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茜色の丘で伝えたいこと  作者: 有希
――始まりの邂逅――
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――始まりの邂逅――

「……あれ、誰かいる?」



 僕は、茜色の丘に向かって歩き、頂上に差し掛かった所、誰かいることに気付き、驚いた。というのは、この丘に、僕は長年通い続けているのだが、誰一人会ったことがない。唯一知ってるのは、巧だけだ。一度だけ、巧を連れてきたことがあり、巧も気に入ってくれた。



 珍しいな、と思いつつ、その人は、如月高校の女子制服を着ていた。その制服はまだ、着なれたものではなかったので、彼女は、僕と同じ一年生かな、と思った。

 すると、向こうも気付いたのだろうか、僕の方に振り向いた。その人はなんと今日、ホームルームで手を振ってきた人ではないか。



「あれ…いたの?ごめんね、気付かなかった」

「あ……うん」

 突然話しかけられ、戸惑った。自慢じゃないが、僕は、女の子と会話した経験が乏しい。寂しい人生だな、僕。

「司くん。ここによく来るの?」

「うん。ここから見える夕日の美しさに、ふらりと立ち寄るんだよね、よく」

「……なんだか、高校生とは思えない変な発言ね」

「そうかな?」

「そうよ」



 よく巧たちから「おまえ、小説のセリフみたいなこと言うよな?高校生としては変だぞ」と言われるが、得てして僕は変じゃない……と思う。



 それから僕たちは、特に話すことなく、沈黙が続いた。


 

 ふと、彼女に視線を向けた。目の前にいる女性……いや、どちらかと言うと、少女は、僕よりも身長が低く、体系はは大人と言う程ではないが、発達している部類に入っている(と思う)。それよりも印象づけたのは彼女の髪だった。長く、まっすぐな黒髪を持ち、夕日の光に反射した髪の煌きは艶やかな印象を放った。顔立ちも良く、まつ毛も長く、憂いが帯びたような彼女の瞳は、自然と僕の鼓動を速めた。

 


 彼女は眉をひそめて僕を見てきた。

「……司くん。もしかして覚えてないのかな?」

「え!いや……ってどういうこと?」

 彼女に見惚れていた所に話しかけられ驚いたが、そんなことはどうでもいい。

「覚えてないって、どういうこと?」

「……うわーサイテー。あんなに一緒にいたのに、もう忘れたなんてー」

「いや、ってあれ?」

 記憶の片隅から、この少女に一致した人物を思い出した。

「昔、『お前を一生幸せにするから!』て告白したのも全部ウソだったの?あの日に誓った、愛の言葉、私は死ぬまで忘れないつもりなのに!」

「そんな風に過去を捏造しないでください。」

 相変わらずのフリーダムっぷりに苦笑をもらしつつ、僕は話を続けた。

「お前、美里だろ?」

「覚えてたの?」

「今、思い出したんだよ。美里は下の名前で呼んだからな。それよりも懐かしいな。小学校の時以来だから……三年ぶりか」

「そうね。司くんと最後に会ったのが、ずっと昔に感じる」

「そう?僕は昨日のことに思えるよ」

 


 僕たち二人は、こうして他愛無い話を続けた。美里との再会に実感が湧いてきて、何だか楽しい心持になってきた。

 

 それにしても、と僕は思った。

 

 こうして、また、美里と同じ学校に通うことになって、うれしい限りだ。小学校の頃は、よく美里と夕方頃まで遊び、時には晩御飯も一緒に食べてた。あの頃は、いつも美里といたと思う。けれど、僕たちは、校区が違っていたので、美里は別の中学校に通っていた。こうしてまた出会えたのも、何かの縁だ。もしかして……美里と付き合うことになったら……。うわっ想像しただけでも、顔が赤くなってきた。

 

 

 僕が妄想にふけていると、「ねえ」と、美里は真剣な目で僕を見てきた。

「司くんは、今楽しい?」

「まぁ、楽しいかな。中学からの友達もいるし、それに……今こうして、美里と出会い、話をしているのもの楽しいよ」

「そう……」

 変わったこと聞いてきたなと思ったが、何だがそのまま、聞き流してはいけない気がする。




――美里の真剣な目にどう、向き合えばいいか分からなかいからだ。



 


 その目は三年前までの美里なら絶対しなかった目だ。その目は一見、真剣な眼差しにしか見えないが、その瞳の奥には、妬み?憎しみ?という負の感情が渦巻いていた。




――次の瞬間、僕は一生忘れないであろう、出来事が起きた。




――美里は、辛い顔して僕に向かって叫んだ。





「何が楽しいのよ……。何でそんな、簡単に楽しいなんて思えるのよ!私なんて毎日が苦しくてたまんないよ!こんな苦しくて、辛くて、いいことのない世界なんて無くなっちゃえばいいのに!」

 

 

 一瞬、何が起きたのか分からなかった。美里が僕に向かって叫んだと気付いたのは、ほんの数秒後だった。その言葉は、まるで鋭い刃をかたどっているように思え、僕の心を深く抉った。

 叫んだ後、美里は「……ごめんなさい」と呟くように、話した。

「……司くんには、関係ないのにね。いきなり叫んで、変だと思ったでしょ。今、言ったこと、忘れてね。とにかくごめんなさい」

 美里はそう言って、この場を離れた。

「あ、ちょっと……」

 僕は引き留めようとしたが、美里は逃げるようにして、走っていった。残った僕は、美里の言葉にわだかまりりを抱き、それと……

(関係ないか……)



 先ほどの美里の言葉に、今まで会わなかった距離感に寂しさを覚えた。

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