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ソロモンズ リング -gold of King, silver of Ring-  作者: 湊波
第五章 金の王、銀の指輪 ― gold of King, silver of Ring―
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〈塔〉の主

 雷が落ちたかのような轟音と共に、〈塔〉が一際大きく揺れた。バラバラとあちこちの壁が崩れていく。

 それに足を急がせたローランは、やがて最上階にたどり着いて息を呑む。

「これはこれは……予想以上だな……」

 屋根は無かった。白み始めた夜空の下、床は瓦礫だらけだ。風が吹く。明るい光の粒が目の端を掠める。

 顔を上げれば、三対の純白の羽を持った精霊が、金と銀の光の粒に紛れて消えていくところだった。

 残されたのは三人。スズと、クロガネと、彼の知らない金髪の少年。

「だ、れだ……」

 近くに倒れていたスズがゆっくりと顔を上げた。

 その赤い目が、彼の姿を認めて丸くなる。

「ロー……ラン……?」

「やぁ、スズ。元気そうでなにより」

「なんでお前がここに?」

「なんでも何も、俺が〈塔〉の主だからね」

「待てよ! まさかお前、」

「はい! ストップ!」

 ローランはスズの唇に自分の人差し指を押し当てた。

「それ以上の詮索は、禁止。俺は俺の都合でここの〈塔〉を独り占めする機会を伺ってたんだ。それ以上でもそれ以下でもない」

「ローラン……」

「クロガネもいなくなって欲しかったし、母さんの干渉も鬱陶しかったからね。ほんと、皆この〈塔〉からいなくなるから、ちょうど良かったよ」

「! まさかお前、最初から、誰も自分の身代わりにさせないつもりで……!」

「さぁ、邪魔者は即刻、この〈塔〉から立ち去ってもらわないとね?」

 にこにこと笑いながらローランが指を鳴らす。

 その瞬間、スズとその隣に倒れている金髪の少年を囲うように、紫苑の魔法陣が浮かび上がった。

「転移魔法だよ。〈塔〉の外までの直行便」

「駄目だ、ローラン! お前も一緒に〈塔〉を出るんだ! お前だけ残るなんて……!」

「スズは優しいね……でも、駄目だ。〈塔〉の主は外へ出られな」

「駄目なんかじゃない!」

 スズが叫ぶ。

 真っ直ぐにローランの目を見つめる。

 クロガネに、逃げない、と宣言した時と同じ目をしている。

「絶対、俺が方法見つけてみせる! たとえ今が無理だとしても……! 誰も身代わりにならず、お前も外に出られる方法を俺が探してみせるから……!」

「スズ……」

「だから、諦めるな! ローラン!」

 ローランは目を細めた。

 スズの目は、眩しい。声も、暖かい。

 まるで、幼い頃にスズと一緒に〈塔〉から眺めた外の世界みたいに。

 ずるいなぁ、とローランは思った。折角、色々覚悟したのに、と。

 独りになってもいいという、覚悟をしたのに。

 これじゃあ、期待しちゃうじゃないか、と。

 思って。でも。

 痛くなる胸を無視して、ローランはゆるりと首を振った。

「気持ちだけ、受け取っておこう」

「ローラン……!」

「さぁ、もう行くんだ、スズ」

「ロー、」

 魔法陣が輝く。スズの声を途中で残して、二人の姿は瞬く間にかき消える。それを笑顔で見送ったローランは、そのまま気を失っているクロガネの方に向き直った。

「さ、てと」

 片手間に指先で宙に魔法陣を描く。紫苑の光が散って、大鎌が彼の左手に握られる。

 その柄を両手で握って、柄頭をクロガネの体にそっと当てた。

 クロガネの体はもうボロボロだ。

 このままなら、手遅れだろう。

 でも、魂だけなら、自分でも救える。

「彼の者をスズと繋げ――異種移植(キセノグラフト)

 瞬間、クロガネの体が黒い光の粒になって、散る。夜の色の光は、再び吹いた風に乗る。

 ローランの頬を掠めて、暁の空に舞い上がる。

「諦めるな、か……」

 詰めていた息を吐きだして、ローランは呟く。

 空には太陽が登り始めていた。

 朝焼けが空を白く染める。

 それにローランは目を細めて。

「……ありがとう、スズ」

 朝焼けが眩しい。

 今、泣きそうなのは、そのせいに違いなかった。

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