大輪の向日葵の花のように、輝かしく咲き誇っていた。


(考えずとも、自然に出てきちまってる、か……。まあだが、この子が気力を取り戻す一助になったなら、構わないか)


「じゃあ、次はコインランドリー、行こうか。でも、その前に、バスタオル、渡してくれたら嬉しい」


「あっ……! はいっ、どうぞっ!」


 可愛らしくテンパりながら、彼女は彼にバスタオルを手渡す。


 それを頭から被り、ゴシゴシゴシ、と、水分をバスタオルへと移し、顔を出し、首からそれを掛け、置いていた荷物を持った彼は、


「コインランドリーは、確か、あっちだ」


 彼女の方を向いて微笑んで、彼女と共に歩き出した。






 そして、コインランドリーに着き、備え付けられていたトイレで今着ている洗わなくてはならない物を脱いで、着替え、出てきた。


 そこで彼は、女の子に言う。


「さっきまで君が着てたズボンと、巻きついてたベルト。俺のだから。ズボンはここで洗って、返してくれればいい」


 何気なくそう言ってしまい、やってしまったと後悔する彼。そして、それは、彼が退く最後の退路を断つ。彼女に彼女のパンツのことを言わなくてはならないと心を決めていても、言わずに逃げるという選択肢が元から選ぶ気は無くとも完全に消えたという意味で。


「……。はい……」


 再び彼女の顔に影が落ちる。


「それと、ここから出たら、君に言わないといけないことがある。厳密には、人の目に付かないところで。……済まない、けれど、必要なことなんだ……。君が、拒絶するなら、……。今のは、聞かなかったことに、してくれ……」


 そう言って、彼の目は潤む。不思議に思いつつも、溢れそうになってくるそれを拭う。どうしてかは分からない。だから、それはとめどなき涙だった。


「あれ、俺は、何で……」


(あれ、俺は、何で……、こんなにも、胸が、痛むんだ……)


「大丈夫だからっ、ねっ。私、聞くから」


 彼女は近づいてきて下から彼を覗き込み、丁寧口調を崩してそう言うと、彼はその場で崩れ落ち、


「うあ"あ"あ"あ"……」


 みっともなく泣く……。そんな彼の背中を、彼女は優しく擦りながら、彼の耳元で、


「疑って、ごめんなさい……」


 そう、暗いトーンで、また丁寧口調に戻ってそう言った。


「ぅぅ……ぐすん……、しっく、しっく、ぅ"ぁ"ぁ"ぁ"――――」


(……)


 彼は彼女に擦られ続けながら、暫くの間、泣き続けるのだった。

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