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ソロモンズ リング -gold of King, silver of Ring-  作者: 湊波
第五章 金の王、銀の指輪 ― gold of King, silver of Ring―
26/31

そんな顔して、言うなよ

***


「……そんな顔して、言うなよ」


「っ、荒賢者(ザガン)!?」

 シエラが慌てたように声を上げた。

 そんな姿も可愛い、だなんて、今言ったらきっとまた怒られるんだろうな。頭の片隅で、呑気に考えた一ノ瀬の掌に激痛が走る。

「いっ、たぁ!?」

 シャティエルが呆れたように耳元で声を上げた。

「阿呆! どこに素手で槍を受け止める馬鹿がおるんじゃ!」

「阿呆とか馬鹿とか言うなよ! せめてどっちかにしてください!?」

「それが阿呆で馬鹿だと言うておる!」

 ブツブツとぼやきながら、シャティエルは自分の小さな掌から緑色の光を生み出した。

 光はすぐに一匹の蜂になり、血を流している一ノ瀬の掌を差して、姿を消す。

 痛みは、瞬く間に消えてなくなった。麻酔で鎮痛させただけだから、怪我が治るわけではないが。

 掌を貫通している槍を引き抜く。肉とか血とかがバタバタ落ちた。少しどころか結構グロテスクだ。

 それでも荒々しき賢者は動かない。硬直したまま、口から泡を吹いて目を白黒させている。

「荒々しき賢者!? なんで動かない……っぁ?」

「おっと」

 シエラの体がぐらりと傾いた。その体を一ノ瀬はなんとか抱きとめる。

「な、によ……これ……っ」

全身麻酔(ジェネラルアネステイシア)

「え……?」

 目線だけ上げたシエラに、一ノ瀬はにこりと笑った。

「俺の奥の手さ」

 麻酔には薬物同様、様々な投与経路がある。主なものは静脈注射だ。それが一番効率よく、素早く効果が得られるから。だが静脈注射が用いられるのは、局所の治療の時が主である。

 全身に麻酔をかけたければ、どうするか。


 答えは空気に混ぜて吸入させる、だ。


「さっき、壺を壊された時にシャティエルがまいたんだ。鎮静と不動化の効果のある気体さ。だんだん眠くなってきただろ?」

「う、そ……嘘よ……そんな、これじゃあローランを……私は……っ助けなきゃ……っ」

「〈塔〉にとらわれた息子を?」

 シエラが目を見開いた。

「どうして……それを知って……」

「いやー、それはほら、愛ゆえってやつ?」

「ふ、ざけっ……」

「ふざけてなんかないよ」

 一ノ瀬は腕の中でシエラの体を転がした。

 彼女の体が仰向けになる。

 泣きそうな顔が、見える。

「……ふざけてなんかない。だから抱え込むな。一人で追い詰めて、そんな顔すんなよ」

「あ、なた……何言って……」

「俺が、アンタを守ってやる。アンタの守りたいローランって奴も、丸ごとな」

「は……? そんなことしてあなたに何の得が、」

「えっ、だって未来の俺の息子じゃん」

 シエラが目を見開いて固まった。

 えっ、俺当然のこと言ったよな? 間違ってないよな? そんな思いで、肩の上のシャティエルに視線を送れば、阿呆、と目だけで切り捨てられて。

「……ばか、だわ……」

「シエラ、さん……?」

「あなた、ほんとうにばか……」

 シエラが目を細める。

「私は、あなたのこと、嫌いなのに……」

「いいよ、別に」

 一ノ瀬は微笑んだ。

「リスクのある恋。逆境の恋愛。それでこそ俺のロマンだから」

「なにそれ」

 意味不明ね。そう言って、ほんの少し笑って、シエラが目を閉じる。

 まもなく規則的な寝息が聞こえ始めた。

 麻酔が効いたらしい。ほっと一ノ瀬は息をついて。

「あとはあいつら次第だな……」

 顔を、上げる。その視線の先には黒い〈塔〉があった。


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