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茜色の丘で伝えたいこと  作者: 有希
――始まりの邂逅――
5/7

はつ恋

 美里と再会して、早一ヶ月。奇妙とも言える再会したといえども、美里と僕は、あれから、普通に接した。美里のあの行為に疑念が無くなったわけではないが、美里と楽しく過ごせるなら、まぁ、いいや、と思ってる。


 

 それにしても、美里の外観は変わった。小学校の時から、可愛い、と思っていたが、今は「可愛い」から「美しい」という形容詞に変わりつつある。この前、前髪を指でかきあげた時は、女性らしいその魅力に、僕は思わず見とれてしまった。たった3年でここまで変わるのかよ。



「巧、GW、どこか遊びに行かない?」

「あ、俺、部活入ってるぞ。真美も多分部活だから、美里と行けば?」

「美里と?」

 それはいわゆる、デートというやつじゃ……

「なんだ、美里とデートできるのが、嬉しいのか?」

 巧は見透かしたかのように、ニタニタして言ってきた。正直ウザい。

「デートかどうかともかく、美里とどこか遊びに行くよ。二人が行かないなら」

「そうしろ、そうしろ」

 巧は適当に言い放って、僕は美里のもとへ向かった。



 僕は美里に話しかけようとしたら、美里は本を読んでいた。

「美里、……何読んでるの?」

「これ?ツルゲーネフの『はつ恋』」


 美里はそう言って、僕に表紙を見せた。『はつ恋』は僕も読んだことがある。主人公のウラジーミルの心理描写に感動したことは今でも覚えている。

 美里は僕に話しかけてきた。

「そう言えば、司くんの初恋はいつ?」

「いや……まだかな……」

「えー、それはないでしょ。誰かいるでしょ?教えて教えて。」

「ホントにいないって」

 誰かに対して恋愛感情を抱いたことがないのは、本当だ。ただ、気になる人はいたが。

「ぶー、うそつき」

「うるせ」

「初恋がまだなんて絶対ないもん」

 美里はプイっと、そっぽ向いてしまった。


 仕方なく、僕から話しかけた。

「じゃあ、美里の初恋はいつ?」

「私は、小学校の頃だよ。あの時の感情は今でも覚えている」

「へー、誰?」

 美里と僕は同じ小学校だったので、誰かと言われれば当てはまる人がいるはず。

「それは、教えないよ」

「いいじゃん、どうせ昔のことなんだから」

「初恋はね、誰かに教えるもんじゃないよ。それに……」

「それに?」



 

――美里は遠いところを見て、優しく、そして、静かに話した。




「……私の初恋はまだ終わってないかもね」




 その言葉に重みがあった。まるで、人生のすべてを賭けているかのように。



 でも、僕は思った。



 美里は初恋という気持ちにこんなにも幸せそうな、笑顔をするんだな。僕は初恋というものを知らないから、その気持ちも知らない。少し、美里を羨ましく思った。



 しばらくして、僕は美里に話しかけた。

「そっか。叶うといいな、美里の初恋。ところでさ」

「何?」

「ゴールデンウィーク、どこか遊びに行かない?」

「うん、いいよ。ねえ司くん」

「ん?」

「司くんも早く『初恋』に巡り会うといいね」

「……あぁ、そうだな」

 美里を見てホントそうだなと思った。僕は知りたいと思った。




 初恋という未知なる気持ちを――。




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