はつ恋
美里と再会して、早一ヶ月。奇妙とも言える再会したといえども、美里と僕は、あれから、普通に接した。美里のあの行為に疑念が無くなったわけではないが、美里と楽しく過ごせるなら、まぁ、いいや、と思ってる。
それにしても、美里の外観は変わった。小学校の時から、可愛い、と思っていたが、今は「可愛い」から「美しい」という形容詞に変わりつつある。この前、前髪を指でかきあげた時は、女性らしいその魅力に、僕は思わず見とれてしまった。たった3年でここまで変わるのかよ。
「巧、GW、どこか遊びに行かない?」
「あ、俺、部活入ってるぞ。真美も多分部活だから、美里と行けば?」
「美里と?」
それはいわゆる、デートというやつじゃ……
「なんだ、美里とデートできるのが、嬉しいのか?」
巧は見透かしたかのように、ニタニタして言ってきた。正直ウザい。
「デートかどうかともかく、美里とどこか遊びに行くよ。二人が行かないなら」
「そうしろ、そうしろ」
巧は適当に言い放って、僕は美里のもとへ向かった。
僕は美里に話しかけようとしたら、美里は本を読んでいた。
「美里、……何読んでるの?」
「これ?ツルゲーネフの『はつ恋』」
美里はそう言って、僕に表紙を見せた。『はつ恋』は僕も読んだことがある。主人公のウラジーミルの心理描写に感動したことは今でも覚えている。
美里は僕に話しかけてきた。
「そう言えば、司くんの初恋はいつ?」
「いや……まだかな……」
「えー、それはないでしょ。誰かいるでしょ?教えて教えて。」
「ホントにいないって」
誰かに対して恋愛感情を抱いたことがないのは、本当だ。ただ、気になる人はいたが。
「ぶー、うそつき」
「うるせ」
「初恋がまだなんて絶対ないもん」
美里はプイっと、そっぽ向いてしまった。
仕方なく、僕から話しかけた。
「じゃあ、美里の初恋はいつ?」
「私は、小学校の頃だよ。あの時の感情は今でも覚えている」
「へー、誰?」
美里と僕は同じ小学校だったので、誰かと言われれば当てはまる人がいるはず。
「それは、教えないよ」
「いいじゃん、どうせ昔のことなんだから」
「初恋はね、誰かに教えるもんじゃないよ。それに……」
「それに?」
――美里は遠いところを見て、優しく、そして、静かに話した。
「……私の初恋はまだ終わってないかもね」
その言葉に重みがあった。まるで、人生のすべてを賭けているかのように。
でも、僕は思った。
美里は初恋という気持ちにこんなにも幸せそうな、笑顔をするんだな。僕は初恋というものを知らないから、その気持ちも知らない。少し、美里を羨ましく思った。
しばらくして、僕は美里に話しかけた。
「そっか。叶うといいな、美里の初恋。ところでさ」
「何?」
「ゴールデンウィーク、どこか遊びに行かない?」
「うん、いいよ。ねえ司くん」
「ん?」
「司くんも早く『初恋』に巡り会うといいね」
「……あぁ、そうだな」
美里を見てホントそうだなと思った。僕は知りたいと思った。
初恋という未知なる気持ちを――。