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サヨナラフタツ  作者: キョナ・マフィン
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自殺願望と自殺への恐怖

サヨナラフタツ



「和斗、お早う。フフフ、大きな寝癖。起きたばっか?」

沙耶は俺の右腕に両腕を絡ませながら笑いかけてきた。身長が低いので見下ろす体勢になるが、それがまたいい。

「ああ、、、今日は寝坊みてえだ、、、。まだ頭がクラクラしてやがるぜ」

確かに頭が朦朧としている。寝不足だろうか。今日は早く寝よう。

「うーん、そっかあ、、、。じゃあ私が起こしてあげる」

沙耶は頬を少し紅潮させながら顔を俺に近づける。俺は少し唾をのみこむ。

「目覚めのキ、、、」

そこで俺の意識は戻った。



「なぜ起こした、解者ぅぅぅぅぅぅぅ!!」

とりあえず俺は起こした張本人の解者に八つ当たりしていた。

こんな夢100年に一回しか見ないのに!日食よりもレアなのに!

「あらあら、起こしちゃったらダメだったのかな?」

俺の八つ当たりに向き合って何の悪びれる様子もなくニヤニヤとした笑みを浮かべているのは木下解者だ。解者と書いてクモツと読む、キラキラネームの持ち主で、恐ろしく賢く、俺とは根も歯も異なっているのが実に腹立だしい。そしてその横で俺に静かに哀れみの目を向けているのは墨ノ川魔鈴。

頭に釣り下げられたツインテールは紅色に染められており、明るい印象から常人なら明るい人と思うだろうが、実際は恐ろしいコミュ症で、俺達以外に話し掛けられると「む、、、むふ」としか答えられないらしい。(解者情報)が、こいつらは悪い奴何かでは決して無く、二人とも俺のクラブの部員だ。何部かは未だわからんが。

「別にダメじゃねーけど、、いい夢だった気がする」

「悪いね、でも、それにしても和斗は本当に沙耶さんが好きだね」

「何故知ってる」

「君が独り言で連呼してたからね」

俺は頭を抱える。俺は一体寝言で何を言っていたんだよ!?

「報われない恋こそ僕は応援するよ」

「決めつけんじゃねえ!どうなるかはわからねえだろう!」

「僕には見えるよ、君がアニメの抱きまくらを抱きながら学校の屋上で泣きわめく姿がね」

「いや、振られてもそんな事はしないからな!!」

「ごめん、遅れたーー」

噂をすれば影。部長が開き戸を開けて入ってきた。

「こんにちは、沙耶さん」

「ええ、こんにちは解者くん」

「沙耶さん、また傷が増えたね。毎日毎日と大丈夫なのかい?」

解者が言う通り、沙耶は近頃顔や腕に傷をふやしていた。沙耶の顔に傷がついていくのはこちらからもいたたまらない。痣や擦り傷など種類は多様であるが、解者はかつてその傷をまとめて<虐待>と言っていた。しかし、約一年前、俺は沙耶の両親に会ったことがあったが、どうにも虐待をするような家族には見えなかった。それに関しては沙耶の答えも曖昧で、いつも「転んじゃった」と陽気に話してくれた。正直毎日そんなに転ぶやつがいて堪るかと声を大にして沙耶に言ってやりたいが勿論恥ずかしくて言えるはずがない。

「うんうんそうかい、気をつけるんだよ」

虐待と完全に想像している解者もこの時は全く追求しない。きっと沙耶に少し気を使っているのだろう。

「そういえば和斗、バイトのシフト増やしたんだって?」

沙耶の急な話題変更。しかも俺に話をふってきた。

「ああ、少しな。金はかなり貯めておいて、遊びに行くときとかに一気に使いたい。それなら解者も少し増やしたんじゃなかったか?」

「僕は増やしてないよ、給料は和斗の二倍ぐらいあるからね。んま、僕は和斗とは違って妹という二人目を養ってるんだけど」

イモウトか、、、。

「ああ、そうだったな、、、」

俺は力無く机に笑いかけた。そんな俺を見て解者は皆に向けていた笑みを崩し下を向く。解者はかつての俺の見苦しい過去を全て知っているのだ。

「、、、悪いね」

その謝罪は解者にしては珍しい凄い真剣なものだった。

「いいよ、解者。気にする必要はない」

「どうしたの、二人とも。深刻な空気を漂わせて」

俺と解者は首を横に振った。そこで俺は大きく手を叩いた。結構大きな音が部室で響き渡る。

「んじゃ、今日はお前らに俺が寿司でも奢ってやるよ。金はあるから心配すんな」

「本当かい、でも僕はシフトを入れてるから無理だね」

「ゴメン、多分私も、、」

解者と沙耶に真っ先に否定された。そこまで俺虐められるキャラなの?

「魔鈴、今度でいいか」

「うん、ふたりじゃ気まずいし」

そんなに気まずいだろうか?確かに魔鈴と二人でどこかに行ったことはないが。

「ところで今日は何をするんです?」

解者が不思議そうに言う。そうだ、確かにだべってるだけで何の活動もしてない。

「今日は特にすることは無いよ、帰る?」

「ないのかい!じゃあ俺は先に帰らせてもらうよ、解者と魔鈴は?」

「僕は帰ろう。沙耶さんは?」

「私は少し残るよ。しようと思ってる事があるから」

うわ、めっちゃ気になる。でも聞けない。恥ずかしいから。

「じゃあ沙耶さん、また明日」

「うん、またね」

俺はそう言う解者と魔鈴を外に出し、ゆっくりと後ろ手で扉を閉めようとした。すると、急に何を思ったのか沙耶はそんな俺に「待って!」と何故か声を荒げた。俺は少しびっくりする。

「何だよ」

「やっぱりね、私決めてたことをしようと思うの」

「決めてたこと?文化祭か?」

「そんなばかげた事じゃない」

「じゃあなんだよ」

沙耶は少し淋しそうに俺を見つめた後、少し悔しそうに下を向いて歯を食いしばった。俺はどういうことかと戸惑う。

「和斗、分からないの?」

「だから、何がだよ?」

「もういいよ、和斗。それじゃあ、、、」

沙耶は悲しそうに俺に向けて笑った。俺はその笑顔を何時までも見ていたかった。が、そんな理想もガラスのようにきっと砕け散ってしまう。


「サヨナラ」


ピシャッと俺と沙耶の狭い空間に扉が入り込んできた。俺は沙耶に手を伸ばした。が、無論その手は彼女に届くことはなかった。ただ俺にとって俺と沙耶の空間を真っ二つにした扉は真夏日の熱気により恐ろしく暖められているに関わらず、地獄のように冷たすぎるように感じた。



「それがどうしたの?和斗」

その後の帰り道で俺は先程の話を二人にしていた。アホな魔鈴は全く意味を理解していないみたいだが、解者は俺の話を聞いている最中ずっと何かを悩んでいた。何か分かったのだろうかと解者からの返事を待っていると、解者は長時間かけて一つの言葉を口から漏らした。

「それは……まずいね」

「明らか異常だ。サヨナラなんてあいつから言われるなんてな」

「うん、沙耶さんは多分君に本当の大切な意味を分かって欲しかったんだろうね。そのための行為と考えるのが打倒かもしれない。そしてきっとそれは……」

俺は歯を食いしばった。もし、もし俺が想像しているフィクションが現実となれば、俺はきっともう二度と沙耶に…。

「戻れ、和斗。何故帰っているんだ。これは僕のたわいない知識に過ぎなくて確信があるわけじゃ無いけど〝サヨナラ〝という単語にはどうやら二つの意味があるらしい。一つは別れの時の挨拶語。そしてもう一つは…」

解者は一度呼吸をおいて俺を睨んで言った。

「[貴方の想像通りです]という意味だ。君の考えはどうやらこの世界の現実になろうとしている。そして君はそのビジョンを捩曲げ直す義務がある。行け、和斗。今すぐだ。僕らも追う」

蝉の声の中、解者の言葉という名の手紙は大きな大きな夕焼けの中に、贈り先に届いた後消えていってしまった。そしてその解者からの手紙は俺にとって余りにもビックボリュームなものであった。



なんて私は馬鹿なんだろうと自己嫌悪しながら私は窓の外をぼんやりと眺めていた。そこからは、子供達が楽しそうに遊ぶ声と憎々しい蝉の声が聞こえる。

デジャヴだろうか。私にはなぜかその蝉の声に確かな聞き覚えがあった。ある夏の日に公園でとかではない。懐かしくて暖かい記憶だった。

「私を助けて」

誰かに届いて欲しいという思いを込めて独り言を呟く。そんな声じゃ勿論誰にも聞こえるはずがないのだが、誰からも返事が来ないことを私はひどく心淋しく感じた。

そして私は傷だらけの右腕とリストカットの線がいくつも交錯している左腕を見比べた。見飽きたものだが、改めて見ると紅白色に固まっていて実に気持ち悪いものだ。

振り返ってみると、良い人生だった。でも私の記憶は学校での出来事しかやっぱり残っていない。

そんな自分が嫌で、大嫌いで、大々嫌いだから。

私はこの美しすぎる世界の断片に一度でもなりたいと思ったのだ。私が世界の破片となったらきっと誰も私の事を忘れない。そう、私に死を強要してくる母さんと父さんも私が死んだことを悔やむだろう。

そんなのは私の自己満足で自己中な事って分かっているけど。

けどけど。

人に忘れられる程淋しい事はなかったから。

誰からも必要にされずただただ殴られる日々。それはもう二度と見たくない最悪のビジョンだった。

家族との記憶がフラッシュバックする。頭痛が起こり、私は頭をがむしゃらに抱えながら窓を開けると一気に清々しい風が入ってきた。私をまるで部室内に押し戻そうとするぐらいの勢いだ。

それでも私は体を上空に半分出し、綺麗すぎる快晴に頭痛の中笑って見せた。もし生まれ変われるならこの快晴のように美麗な女の子がいい。なんちゃって。

最期に。

この世界は嫌な事だらけだ。地獄よりももっともっと辛く、醜く憎く苦しい。でも、それ以上に怖いぐらい美しかった。

今思えば、走馬灯のように彼らと過ごした楽しかった日々が思い出された。もし和斗達にまた会えたなら、お礼が言いたいな。

私はそう思いながら全ての体を空に授けた。



「死んでどうするつもりなの?」

目の前の少女は私に声をかけてきた。その少女は正真正銘私自身だった。

「貴方は?私は死んだの?」

「死んでないよ、私のお陰で意識だけこの世界に移したもの」

目の前の私は胸を反らして自慢げに微笑む。

「ねえ、何で私は生きてるの?」

「聞きたい?」

「うん」

目の前の私は何か裏のあるように笑い、一言恥ずかしそうに言った。凄くわたしに似ている。

「それは彼が教えてくれるはずだよ、絶対彼は貴方を守ってくれるから」

「彼って誰なの!?」

私はその人を懇願した。自分の救世主に会いたい。すると彼女は私のおでこに人差し指をくっつけて笑顔で呟いた。

「分かってるでしょ?貴方は私で、私は貴方なんだから。彼の名はね………」

そこで少女は私の視界から一瞬にして消えた。


「和……斗?」

自殺しようとしていた私の手首を掴んでいたのは他の誰でもない和斗だった。彼の瞳は凄く真剣そうだ。

「お前、何してんだよ!!」

凄い怒声。和斗にこれほどきつく言われたのは初めてかもしれない。でも、何とも感じなかった。

「手を離して、和斗」

「馬鹿か、離すかよ!死んでも離さねえッッ!」

軽く涙が出てきた。人に思ってもらうのはやっぱり嬉しいことだった。

でも。

「お前ッ!」

私は掴まれていない右手で和斗の手をひきはがそうとした。和斗はおもわず握る手に力を込める。

「和斗、私の気持ちを受けとって。死にたいの。でも和斗にだけは迷惑を……」

「んな事知るかああああああッッ!!」

和斗は私に叫び散らした。そして私の腕に込める力をさらに強める。冷静さを失っているようだ。まあ、こんなときに冷静な人もそうはいないだろうが

和斗は最期まで優しかった。でも、もう少しで手が剥がれる。死ねる。消えれる。

いろいろあったけど我が人生。

幸せだったなあ…。

「サヨナラ、和……」


「俺にはもう沙耶しか、残ってないんだよ!!」


今までなら耳を閉じただろう。心を締め切っただろう。

が、その私の拒絶を止めたのは信じがたい和斗の泣き顔だった。

初めて見た、和斗の泣き顔。

かっこよくないし、

クールじゃないし、

美しくもない。

けど、その顔は。


すごくすごく素敵だった。


「親は交通事故で死んで、妹は自殺して、心を許せる人なんて一人もいなかった。でも、沙耶は俺を信じてくれた。助けてくれた。

お前が死んだら俺はどうやって生きていけばいいっていうんだよ!!」

信じた覚えなんてない。

助けた覚えなんてない。

ただ軽く声をかけただけなのに。

私を信じてくれる人がいた。

私を助けてくれる人がいた。

だったらそれが誤解だとしても、不様だとしても。

私は信じ返すことしかできないじゃないか。

そこで私は和斗の右手首を右手で精一杯掴んだ。


ねえ、もう一人の私。

私みたいな人が言っていいのかわからないけど。

私にもちっちゃいけど大切な夢が出来たよ。

その夢は綺麗な幸せ色なんだ。

叶うといいな。


――――私は和斗のお嫁さんになりたい。

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