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はればれ  作者: 水谷なっぱ
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静寂

 そういうわけでわたしと夜空は今日も今日とて菱形中学の図書室で勉強をしている。といっても今日はプリントではなく読書感想文用の本を読んでいるのだ。

 互いにお勧めの本を読むことにして、わたしは夜空に村上春樹の「アンダーグラウンド」を勧めておいた。連日の勉強攻めと先ほどの長話のお返しである。文庫本で800ページ近い本で苦しめばいいと思う。

 夜空がわたしに勧めてくれたのはムーミンだった。

 ムーミンである。

 フィンランドの白くてぽっちゃりした妖精? トロール? だ。好きだけどね。

 けど、なんでムーミン?

 夜空は教えてくれなかった。ムーミンならなんでもよいとのことなので基本に帰って「小さなトロールと大きな洪水」にしてみた。ムーミンママとムーミンが洪水を逃れて小さな谷に避難し、そこでムーミンパパと再会する感動の物語である。

 読書感想文にはなにがしかのコツがあったように思うけど思い出せないのでとりあえず普通に本を読むことにする。

 外からは蝉の鳴き声と運動部の掛け声が聞こえる。

 目を向けると昨日や一昨日と同じように青い雲と白い雲が広がっていた。

 「皐月、手が止まっているわよ」

 「止めてるの。ちょっとは遊んでもいいんじゃない」

 夜空は言葉を返すことなく肩をすくめた。呆れているのか諦めているのかはわからないところだ。

 どっちでもいいんだけどさ。

 ふと、わたしもニョロニョロのように遠くに行きたいと思った。どこか遠く、かすかな記憶と生きている証を探して、でもニョロニョロにはなりきれず。どちらかといえばムーミンパパの様だろうか。

 そもそも彼は何故妻子を捨て置いてニョロニョロたちに着いて行ってしまったのだろうか。

 「夜空」

 「なにかしら」

 「ムーミンのキャラクターだと誰が好き?」

 「そうね」

 夜空は手にしていた「アンダーグラウンド」を一度閉じてから一瞬遠くを見る。そこにはなにがあるだろうか。

 「花馬かしら」

 「馬?」

 「ええ、美しさに自信とこだわりのある花柄の馬よ。彼女らはなによりも美を追求するの。そうやって追求した先になにがあるかはさておいて、とにもかくにも自分のこだわりを貫くのよ。そういう姿勢って素敵よね」

 「ふうん」

 それは一体どういう意味なのだろうか。

 わたしになにかこだわりと言えるようなものはあるだろうか。よくわからなくて、もう一度窓の外の空を見る。

 遠くに暗雲が見えた。

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