現状
あとね、と夜空が若干真面目な顔つきでわたしを見る。
「それに皐月に聞きたいこともあったの」
「うん?」
よかった。目的が勉強だけじゃなくて本当に良かった。このままでは飽きて寝て怒られるところだった。
「今朝はなにを悩んでいたのかしら」
「ああ、それ」
そのことか。最近の夜空は友人らしくわたしのことを気にかけてくれる。前は半分くらい無視されてたのにね。進歩だね。
「あなたのお友達についてかしら」
「夜空は鋭いなあ。そんな感じ。わたしから縁を切ったわけだけど、挨拶もろくにしないからちょっと切ないなって思ってさ。しょうがないかなとか、そんなものかなとか、にしてもなとか、考えてた」
夜空は首をかしげて手を止めた。ちょっと目つきが鋭くなる。
「あなたはどうしたいの」
「どうって?」
「元お友達と今後どうしたいのか、と聞いているのよ」
どうしたいか。
「そうだねえ」
ちょっと天井を見上げて、それから再び外を見る。
じりじりと焦がすような太陽の熱で、校庭が揺らめいて見えた。
「どうもしなくていいかな」
「どうもしなくていいの」
夜空が半目でこちらを見る。今度はわたしが苦笑して彼女を見返した。
本当に不可解そうな夜空の顔が可愛い。
「なんていうかさ、変わっちゃったことを寂しく思っただけで別に前みたいになりたいとか、また仲良くしたいとか思ってなかったや。夜空に言われてやっと気づいた。今更仲良くしてもしらけるだけだしさ。だったらわたしは夜空と遊びに行くよ。せっかく夜空と過ごす初めての夏休みだし。
聞いてくれてありがとう。夜空に言われなかったら、わたしまたなにも気づかないままだった」
夜空は一瞬ぽかんとした後、そっぽを向いた。きっと照れているんだろうと思う。
「別にいいのよ。あなたがぼんやりしているとろくなことにならないなって思っただけだし。でもまあ一緒に遊びに行くのはやぶさかではないわ。むしろ私から先ほど誘ったわけだし。だから」
「うん、夏休みが楽しみだね。明日からなにしようか」
つらつらと、でもちゃんと夜空の言葉で正直なことを言う彼女に助け舟を出す。夜空はこちらに視線を戻して、ちょっと考えたのちにこう笑った。
「明日はまだ宿題の続きをやるのよ」
そうでした。
両手を上げて観念した。