6・釈放
取調室を出て、取調官は僕を警察署の玄関まで送ってくれた。
「君のPCには仕事のデータも入っていたようだが、もう接収してしまったので返すことが出来ない。申し訳ないが諦めてくれ」
そう言って取調官は僕の肩を叩いた。
「幸いなことに、君は顧客の情報を入れてなかったみたいだから、それだけでも救いだと思ってくれたまえ」
取調官が付け足した言葉に、僕は苦笑いをした。
僕が車寄せの階段を降りようとした時、左右それぞれの腕を警官一人ずつに捕まれて手錠を嵌められた、やたらと喚いて騒がしい男と擦れ違った。
脂ぎった長髪で黒縁メガネを掛けていて、顔全体が腫れ上がって醜く、灰色のズボンはだらしなくずり下がっていて、紺色のヨレヨレジャケットからはデブッとした腹が張り出し、その下に着ている黄色のポロシャツが今にも弾けそうだった。
「僕が何をしたというんです? どこにどんな犯罪の証拠があると言うんですか。僕は何もしてませんよ。一昨日は確かにずーっと家でネットをしてましたよ。警察はネットしていたという理由だけで捕まえるんですか! 暴力は絶対反対ですよ、公権暴力反対……」
その男は、二人の警官に取り押さえられながら警察署の中に連れて行かれた。
取調官は玄関の方を指差して言った。
「アイツだよ、君を罠に陥れた犯人というのは」
僕はビックリして玄関をもう一度振り向いた。
「え、そうなんですか!」
取調官は、僕に背を向けて警察署の出入り口へと歩き出していた。
「くれぐれも、ネットには要注意だぞ」
そんな捨てゼリフを僕に残して、取調官は建物の中に消えていった。
「大変な目に遭ったんだってなぁ」
ミートの店先で、僕はミートに声を掛けられて立ち話をした。
「あぁ。いい経験をさせてもらったよ」
僕は清々しく苦笑いをした。
「聞けば、うちの挽肉が原因だとか。それは悪かったなぁ」
ミートが済まなそうに言うので、僕は首を振って答えた。
「ミート、君のせいじゃない。全ては偶然なんだよ」
それでもミートの気持ちは収まらない様子だった。
「もう一回だけチャンスを与えてくれ。これを持っていけよ」
そう言ってミートが僕に渡したのは、またしても二キログラムの挽肉だった。
「勘弁してくれよぉ、ミート」
そう言って頭を抱えた僕を、ミートはクククと笑った。
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