プロローグ
初投稿です
楽しんでいただければ幸いです
「進化論」と聞いて皆は何を思い浮かべるだろうか。ほとんどの人が真っ先に思い浮かべるのは「ダーウィン」ではないだろうか。彼は、一八五九年十一月二十四日に出版した『種の起源』というもので進化論を明確化させた。実は古代ギリシアの時代から進化論は提唱されていたのだが、誰も全世界の生物を実際に目にして比較した訳ではなかったので明確な答えが出せなかったのだ。
ダーウィンは一八三一年から一八三六年まで船で世界一周をした。彼は旅の中で同じ種類の動植物が地方によって異なった生態を持って生活していることを自分の目で見た。だからこそ彼の「進化論」は世界に認められるようになったのである。しかし、「ダーウィンの進化論」だけで語れないことは沢山ある。そもそも彼の進化論は生物がとても長い時間をかけて変化していくことを提唱したものであるから、動植物の突然変異は語れないらしい。また、現代にいたっては進化論を否定する者も出てきている。『種の起源』が発表された当初は世界を短時間で移動出来るような移動手段がなかったために誰も確かめる事が出来なかったからダーウィンの考えが多くの人に信頼されたのかもしれない。サルが長い時間をかけてヒトになったと言われるが、ダーウィンの進化論で語るにはヒトになるまでの時間が余りにも少ないようなのだ。そこで生物の分岐論が出てくるのである。サルとヒトは元々同じだったが途中で分岐した、というものである。過去が解るわけでもないし、実際なにが正しいのかは誰も分からない。そもそも、生物は進化しかしていないのだろうか。生活していく上で必要なくなった部分が退化していった生物も山ほどいる。人間にも尻尾の様な骨がほんの少しだけあるし、鳥は恐竜の化石に骨格が似ているものもいる。これも進化と言う様だが、部分的にみると退化ではないのかと思う。先程も述べたように過去を知ることはできない。生物の分岐点を正確に調べることは不可能なのだ。だからこそ生物は面白い。深海には知られざる生物が沢山いる。地上にもいるのかもしれないし、実は身近なところに存在している可能性もある。
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一九六九年七月十六日、世界はアポロ11号の打ち上げに注目していた。だが、全世界の人間がそれに注目していたわけではないようだ。日本の九州では、歴史学者の藤野洋が妻と二人で結成した五十名ほどの調査隊を率いて、邪馬台国の中心地とされる吉野ヶ里遺跡で遺跡の調査をしていた。十三時三十分、洋はアポロ11号の発射二分前に空を見上げた。「ついに人類もあそこに足を踏み入れるのか」と真昼の空に浮かぶ白昼の月を眺めた。夏を告げる太陽がギラギラと輝いていて眩しい。アメリカから発射される宇宙船なんて見えるわけがないと思いつつも歴史的瞬間を一目見たいと感じていた。しかしその望みは叶うわけはないのだが天が見せまいとしているのだろうか、白い月が黒雲に覆われたと思うとあたり一面が黒い雲で覆われた。一雨降りそうだと感じた洋は調査員を近くのテントに移動するように促した。洋の思った通りにバケツを引っくり返した様な雨が数十分ほど続いた。ラジオの電波は良好だったため、アポロ11号打ち上げの瞬間は調査隊皆で味わうことができた。洋の隣にいた妻の明子は
「私たちもこの宇宙船に乗っている方々のように歴史に名を刻めるといいですね」とにこやかに言ってきた。妻はずっと自分のわがままについてきてくれた。調査員の皆も何も言わずに協力してくれた。洋は自分の為に集まってくれたメンバーに恩返しがしたいと常に考えていた。だから雨が止むと真っ先にテントから飛び出し、大声で調査隊の面々に向かって叫んだ。
「俺たちだってやるんだ!ここにはロマンが溢れている!もうひと頑張りしようじゃないか!」調査隊面々は突然テンションが高くなった洋に一瞬驚いた表情を見せたがすぐに一斉に掛け声をあげて気合を入れ直し、調査は再開された。
雨が止んでどれくらい時間がたっただろうか。洋が腕時計に目をやると時計の針は十七時三十二分を指していた。もう打ち上がって四時間も経つのかと思いつつ撤収しようとしたとき、遠くの調査員が大声で叫んでいるのが聞こえた。
「洋さん!洋さん!早く来てください!」洋は声のする方向へ駆け足で向かった。調査員が手にしていたのはB5サイズほどの木箱で、中には本が一冊入っていた。厚さは一センチ以上あるだろうか。先ほどの雨で地面がゆるくなり掘っている時に現れたようだ。雨も幸運をもたらすものなのだと感じた。ひどく汚れていたためその本は洋の自宅の研究室に持ち帰り、一晩乾燥させて次の日に自宅に研究員を集めて解読することにした。
翌日、調査隊の中の一部の研究員を洋の自宅に集めて昨日発見した本を解読した。藤野邸は山口県宇部市にある霜降山の山中にある。空気が綺麗で土地も広く自然豊かで昼間も静かなため研究にはもってこいの場所である。本は一晩では乾燥しなかったので日に当ててみたのだが雲が厚くなかなか乾かないので仕方なく暖炉をつけた。太陽は顔を覗かせていないものの夏に暖炉はとても暑かった。三時間ほどの地獄を味わってやっと暑さから解放されてから解読を始めた。そこには現代の日本語とはかけ離れている文字が並んでいた。どちらかというと中国語に近い様な感じだ。そこにはこう記されていた。
「物体を構成する原子を使って天候を自由に変えることができる者がいる。
その者は全ての原子を操ることができ、天候などを自由に変化させて農業をしている。
原子の構造を理解するというよりも間隔で覚えているようだ。
誰でも出来るわけでは無いので人々はその者を神としてたたえた。
どうやらその能力は遺伝するようだ。
また二種類の人種がいた。
力で悪さをするものと仲間に幸福をもたらすように使う者の二手に分かれている。
我々は前者を悪魔、後者を天使と呼ぶことにした。
双方は何度も対立した。
悪魔が悪さをする度に、穏やかな天使たちは我々を救ってくれる。」
それ以降は彼らが生きた時代の事がつづられていた。洋は特に驚きはしなかった。だが嬉しくはなった。なぜなら現代でもそのような能力を持つ者を見たという話は聞いたことがあったのだが、大衆の前でその能力を持つ者が現れて力を発揮したことがないためにその存在は嘘ではないかという意見の方が強かった為に人々に信用されずにいた。だがこの本のおかげで天使と悪魔の存在が明確なものとなると同時に彼らの歴史もわかるからだ。今までは宇宙人のような存在であったのだ。人目につく場所で能力を発揮すると研究されるから姿を現さないのではないか、という意見もあった。「何もしないから出てこい」なんて言って出てくるものでもないだろう。人間はいざとなれば自分の私利私欲の為に仲の良い者でも利用しようとする事がある。本当に何もしない人間がいるならば、いや何も出来ない人間と出会ったなら、能力を持つ者はどのような人生を送るのだろうか。少し気になるところだが、洋にはそれを見届けることはだきない。なぜなら我々はその者達を利用する能力を持っている。調査隊メンバーには医療班などもいるため解剖できる。私も天使と悪魔を見つけたら私の力にしようとするかもしれない。
「私の前に現れることはないだろう」と洋は言った。一瞬、研究員達はその言葉の意味が分からなかったようで首をかしげたがすぐにその意味を理解してくれたようだ。一人の人間として生きている者の生活を奪うわけにはいかない、そう思えた。悪さをするなら別だ。獣のように人類に悪影響を及ぼすわけでもない。私にも家族がいる。彼らにも守りたい人はいるだろうし、守ろうとしている人もいるはずだ。だからこそその者たちを私利私欲の為に利用するべきではないと考えたのだ。その日、洋は次の日に調査隊全員を自宅に呼ぶことにした。皆はなんと言うだろうか。せっかくの発見を台無しにしようとしているのだから。洋に付いて来てくれた者たちに恩返しができないと思うと胃がキリキリと痛む。そのため、彼は一睡もできずに朝を迎えた。
調査隊全員が藤野邸に集まってくれたのだが、皆の顔をみるととても輝いていた。期待を裏切ってしまう自分を責めた。恐る恐る昨日の調査結果と世間への公表を控えるという思いをメンバーに伝えた。皆に申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、そうするしかなかった。だが、誰ひとりとしてもの申す者は現れなかった調査隊のメンバーのほとんどが洋が断腸の思いで決断していることを悟ったのだ。普段全く涙を流さない洋は何十年ぶりだろうか、頬を熱いものがつたって行くのを感じた。
その後、前日に解読していない部分を徹底的に調べあげた。少しでも新たな発見をしたかったし、メンバー達に希望をあたえたかった。そしてこの本は洋の期待を遥かに上回る内容が記されていたため、彼はこの本を目の前にして初めて驚いた。この本は地層から推測して弥生時代のものだとわかったのだが、皆はその時代に原子の存在があったということに対して驚愕した。実際、前日の文章にも原子については触れられていたのだが天使と悪魔に気を取られすぎていてそこまで頭が回らなかった。原子というものは古代ギリシアでは哲学の一つとして唱えられていたのだが、まさか日本でもそのような考えが生まれていたとは夢にも思ってもいなかった。洋は嬉しかった。付いて来てくれた者にやっと恩返しができると思った。調査隊の面々は声を大にして喜び、その事実だけを世間に好評することにした。だが、この本自体を出すわけにはいかない。天使と悪魔の存在が世の中にさらされるのは避けたい。かといって本の一部を切り取るなんて事ができるだろうか、いやできない。そこで洋は「彼ら」の事が書いてある部分を紙に書き留めて不自然にならないように汚して文字を読めなくした。
後日、地元新聞の一面を飾ったのは「藤野洋謎の変死」という記事だった。そこには「藤野調査グループは藤野夫妻宅に全員集まりパーティーをしていた。そこで外から放たれたと思われる不審火により家は全焼。中にいた調査員が焼死。のち一人行方不明。」というものだった。その日、近所で焚き火をしていた人によると急に炎の勢いが強くなった時間帯があり、その瞬間藤野宅が燃え始めたそうだ。新聞によると「藤野洋氏の研究を独り占めにしようとした者の犯行だと思われる。現在、警察が行方不明の一人を捜索中。」とのことだった。結局、藤野洋が遺跡で見つけた一冊の本は大衆の前にはさらされずに闇の中へと消えていった。
私自身、プロローグは面白いと感じていません。
これから面白くする予定です