二度目の再会
「ここに最後、来たのはいつだったかな……」
僕、倉本司は、ある丘に向かって、歩いている。その丘は、僕が勝手に「茜色の丘」て名付けているのだが、僕と彼女、霧咲美里と出会った初めての場所である。ちなみに、一度目の再会も、この丘だった。
名前の由来は、この丘から見える夕日が半端なくきれいで、晴れた日には、視界一面、茜色に覆われるからそう名付けた。
今日、ここに来たのは、理由がある。それは、3年ぶりの美里との再会のためだ。
この3年間、美里から何の音沙汰もなかったのだが、先日、美里の方から「会いたい」との連絡が入った。それで、「あの丘」で会うことになった。
美里からの約束は、僕を喜ばせた。今まで連絡が取れなかったので、不安で一杯だったからだ。けど、いざ会うとなると、何を話せばいいか分からない、という若干の不安もあった。
「……ちょっと来るのが早かったかな?美里、まだ来てないな。」
約束した時間まで10分ある。決して早すぎるわけでもないが、来てなくてもおかしくない。
ふと、昔――といっても3年前だが――の頃を思い出した。
……3年前って、僕が高校1年の時だっけ?何故だか「昔」って感じがする。
あの頃と今では思っていること、考えていることがまるで違う。昔と比べて、成長した、というべきなのだろうか?あの頃は、ただ漫然と生きててきて、目の前ににある楽しいことにしか目にいかなかったし、将来、なんてまだまだ先のことで考えたことがなった。ただ、今が楽しければいい。高校で、友達とつるんで、試験とかもテキト―に受けるのが日常だった。 あの頃の僕は、何を考えてたのだろうか?何を見てたのだろうか?多分、下らないものだったろうな。
でも、彼女は違ってたな……
美里は……毎日が、日常が苦しいって言ってたな……
そうこう考えているうちに、背後に誰かが、立っているのに気がついた。
「久しぶりだね。あれから……何年だっけ?」
「……3年かな」
「そっか、そこで何考えてたの?なんだか、たそがれた感があってちょっと話しかけずらかった」
「そう見えた?まぁ、ちょっとばかり昔を思い出してた。」
「ふーん。司くん、少し見ないうちに、おじいさんみたいになったね」
「いや、そんなことない……と思う」
昔を思い出すって誰にでもあるだろ?
「如月を出た後、何してた?」
「何してたって……言わなくても分かるでしょ?」
そうだな。再会していきなり、この話題はよくない。
「けど……司くんのこと……毎日考えてた……」
美里のすぐにでも消えるような、しかしはっきりと耳にまで届いた、その言葉は僕を戸惑わせた。美里もそうであろうか、慌てるように話した。
「あ、そういえばまだ言ってなかったね」
美里は、少し大人びた声で、けれど、あの頃と変わらない笑顔で、僕に向かって言った。
「ただいま、司くん」
「おかえり。美里」
久しぶりの再会だ。美里にはいっぱい話したいことがある。ああ、でも何から話そう。
急ぐ必要はない。僕たちには時間がある。別れの挨拶もままならなかったあの時とは違う。
さあ、行こう。僕たちはこれから、再会の喜びを噛み締めるんだ。
――ある晴れた日の再会だった。