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ソロモンズ リング -gold of King, silver of Ring-  作者: 湊波
第五章 金の王、銀の指輪 ― gold of King, silver of Ring―
27/31

まぁ、ゆっくりしていきなよ

***


 次にアーサーが目を開けた時、辺りは一面真っ暗になっていた。

 夜の闇よりも尚暗い。光なんてどこにもない。真っ暗、というよりは真っ黒。その光景には見覚えがある。

「……〈塔〉の中か」

「せーかい。流石は『ソロモンの再来』だねぇー」

 無邪気な、人を馬鹿にしたような少年の声が響く。目を、少しだけ先へ向けた。

 真っ暗な部屋に、ぽつりと人影が二つ。

 一人は、遠目から見ても分かるくらい、真っ白なウエディングドレスを着ていた。顔は薄いヴェールで隠れていてよく見えない。

 そしてそんな少女を、エスコートするかのように立つ、真っ黒な少年が一人。

 彼はスズそっくりの顔で。

 アーサーは顔をしかめる。

 クスクスと少年が笑った。

「あれぇ? 反応が薄いなぁ……あんたなら絶対、もっといいリアクションすると思ったのに」

「お前……誰だ」

「クロガネ」

 そう言って、少年は――クロガネは笑顔を歪めた。

「まぁ、ゆっくりしていきなよ」

 四方八方から、魔物の唸り声が響き渡った。駆ける音。羽ばたく音。耳障りな鳴き声。その全てがアーサーめがけて迫ってくる。

 逃げ場はない。直感した。

 けれど、躊躇いはなかった。

「ミカエル、ガヴリエル、ラファエル」

 歌うように名を呟いて、アーサーは夜闇に指先を踊らせた。魔法陣が描かれる。

 三つだ。一つなんかじゃない。一人の人間が一つの精霊としか契約できないだなんて、ありえない。


 ソロモンの再来、アーサー・スレイマンにその常識は通じない。


「――行け」

 アーサーの声と共に、魔法陣が激しく光った。

 真っ先に飛び出したのはミカエルだ。

「赤き血盟の剣」

 ミカエルの声に応じて、宙に短剣が浮かぶ。

 赤い短剣は魔物に向かって次々と飛んで行く。

 向かってきた魔物はミカエル自身が短剣を扱っていなす。

「にゃははっ! そんなンでジヴを止められると思うてるン!?」

 ミカエルの傍らを、青い光を散らして駆け抜けていったのはガヴリエルだ。

 小さな体に見合わず巨大な槌を持っている。

 おさげを揺らして振り下ろせば、地面ごと魔物が潰された。

「う~ん、俺は治療専門なんだけどなぁ~」

 二人とは対照的に、アーサーの傍で、金髪を揺らして困ったように笑うのは、ラファエルだ。

 それでも、彼の目の前では何本もの黄色の細布が揺らめき、魔物を絞め殺す。

 それだけならまだ良い方だ。中途半端に体に絡みつかれたものは、そこから腐り落ちるように、体の一部が生きたまま切断されている。

 アーサーは挑むようにクロガネを見つめた。

 しかしクロガネは、相変わらず無邪気に見つめるばかりだ。

「あははっ、なるほどね! 一度に複数の精霊と契約できるからこそのソロモンってことか!」

「お遊びは終わりだ。ボクにどれだけ魔物をけしかけたって無駄だよ」

「うん、そうだね」

 クロガネは拍子抜けするほど素直に頷いた。

 それでも笑顔は消さない。

「これで、アンタを倒せば、スズもいよいよこっち側に堕ちてこれる、ってわけだ」

「? どういう……」

「負け惜しみが一番カッコ悪いンよ!」

 魔物の群れをいなして、ガヴリエルがクロガネの元に辿り着いた。大鎚を振り上げる。

 振り下ろされるそれに、クロガネは動かない。

 だが……その後ろの少女が、動いた。


「――契約の天使の名において、命ずる」


 抑揚のない声。それに振り下ろされるはずだった槌が、ピタリと動きを止める。

 槌だけじゃない。それを操っていたガヴリエル自身が、顔を強ばらせて動きを止める。

 風圧で少女の顔を隠すヴェールが外れた。

「す、ず……?」

「あかン……!」

 アーサーが目を丸くして呟くのと、ガヴリエルが悲鳴のような声を上げたのは同時だった。

 目を伏せたまま、スズが唇を動かす。


「我に従い、敵を討て――神の召使い(ギボル)」


 びくん、とガヴリエルの体が不自然に揺れた。

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