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天才博士シリーズ

天才ハカセと大雪の降る町

作者: 杉村 祐介

 私は天才発明家だ。依頼主の話を一つ聞くだけで、期待どおりの機械を作ることができる。今ではあちこちから依頼を受けては機械を作り、それを売るということで生活費を稼いでいる。こうすることで好きな発明は作れるし、生活にも困らない。その上アイデア不足という最大の難関も解消してくれた。




 そんな私も、数日前から続く依頼にはほとほと困っているのだ。




 今年は大雪に見舞われたこの町は、毎日のように雪かきをしてもたりず、部屋に閉じこもっても暖房もほとんど効かないくらい……北極にでも変わってしまったのかと思うような天気が続いていた。そんなとき町長が私の家を訪ねてきたのだ。


「どうしたのだ町長? こんな寒さの中出歩くなんて、物好きな私ですら嫌うことだぞ」

「……偉大なハカセさん、あなたに依頼をしたくてたずねることにしたんです」


 私の研究所は町から遠く離れていたのだが、車も動かせないほどの大雪の中、町長はさぞ震えながら歩いてきたのだろう。凍える手をこすり合わせながら、少しでも暖めようと手に息をはいている。顔色もすごく悪そうで、ほおって置いたら室内でも凍死してしまいそうだ。

 私はホットミルク――といってもそれは一瞬のうちに温もりが奪われ、ただのミルクに成り下がった代物なのだが――を差し出した。町長はそれにすがるように手につつみこんで一口飲む。


「あぁ、こんな生活はいやだ。今年の寒さは本当に異常です。この寒さを何とかしてもらえないでしょうか?」

「そんなことはお安い御用だ。一日で準備しよう」

「それはありがたい!!」


 町長はその返事を聞くと飛び上がって喜んだ。そして用意していた依頼の資金を差し出して、何度もお礼を言いながら町に帰っていった。私は早速、与えられた依頼をおもちゃで遊ぶ子供のように、研究しては機械を作り上げていった。




 大雪対策の機械は予定より早く、わずか半日で完成してしまった。この機械を町の中心におけば、町一帯は春のような暖かさを取り戻せるだろう。私は満足になって、いすにもたれてタバコをふかしていた。

 この程度のことなら、天才な私にとって造作もないことだった。


 次の日。町長はもう一度やってきて、耳にたこができるほどのお礼の言葉と、町人からの差し入れを渡してきた。私は次の依頼が無いことにがっかりして、彼が早く町に帰らないかと神に祈りをささげていたのだが、結局町長は一日中町の人の感謝の言葉を私に浴びせて帰っていった。

 その日から町は春の景色になり、雪に埋もれた研究所から眺める景色は満開の桜という、なんとも面白い景色が見れるようになった。



 だが次の日、別の来訪者が訪れるとは思いもしなかったのだ。


「偉大なハカセさん、今年はすごい大雪ですね……」

「ふむ、貴方の町でも大雪ですか」

「どうかこの寒さを追い払ってもらえないでしょうか?」

「お安い御用だ、一日で準備しよう」

「ありがとうございます!!」


 別の町にすむ町長が、私に同じような依頼を頼んできたのだ。しかもその町は前以上に寒さが厳しいと聞いた。これは先日作った機械を改良し、更にパワーアップしたものを用意しなければ。さっそく昨日作った設計図を出し、それの出力をさらに上げたものを、これまた予定より短い半日で完成させた。


 次の日。前の町長と同じように、耳にたこができるほどのお礼の言葉と、町人からの差し入れを渡してきた。私は依頼が無いことを聞いて早く切り上げようと「体調が悪い」と仮病を使ったのだが、それでも彼は一日中、町の人の感謝の言葉を話して帰っていった。

 そして反対の町にも、桜が咲くほどの暖かい風が吹くようになったのだ。


 人を助けるのは気持ちのいいことだ。私の心もすっきりとして、またいつものようにイスにもたれてタバコをふかした。




 すると、最初に来た町長が血相を変えて現れたのだ。


「さらに寒さが強くなった、機械をもっと強力なものにしてくれ!!」

「私の理論は絶対だ、寒さ対策は万全だろう?」

「それが、また大雪が降り始めたんだ! なんとかしてくれ!!」

「機械が故障するはずも無いのだが……よかろう、さらに強力なものを用意する」

「それはありがたい!!」


 私は軽く引き受け、また一日後に取りに来るようにと言っておいた。




 私の作った機械は寒さを回りに飛ばしてしまおうというものだ。出力の上昇など数分でできるだろう。昨日作った設計図をもとに、さらに強力なものを作ればいいのだから簡単だ。

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