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陰謀
グラスに煌く紅い美酒は至高の品物らしい。
しかし、それを手首でくるりと弄んだ男は短い嘆息と共に握り潰す。
「ふん、くだらん。これが人間界の酒か。ドブ臭くて堪らない」
「お、お気に召しませんでしたか?」
その様子を震えながら窺っていた女性はこの後、自分に起きる悲劇を知ることはない。
「やれ」
女性を取り囲んでいた男たちが彼女の肩に手をかける。
「え、一体何を?! やめてっ! やめ――ッ」
新たなグラスに注ぎ込まれたその紅い美酒を傾けながら、男は満足そうに唇を緩ませた。
「やはり、酒とはこうでなければな。お前たちもそう思うだろう?」
男たちは答えない。彼らにはこの場で発言する権限がないからだ。それを分かった上で男は独り言を続けた。
「少しは使える小娘だと思っていたが、見当違いだったようだ。まぁ、人間界に使える駒などないとは分かっていたがこれはこれで好都合だ。あの平和呆けした老害と小僧には消えてもらおう。我々の悲願のためにも」
誰に向けるわけでもなく、男はグラスを掲げ、乾杯した。
その多いなる野望の成就を願って。