表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソロモンズ リング -gold of King, silver of Ring-  作者: 湊波
第四章 キミだから ― Not escape ―
21/31

一人だけ幸せになるなんて許さない

 結局、学園に帰ってきたのは日付が変わる間際だった。別の場所にある寮に戻るアーサー達と別れて、一人学園の中を歩いていたスズは、はたと立ち止まる。

 そういえば、寮の自分の部屋は、ミカエル達によって壊されたんだった。

「……保健室行くか……」

 とりあえず寝てから考えよう。寝て起きたら何か変わってるかもしれないし。

 ……まさかそんな。自分で自分にツッコみながらスズは再び歩き始める。

 考えるだけで胃が痛くなりそうだ。

 そもそも壊したのは俺じゃないのに。アーサーだろう。正確にいうとアーサーの精霊だ。

 一番、悪そうな顔をしていたのはミカエルだったけれど。

「……あれ?」

 そこで、スズは再び立ち止まった。

 校舎の一階の端、保健室の部屋の明かりがついている。

 不思議に思いながら、鍵のかかっていない扉から校舎に入り、暗い廊下を進んだ。

 やっぱり保健室の電気は点いている。

「シエラ先生?」

 スズは、恐る恐る扉を開けた。昼のように明るい保健室の中で、シエラが椅子に座ったまま振り返る。

 その表情はどことなく疲れきって見えた。

「遅かったわね」

「えっ?」

「今日の夜、来るように、って言ったでしょう?」

「あっ……す、すいません」

 そういえば、とぼんやりと思い出して、スズは慌てて頭を下げた。

 そんなスズを見てシエラはやっと表情を緩める。

「その顔だと、約束を覚えてたから来たって訳でもないのね。一体どうしたの?」

「えっと……いや、寮の部屋が壊れたっていうか、破壊されたっていうか」

「破壊された?」

 シエラが目を丸くする。当然の反応だ。

 スズは慌てて口を開いた。

「や、あの……っ、アーサーの精霊がなんか暴走しててっ、それでアーサーと逃げて……っ」

「精霊が暴走、ねぇ……やっぱりソロモンの再来君は規格外、ってことなのかしら……」

「あっ、でもそれは演技って、後からアーサーが言ってたんですけど」

「演技?」

「……そうしなきゃ、キミが会ってくれなかったから、って」

 スズは目を伏せた。

「俺、嬉しかったんです。あいつ、女とか男とか、関係ないって言ってくれたから。あいつだけじゃない、その後マリーと健太も来てくれて……皆、友達だって、言ってくれたから」

「……そう」

「先生?」

 シエラの返事がひどく冷たく聞こえて、スズは顔を上げた。

 シエラは相変わらず長い足を組んで椅子に腰掛けている。白衣の裾から覗く白い肌は扇情的だ。いつもと同じ、微笑みも、優しくて、でも妖艶で。

 なのに、ひどく不安を駆り立てられるのは何故なのだろう。

「スズは私との約束をすっぽかして、随分楽しい時間を過ごしていたみたいね」

「す、すいませ、」

「謝罪はいらないわ。ただそう……不公平って思っただけ」

「え……?」

「そんなに幸せそうな顔をしてるんなら、やっぱりあの時、捨てなければ良かったわ。あなたもそう思うでしょう? クロガネ」

「うん、そうだね、ママ」

 突然、後ろの扉が勢い良く開かれる音がした。無邪気で、どこか歪んだ少年の声には聞き覚えがある。

 スズは振り返った。


 デパートを襲撃した、あのフードを被った少年がそこにいた。


「お、前……なんでここに……!」

「私が会って欲しいってお願いしたのよ」

「どういうことですか!?」

 救いを求めてシエラの方を見た。しかし彼女はヒールを鳴らして立ち上がっただけだ。

 敵がいるはずなのに、笑って見ているだけ。

「なん、だよ……何か言っ、」

 後ろから腕を掴まれた。痛い。

「なにすんだ! 離せよ……!」

 スズは少年の方を振り返る。腕を振り解こうとする。

 が。

「この顔に見覚えは?」

「!?」

 振り返った先で、少年が自らフードを脱ぐ。

 その下から現れた顔にスズは目を見開いた。

 見覚えがある、なんて話じゃない。髪は黒い。けれど。


「お、れ……?」


 スズと瓜二つの顔をした少年は、嬉しそうに笑みを浮かべた。

「そっくりだと思った? ふふっ、でもねぇ、違うんだなぁ。僕らはそっくりなんかじゃない。同じなのさ。見た目も、見えないところも、遺伝子の一つまで、ぜぇーんぶ一緒。これがどういう意味か分かる?」

 ずきりと頭が痛んだ。スズは弱々しく首を振る。背中を冷たい汗が伝う。

 嫌だ、聞きたくない。そう思うのにスズの体は動かず、少年の口だけが動く。

「僕達は造られたんだよ。僕達のママ、シエラ・クロウリーに」

 少年が指差す。スズはつられて振り返る。


 あぁ、どうして今まで忘れていたんだろう。

 シエラのダークブラウンの髪。それは、あの雨の記憶に出てくる女と同じものだ。

 その顔も、声も。

 同じ、で。


「ねぇ、スズ。あなたは自分の役割を思い出すべきだわ……一人だけ幸せになるなんて許さない」

 笑みを消してシエラが呟く。

 直後、後頭部に鈍い衝撃が走って、スズの視界は暗くなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ